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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
日比谷消極
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望まぬ再会

 次の年の夏の事です。


 夜も遅くなったころに常連の神様がやって来て


「やー、大変大変。そこの丸の内南地下改札の前の広場で迷子迷子。子猫ちゃんが泣いちゃってお巡りさん困ってたよー。あるんだねえ実際。親、何やってるんだろうねー」


 一瞬彼女の顔がよぎりましたが随分前の話ですし、去年にしても直接話した訳でもないのできっと思い過ごしです。他の神様が常連さんに迷子の特徴などを聞いています。


「あー、その子昼過ぎからいた。誰かを探してた」

 まさか、と思いましたが店長さんもその話を思い出したらしく「ここで右往左往するくらいなら確認しておいで」と言って下さったのでお店を抜けさせてもらいました。


 気のせいであってほしいと願いながら速足でそこへ向かいます。

 結果、気のせいではありませんでした。

 僕は親戚を装い、警察の方に謝罪を。彼女が僕から離れようとしないので疑われずに済みました。


 とりあえずお店に連れて行き、食事をさせて僕の部屋に泊まらせることに。

 店長さんに彼女の着替えを手伝ってもらったところ、見えないような場所に傷や痣があったそうです。そして家を追い出されたと。

 まだ暗い部屋が怖いという彼女を寝かしつけながら、あのとき安易に彼女を見捨てなければ、などと後悔もしましたが僕に何が出来るというのでしょうか。

 神様だって同様です。僕らは人ではないのですから。

 とりあえずここに置いて、何か方法はないか考えてみようと店長さんが仰いました。

「何せ文殊より有名なやつごろごろいるからの、いー知恵が浮かぶかもしれん」


 彼女は最初こそ人見知りをしていましたが、お客さんはまあ、神様ですから人格者というのもおかしな話ですが話しやすかったらしくすぐに打ち解けていました。

 店にかわいそうな人間の子供がいるという話を聞きつけて、暇つぶしに見物しにいらしたりですね……皆さん暇なんです。

 話を聞くに彼女の環境は別に取り立てて貧しい訳でもないらしく、彼女自身も礼儀正しくお礼の言えるいい子なんです。

「わたしがわるいんです」なんて言います。


 家の住所も解ったので、その近所の神様が様子を伺って来てくれたものの、母親が彼女を探している様子もないようです。

 あの日、僕を必死に探してくれた父の姿が頭をよぎります。


 2週間程経って、神様達も情がわいてしまったのか、ここで育てて僕に父親になればいい、などと言い出しました。その話を聞いた彼女もここにいたい、と僕と店長さんに控えめにお願いをしてきました。

 僕に懐いてくれる彼女はとてもかわいいと思っています。無駄遣いはしていないつもりですのでそりゃ、僕が彼女を引き取ることは出来ますが、学校とかどうするんですかって話です。戸籍というものがない僕が、どうやって後見人になるのやら。


 期待を持たせるのもかわいそうなので、僕らが人間でない事を彼女に伝え、一緒に暮らすことは出来ないと伝えました。

 勿論信じてもらえなかったので、僕は久しぶりに狐の姿になりまして、なんとか納得してもらいました。


 結局その時点で僕らが思いついていた方法は、彼女自身に母親に今までされた事、追い出されて親が探していない事、そしてそんな親と暮らしたくない事を公の場で告発させる事です。

 僕らの話を聞いて彼女はそれをする、と決断しました。


 そして明日出ていくことも。


 これから人の世で生きていく彼女にはこのお店の事は忘れてもらわなくてはいけません。

 それまでは毎晩添い寝してやっていたのですが、その日は別々に寝ることに。

 案の定、しかも子供なりに気を使ったのか、声を押し殺して泣いているのが聞こえてしまいました。なんといじらしい。

 いつものように抱きあげてやりたかったのですが、明日からはそうしてやれません。

 ですがそのままにも出来ませんので、僕が人ではないと今一度確認させる意味を込めて、狐の姿で彼女に寄り添いました。


 翌日彼女は「今までお世話になりました」とお礼を言ってこの店を出て行きました。

 交番までたどり着けるかついて行ったのですが、しっかり道を覚えていて、そこで事情をきちんと説明できて、泣いていました。

 された事を思い出して泣けと指示したのは僕らです。    

 母親にされた事を、あのかくれんぼを思い出しているのでしょう。

 沢山沢山、泣いていました。


 それで母親の元に戻されるようなら連れ出して、別の方法を考えようと話していました。

 姿を隠せる神様というのが居らっしゃいましたので、彼女について行って様子を見てくれたのですが、とんとん拍子に話が進み、彼女は縁続きの家に引き取られる事に。

 近所でも評判のいい方たちだという事です。


 苗字が変わって、フルネームがなんだか幸せそうなものになって、もうこれで安心だと胸をなでおろしました。



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