「雨の下」01
とてつもなく唐突だが、僕は雨が嫌いだ。
当然傘を差しても体を濡らすことがあるのが嫌だというのもあるし、誰かが泣いているような、そんな気がするから僕は雨が嫌いだ――ちょっと詩人っぽく言ってみたりする――。
それは今に始まったことではなく、ずっと昔から……子供の頃から理由も無く何故か雨が嫌いだった。そんな雨が大嫌いな僕が居るのは誰もいない放課後の教室。別に残りたくて残っているのではないのだが。どうしても残らなければならない理由があるのだ。
「あ~……傘、もう取られちゃったんだろうなぁ……」
何分僕はビニール傘しか持たないので、傘立てに置いておけば基本的に無くなっている。立派な窃盗だというのにね。それで誰かが困ることを考えて欲しい。名前を書いてやろうかとも思うのだけど、それはそれで恥ずかしい。
「とりあえず、ゆっくり待ちますかね……」
そうだ。僕がここに、教室に残って人を待っている理由を簡単に説明しておこう。率直に、素直に、純粋に、分かり易く事実を伝えるのだとするなら下駄箱に手紙が入っていたのだ。朝に。いわゆるラブレターとかいうやつが。
小さなピンク色の封筒の中に丸みを帯びた字で書かれていたのは『あなたに話があるので放課後に、教室で』だけで、差出人も分からない。かと言って誰かに相談出来るはずもなく、もやもやした気持ちで僕はこうして律儀に残っているんだ。
「ラブレター、かぁ。僕には一生縁が無いものだと思ってたけど」
悪戯かとも思ってる。相手には申し訳ないけど。でも僕にはどうもこの手紙が嘘のようには思えないんだ。……ただの直感だけど。
ザーザーと降りしきる雨の単調な音を耳にしながら待つ。
嫌な程単調だったせいか、眠気が襲い掛かってきた。
「ちょっと、だけなら……大丈夫だよね」
自分に言い聞かせ、僕は嫌いな雨の音を聞きながらゆっくりと机に突っ伏す。そこで僕は睡魔に身を預けた。大丈夫。仮眠だからね。