表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

11.出兵

僕は行軍中に今朝のことを思い出していた。


”そばにいる”


実際には無理なんだけど、素直に嬉しかった。


だけど、僕が死ぬ時も見られるのか、と思うとなんだか嫌な気持ちになる。


死ぬわけにはいかない。

僕は、生きるんだ。2人のお母さんと、2人のお父さんのためにも。


僕は槍をもっていた。

大量生産の粗悪品。

僕の所属は第2軍第3番槍隊。


イスカは少し後方の騎馬隊で、中隊の指揮を補佐する役だそうだ。

強く、貴族というものがうらやましいと思った。


小隊長から通達があり、第1波のあとすぐ、追撃の形をとるそうだ。

ただ、まっすぐに進め、戻るな、と。


・・・聞いていない。

辺境の警備だったはず。

周りの小隊を見回すと攻撃の陣形だった。


おかしい。

これはもう警備じゃない。

主力級、もしかしたら主力を相手にするかも。

横には同じ学校の少年がいる。


そいつは泣いていた。


「泣くなよ。泣いていたら前が見えないし、無駄に体力も使うから」


僕は自分のためにもそう言い聞かせる。


「死にたくない。行きたくない。戦いたくない」

「僕もそうだよ。あんまりそんなこと言わないでくれる?」

「・・・死にたくない。行きたくない。戦いたくない」


聞きたくないな。

僕は隊列を乱さない程度に少し離れた。


突然


「死にたッ!!」


不自然なほどの大きな声が聞こえ、横を向くと、彼の顔に氷の矢が刺さっていた。

氷の魔法だ。


「えっ」


目の前で、周りで倒れていく人々。

僕も叫びそうになったとき、後ろから命令が飛んだ。


「進めぇーー!!蹴散らせぇーー!!勝利は我にあり!!」


最前線はまだ先にあったはずなのに、魔法はそんなに遠くから飛ばせるのか。

僕は素直に驚いた。


嫌だ。

死ぬ。

嫌だ。


「う、う、うわあああああああああああ」


細い槍一本だけ持って、翔太は走り出した。


++++++++++

哲也は夜中に跳ねるように起きた。

体中が汗でぐっしょり濡れていた。


今回は俺のほうが精神的に参ってると思う。

震える声、泣き声、翔太の会話。

何かが飛ぶ音、そして人が倒れる音。

誰かの断末魔の叫び。


哲也は、見えないことが、わからないことがことさら恐怖を煽っていた。

悪い想像をかきたてる。


「どうなってる。翔太は。無事か」


横で寝ていたはずの洋子も起きていた。


「走っていくところまでは見えたんだけど・・・急に見えなくなって」


洋子も心配そうだった。というより取り乱す寸前に見えてしまう。


「叫んでいたのはわかった。何かに向かっているようだった」

「翔太・・・翔太・・・」

「しっかりしろ。応援するんだろ。助けるんだろ」


その言葉に、すこし落ち着いてもらえたようだ。


「そうでした。だけど、見ているだけなんてつらい」

「確かにそうだ。聞こえても、なにもできない」


どうなったか気になって仕方がない。

眠れない。しかし眠らないとわからない。


「洋子、頼みがあるんだ。あの病院に行って、眠れないって言ってくれないか」

「・・・わかった。もうダメって、全然眠れないって叫んでくる。」


洋子はすぐに察したようだった。

私達は眠る必要がある。

着の身着のまま、外出の準備をし始めた。


俺たちもせめて一緒にいよう。

それがどんな結果であっても。

哲也は洋子を見送りながら、思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ