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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
ちょっとした狐噺2
94/155

たまには突き当りを右、の話でも (終)/琥珀色のひとりごと

 さて。そろそろいいかの。

 もう戻ってくることもなかろう。


 やつがれは術を解いて、姿を現す。


 目の前のやつはやつがれに背を向けているため、それに気づいていない。

 それをいいことに、からかってやろうと思う。

 背中から、相手の腕ごと抱きしめて、動きを封じ、耳に息を吹きかける。

 身長はほぼ一緒なので楽ちんである。普通の女子(おなご)なら届くまい。


「わっ!」


 間抜けな声を上げてやつがれの拘束から逃げようとするが、離してやる気はあまりない。


朔螺(さくら)ちゃん。離して」

「背中に乳当たってドキドキする?」


「そんなアホみたいな所まで店長さんに似なくていいから!ほーら!」

「つれないのー。椿は」


 やつがれ、人のふりして街を歩けば、男が鼻の下を延ばす美女ぞ!麗さまには負けるが。

 結構頑張って拘束し続けたのだが激しく暴れられて、あえなくからかいは終了した。

 人気のない夜の公園。乱れた衣服を直しながらため息をつくその姿。


「うっとりするほど格好いい……!やつがれは高鳴る胸のときめきが、相手に聞こえやしないか、いっそ聞こえてほしいようなそわそわはらはら」

「その遊び楽しいの?」


「心のモノローグがうっかり出ちゃうの!お前を愛するがゆえに!」

「はいはいうれしいうれしい」


 絶対冗談だと思っとる。こいつ。鈍感だから。

 でも鈍感なままでいい。気づかれたら変なことになるし。

 どうやったってやつがれと目の前のこの男は相容れぬ存在だからの。


「……ねえ、粋連さんなんか変だったんだけど何にもしていないよね?」

「ちょっと取繕(リミット)外して殺気飛ばしてやった。面白いようにビビってたの」


「えーそれなんか大丈夫?病気になったりしないの?」


「神経弱かったら泣いちゃうかもしれんの。大体対応が甘すぎやせんか?

「僕の恋人に付きまとわないでもらえますか?粋連さん」

「椿のくせに生意気な!」

 そこでやつがれ虚空からバーン登場!

「な、なんだそいつは!ナイスバディ美人!めっちゃ強そう!」

「椿、こいつ殺していいんかの」

「駄目ですよ、朔螺ちゃん、ここでは後始末が大変です」

 で椿、暗黒微笑シャラーン!

「一体なんだ、何なんだお前」

「あのですね、粋連さん神様がただ集まって騒ぐためだけに――あんなところにあんな物を作るとお思いですか?」

「何っ!?一体お前は……」

「訳あって詳細はお話しできません。知らない方がいい事って世の中にあるでしょう?一度、忠告は一度きりです。二度と僕の恋人に近づかないでください。さもなければ」

 やつがれ戦闘態勢!

「ヒィッ!おたすけあれー!」

 あのキザなやつスタコラサッサ!くらいやらんと!」


 かなり迫真の演技だったのに、椿は感動どころか感情の色が抜けきった顔をしてやつがれを見ておる。


「……現世の知識、漫画で吸収しようとするのやめた方がいいよ……?」


「人がめっちゃ心配してるのにお前は―!人じゃないんじゃが。もうちょっと痛い目合わせておいた方がいいんじゃないかの?」


「手を出された訳じゃないのに過剰にやると、却って怪しまれて踏み込まれちゃうみたいな事があるからいいの。ああいう感じで……というかやりすぎな気も……ねえ、本当に粋連さん、小春さんになんかしようとしたの?」


「したした。やつがれのよこしまレーダーを疑うんか?」

 探ってくれっていうから朝姿消してあの人間もどきを追ってやったのに。

 そして術を使う気配があった。


「そういう訳じゃないんだけど……」

「椿は大体優しすぎるんじゃ。喧嘩吹っかけてくる相手にそんなん情出して」


「多分そりが合わないだけで、悪い人じゃないんだよね……皐月兄さんと仲いいし。なんていうか、川に女の子、女の人、おばあさん、猫が溺れていて、自分が苦しい目に合って死にかけるけどそのおかげで一人は絶対助けられます、どうしますかっていう状況の時に、粋連さんも僕も自分が死にかけてもいいって思って誰かを助けるけど、選ぶ人は違っていて、粋連さんは多分その僕の選択が気に入らないというか……」


「意味が解らん」

「僕もよくわかんなくなってきた。時間があれば分かり合えるのかもしれないけど、ないからしょうがないというか。あっても面倒だからしたくないというか。とにかくおかげさまで助かりました。ありがとうね」


 好きな人に喜んでもらえるのはうれしい。

 久々に会えたのも。

 その理由が好きな相手の好きな相手のためというのは気に食わないが、そんなの気にならないくらいうれしい。


 人間だったらもう少し違う感情を抱くのかの。


「で、この服脱いでくるからちょっと待ってて」

「え、お前のために仕立ててもらったやつ。それ。今回何かあったらまずいからって、まじないよけ効果ついとるんじゃぞ!」


「えー……でも着ないし……趣味じゃないし……」

「格好ええじゃないかお前おかしいんじゃないか?」


「えー……だってなんか……黒いし……黒い服って肘とか膝の部分ピッカピカになりやすいし……」

「あっちのものをこっちに持ってくるの大変なんじゃぞ!」


「あ、ごめんごめん。じゃあありがたくいただきます……ていうかそうだよね、怖いもんね」

「失礼な。お館様は大変にお優しい」


「そっか。そうなんだ。ごめん。一方的な情報しか入ってこないからさ……楽しい?」

「まあまあ」


「そっか。よかった」

「そういや椿を呼び出そうとしたけど駄目だったって言っとった」


「そうなの?」

「妖狐と神はやっぱなんか違うらしい」


「へー。まあ、一緒にすんなって怒られちゃう話だよねえ」

「それもそうじゃな」


 話が途切れた。そろそろ帰らないと。

 用が終わったらまっすぐ帰ってくる事、と、きつく言いつけられておる。

 言いつけを破ろうとは思わない。


「もう行く」

「うん。ありがとうね。また……は、ないほうがいいんだけど」


「そうじゃな。せいぜいあのがきんちょとお幸せにな」

「何お姉さんぶってるの。小春さんの方が年上だからね」


「やつがれのほうが精神的に成熟してるもん!」

「あ、うん、はいはい。よく熟してる」


「もー!椿なんかハゲたらいい!バーカ!」

「ひどい!」

「じゃあの!」


 走って距離を取る。

 別にその必要はないのだけれど、顔を見ているとほんのすこしだけ、帰りたくなくなるから。


 ここからここではない場所へ帰るのだが、とくに呪文はいらない。

 むしろ無理矢理踏ん張ってこっちにいるのであるので、力を抜けば一気に引き戻される。


 ―――向こう側からはこれがどう見えているのじゃろ。


 聞いてみようかと思った時にはすでにここではない場所に戻ってきてしまっていた。


 やさしく

 なまぬるい

 ぬばたま


 目当ての場所はここより少し遠い。

 つま先に力を入れて、そこを目指す。

 この動きは泳ぐという動作に当たるらしい。


 両手でそれをかきわけながら、黒鉄(くろがね)の境界を目指してやつがれは進む。


本編と全然関係ないんですが、このあと椿が小手毬の兄の八汐(華奢で無駄に美しい)に事態がどう収集ついたのか説明をしながら


「そういえば粋連さん、会社の女の子に言い寄られてましたよー。ちょっと困ってました。もてますね」

「へーあいつ困った顔超面白いんだよね。私も見に行こうかなー」


って皐月が会社に粋連の顔を見に行って、嫌がる粋連が面白いから通い詰めてみたら会社内で


「鈴木一郎、美人の彼氏ができた」


みたいな噂話を立てられて粋連さんが静かに怒り狂い、八汐本人からなんで会社に来るようになったのかのくだりを聞いて椿への怒りの炎を燃やすけど、文句を言うために接触するのも嫌なので内内に閉じ込めてキーキーするっていういらん裏エピソードがあるます

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