10.戦争
隣の国がこの国に戦線布告をしたため、競技大会は急遽中止になってしまった。
隣の国は鉱業が盛んだけど、それ以外はなにもなく、
この国の商標的価値、今の王様の基盤がほしかったようなんだ。
小競り合いはいつもあったけど。
僕たちも予備兵として駆り出されることになった。
本陣ではなく、周辺偵察警備という名目らしい。
とりあえず、胸をなでおろす。
イスカは腕が鳴る、成り上がってやると息巻いてたけど、僕にはなにもない。戦う力はなにもなかった。
それと、下手に色々な本を読んでいたから、僕が思うにこの状況はまずいとしか言いようがないんど。
おそらく、僕らみたいな高い地位の貴族でない出身は、あまり平穏な地区にはいかない。
「捨て駒」「囮」「消耗品」
この手の扱いを受けることになるだろうな。
だから僕は勝ち負けなんかより、どうやって生き残るか、を考えるだけになってしまった。
怖い。
すごく怖い。
逃げ出したい。
この学校に入る、ということは、戦時には兵として出ることを義務付けられていた。
それを放棄する、逃げ出したりすることは、不名誉であり、どんな理由があっても、家を巻き込むことになる。
多分、僕の家は商売ができなくなるだろう。
高等学校の平民出身の比率は高くない。
僕はこういうとき、とっても目立つんだ。
昨日、僕宛に防具が一式届いた。
全部中古だったけど、先生たちがなかなかのものだ、と褒めてくれた。
それは丈夫で軽く、そして刃を通しにくい材質でできている。
鎧の両肩と、兜の先には、僕の家の家紋と僕の名前があった。
こっちのお父さんも、お母さんも、こんな形で援助してくれている。
この一式も決して安くないはずなんだ。
僕の生存率を高めるために、両親はできることをしてくれている。
そして、僕が逃げたりしないことも信じて。
もし、戦場で僕が死んでも、この家紋と名前が僕だとわからせてくれる。
それは名誉として称えられ、お父さんも少し暮らしやすくなるだろう。
僕がいなくなることと、名誉がお父さんたちにとって同じだとは思わないけど。
僕はすぐにお礼の手紙を書いて送った。
あともう一つ、伝えなければいけない。
もう一つの、大切な場所に。
『
お父さん、お母さん。
もう知ってるかもしれないけど、
戦争がはじまりました。
僕はこの学校にいるので、出なければなりません。
たぶん、大変な所に、怖い所に行くと思います。
嫌だ。
死にたくない。
戦いのない場所に、逃げたい。
だけど、勝手に逃げたりすると、
こっちのお父さんとお母さんが
つらい思いをします。
それもできません。
なんで僕はここにいるんだろう。
行きたくない。
死にたくない。
』
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「あなた」
洋子は思いつめたようにまっすぐに哲也を見ている。
哲也には最後に翔太の泣き声が聞こえていた。
これは洋子には言えない。
すこし話をすり替える。
「ああ。翔太の鎧を、大人の人がほめてたみたいだ。これはいいものだ、よかったなって」
「やっぱり出るのよね。戦場に」
「洋子が見た日記はどうなってたんだ。読んだんだろう、翔太の日記」
「ええ・・・捨て駒、囮になるかもって。どうしたらいいの?」
「できることなんて・・・なにもないだろう。俺は聞くだけで、声は届かないんだ」
「嫌・・・嫌・・・せっかく、せっかく繋がり始めたのに。どうして」
「なにかできること・・・なにか」
俺は自分で否定しておいた一言を反芻し始めた。
「1度まとめてみよう」
俺はファックスに使われていたA4のコピー用紙を手にした。
書こうとした途端、洋子が口を出した。
「待って。私が書く。試したい事があるの」
「わかった。じゃあわかっている事を並べよう」
話し合いながら洋子が書き始める。
『
私達がわかっていること
1.お母さんは翔太が見える
2.お父さんは翔太の声が聞こえる
3.お父さんとお母さんと翔太が繋がるのは同じ時間の一部
4.翔太はお母さん達が見えるけど、聞こえない
5.翔太の一年は、お母さん達の大体1か月のようだけど、数時間分。
』
「あんまり分かってないわね・・・あ、そうだ」
慌てて書き足していた。
『
他に、知りたいことが会ったら、日記に書きなさい。
お父さんも、お母さんも
いつでも、ずっと、気持ちはそばにいます。
応援しています。
』