1.行方知れず
僕は井口翔太。
中学校の登校中にいきなり真っ暗な穴に落ちた。
穴に落ちている間は恐怖しかない。
ずっと続く暗闇。落下し続ける感覚。
死ぬ、死ぬ。
叫んだかも、泣いたかも。
消えていく意識の中で強く願った。
死にたくない。
帰りたい。
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梅雨に入って、雨の日が続いている。
翔太がいなくなって一ヶ月が過ぎた。
俺たちは警察署に通い、ビラを配り、インターネットであらゆるSNSをつかって拡散したが、なんの情報も出てこなかった。
いなくなった当日、途中まで当校している姿は見られたが、ある瞬間から忽然といなくなったらしい。
まさに消えるように。
「神隠し」
父親である哲也はそう独り言を言った。
母親の洋子は先週くらいから、なかなかベッドから出てこない日が続いている。
洋子が通っていたパートは、翔太の事であらぬ噂がたち、先週のうちに辞めていた。
「そんなおかしなこと言わないで。誘拐されたんです。翔太は」
洋子は誘拐であることを疑っていないらしい。
毎日のように警察署に行き、毎日のように泣いて帰ってきた。
「なんの情報もない。ひょっこり帰ってくるかもしれないよ」
「・・・なんの根拠があって」
もう何度も交わした、結論の出ない会話。
「・・・あの時、あんなことで怒るんじゃなかった」
これも何度となく聞いた言葉。
口にはできないが、俺にはもううんざりだった。
「それはいつものことだったろう、いい意味でも。何回もあったことだし、翔太も気にする性格じゃないよ」
「でも、それがなければ」
洋子の精神状態は、あまり良くない。
俺たちにとって、翔太は念願の、待ちに待った一人息子だった。
授かったのが遅かったのもあって、兄弟はいない。
それだけに、こんな形でいなくなってしまった洋子のダメージが大きすぎた。
このままだと、俺も参って共倒れになりかねないな・・・。
哲也はリビングで1人座り、テレビを観る振りをしながら考えた。
俺だって気が気じゃないが、これを言えばきっと潰し合いになる。
「とにかく、翔太がいつ帰ってきても、元気で迎えられるよう、しっかりしないとな」
これも何回もかけた言葉。
何回も返ってきたのは沈黙という答え。
翔太がいなくなって、この家がこれ程危うくなるのか、哲也は声に出そうになる気持ちを抑えてうなだれるしかなかった。
あんまり明るい話じゃないです。
普通の転生ものになってないので
そのへんご了解下さい