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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
ちょっとした狐噺2
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たまには突き当りを右、の話でも (1)/???

 

 都会はめんどうくさい、


 人混みが嫌いだ。


 自分の身体にあった速度で、自分が行きたい方向に歩きたいのにうまくいかない。じっと行儀よく群れの中にいてそっと事を運ばないといけない。


 気を使いながら移動が完了して、移動したその先が人混みと呼べる場所ではなくなっても、その場所には先に大抵誰かがいるのも気に食わない。


 どこに行っても誰かいるのが嫌だ。


 こんな事を思うのは俺が人間ではないからだろうか。本性は野を駆け回る獣だ。せまっくるしい所できちんとしているのが性に合わないのだ。


『次は日本橋、日本橋』


 この、満員電車というやつもきつい。

 まあそれでもある程度規則的な動きが出来上がっているからまだましか。

 休日の人間の街の歩き方はてんでばらばらで最悪だ。

 平日と休日で人格が入れ替わっているのではないかと思わせるような。

 まあ、実際いる人間が違うのだろうが。


 そんなことを考えているうちに駅に着いたので人の流れに沿って電車から降り立つ。

 疲れた顔をした人間が、足元だけは元気に動かして各々の行くべき方向へ散らばっていく。


 俺も同じような顔をしているのだろうか。そうだったら最悪だ。

 一度目を瞑って、開く。


 背筋を伸ばして、足を気持ち大げさに広げて人と人の隙間をすり抜けていく。

 人とぶつからないように気を遣うからあまりやらない。


 が、今朝は少し急いでいるのだ。


 急いでいるが必死に走るのは嫌なのでそれなりの速度でさらに地下へ降りる階段へ向かう。

 地下鉄はあまり好きではないがこれしか目的地へたどり着く手段がないのだから仕方がない。


 目的の列車になんとか乗れそうだと安堵しかけたところで、目の前の奴が鞄の中身をぶちまけた。

 周りの人間が舌打ちやら「もたもたしてんじゃねえよ」と吐き捨て、そいつをよけるように別の人の波に割り込む。

 割り込まれたほうが嫌な顔をする。負の連鎖だ。


 加担したくないので割り込まず波にうまく乗るように移動を試みているうちに列車は行ってしまったのだが、別にそれに乗らなくてはいけない訳ではない。

 いつも乗っているのは次の列車だ。


『お待たせしました、中野行が参ります』


 大体なんで俺が()けなければいけないのか。

 よくよく考えればおかしな話だ。定刻通りにやってきた東西線に乗りこむ。


 今日もいる。

 いつも車両と車両をつなぐドアの前のつり革につかまっている女。


 黒く長い髪は横の毛がばさばさ落ちてこないように一部が後ろで結ばっている。

 髪型の名称は知らない。

 英単語の本を読んでいる。

 昨日は文庫本だった。

 それに集中しているからばれないと思ってか、隣の中年男が舐めるようにその女を見ている。


 普通、不器量な女にそんなことはしない。

 つまり美しい女の部類に入る、まだガキだが。

 制服を着ているから多分高校生というやつなんだろう。

 九段下でいつも腕時計を見て、くすりと笑って飯田橋で降りる。


 平日、毎日見る。

 存在に気付いたのは正月明けだ。


 正月にその女がそうだと知ったから。きっと今までもずっと同じ列車に乗っていたんだろう。


 知り合いの連れ合いらしい。


 俺はその知り合いが嫌いで仕方がない。

 歳が一番近いのと、名前の音の系統で連想されるらしく、その知り合いの話を聞く羽目になることが大変多い。


 年寄りの間でその知り合いは大体褒められている。

 最近の若者にしては素晴らしいとか、立派な仕事とかそんな話で褒められている。


 俺に、というか同年代の奴から見たらただ運のいいだけのやつだ。


 なんでか知らんが偶然目に留まって神に召し上げられて、ただ小間使いをしているだけじゃないか。

 実際、そこには行ったことがないが給仕をしているらしい。誰にでもできる仕事だ。

 少なくとも術の習得より難しいとは思えない。

 そこで神相手におべっか使っていればいいだけだ。

 昔は妖狐と神はそれなりに交流があったらしいから、その名残で、年寄り妖狐が神をありがたがっているから、よけいに褒めるのだろう。


 運も実力のうちと言うが、過大評価ではないかと思う。

 あの謙遜もこびへつらっているようで気分が悪い。

 そうだいっそ堂々としていればいいのにいつもへらへら笑っているのも気に食わない。


 飯田橋について、女は俺の前を素通りして列車を降りていく。


 この間顔を合わせて、正月明けから二週間、こうして同じ車両に乗っているのに一度も俺に気づく様子がない。


 バカそうな女だったから、覚えていないのだろう。

 実際バカという事だ。

 過大評価を受けているあいつの本当の力量に合った、バカな連れ合い。


 破れ鍋に綴蓋で大層お似合いだ。


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