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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
ちょっとした狐噺1
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歳の差がおかしいけど女子会にカテゴライズしてあげてください(2)

「あ、お話中失礼しまーす。ハンバーグのお客様―」


「あ、この、この空席のとこで。ほら、おばあちゃん、ハウス!」


「……小手毬、あなたねえ……!」


 おばあちゃんと呼ばれ顔を上げた堅香子さまが若いお姉さんだったので、ハンバーグを持って来てくれたウエイターさんが激しくびっくりしています。

 びっくりされた事に気付いた堅香子さまが大変素敵に微笑んで、ウエイターさんはでれっでれです。


 なんかよくわからない感じで、ご飯が揃いました。


 因みに堅香子さまがハンバーグ、小手毬さんがステーキ、私は海老グラタンです。うち、グラタンはチキンなのでこういう所じゃないと食べられないんです。海老グラタン。

 なんとなく、みんなでいただきますをして、ご飯を。


「もう、おばあちゃんやめてって言ってるでしょ」

「何ひかたばあやをひかたばあや呼ばわりしてるくせに」


「だってばあやはボケてきちゃってるし」


 ひかたばあやさんは結構よく出てくる名前です。都内には、どれくらいの狐さんがいるのでしょうか。ちょっと気になります。椿さんに聞いてみましょうか。教えてくれるのでしょうか。


「あ、そういえば椿、結局白状したんでしょう?ごめんなさいねえあの子。そういう訳で気を付けてあげてね。小春ちゃん」

「何の話してるの?」


「え、小手毬にはお婿さんが見つからない限り無縁な話」

「……ちょっとこんな所でなんつう話してくれてんの!」


 …………何を、どう、言えばいいのでしょう………


 堅香子さまが、何を言い出したのか、解るんですが解りたくないような。です。

 それを知られているのが複雑な気持ちと言いますか……しかもその話は、昨日した話なのに。


 何故ご存じなのでしょうか。妖狐さんだからでしょうか。


 椿さんにとってお母さんのような存在だから、椿さんから報告がいったのでしょうか。


 それはとっても嫌です。

 しかも今小手毬さんにもサラッとばらされています。


 返事に困るので笑ってごまかしてグラタンを食べようと思います。椿さんからの報告パターンだったらものすごく嫌です。

 これに関しては責めたい。


 昨日、なぜか、椿さんがお仕事前にお茶でもしませんかと誘ってくれたんです。


 喜んでついていきました。しかし着いたのは東都駅八重洲地下のニュートーキョーでした。お酒を飲むところです。しかも先生までいました。気まずそうでした。既に飲んでいました。

 椿さんも何故かお酒を頼みました。一気飲みしていました。勿論私は未成年ですので、アイスティーを頂きました。おとーさんがウイスキー好きなのですが、アルコール度数が高いからちびちび飲みます。しかし、椿さんはそれをロックで一気飲みしました。


 飲みきって泣きそうになった顔の椿さんは、両手で顔を覆い、消え入りそうな声で、おそらく堅香子さまが言うところの、白状をしたのです。


「小春さん、野生動物における発情期とその期間に野生動物が何を行うか、ご存知でしょうか……?」


 一声目が、それでした。


 本当、あんなに弱弱しく、泣きそうな椿さんの声を聴くのは初めてでした。泣きながら喋っていた時でさえもうちょっとしっかりしていましたのに。

 昔うちの近所はいっぱい野良猫を猫がいましたので、多分知っていると思います。と答えた所、椿さんは自分が今その状態である、と、言ったのです。


 だから、私に、その、そういう事をはたらきたくてしょうがなくて、とっても危ないから、うちのおとーさんに協力してもらって邪魔をしてもらっていただけだから、おとーさんを責めないであげて下さいと。いう。


 いう。


 そして、春になったら普通に戻るけど、それまで椿さんはとっても危ないのだそうです。


「……有識者によると、年明けから段々危なさは抜けて来るらしいんですが、一応気を付けてください。僕と、密室で二人きりにならないで下さい……」


 だそうです。お話はこれで終わりでした。先生は何も喋りませんでした。私の方も見ませんでした。なぜ先生はあそこにいたのでしょうか。幻覚だったのでしょうか。


 つまりそういう事、らしいのです。


「そういう話にどんどん踏み込んで来るところがおばあちゃんだっつってんの。あーもう、本当血がつながってることが恥ずかしい。てかどこ情報よ」

「お母様もいろいろ情報網があります」


 あ、よかった。椿さんからじゃなさそう。


 でも気まずいは気まずいです。なんて返事すればいいのでしょう。「はい!頑張ります!」でしょうか。それもおかしな話です。


 こないだのあれも、その状態だったんでしょうか。あ、なんかグラタンより自分の顔の方が熱い気がします。

 確かにクリスマスの日の椿さんは、いつもとちょっと違う感じでした。


 でも危ないという表現は当てはまらないというか……。なんかちょっと、いつもとちがう感じにどきどきさせられたというか……


「……小春ちゃん?」

「えっ、あ、はい!」


 気が付いたらグラタン皿の海老が一匹すり身になっていました。いけません、食べ物で遊んでしまいました。そしてプリプリ感がなくなってしまいました。

 海老さんごめんなさい。


「見なさいかわいそうに」

「えー?えー。じゃあ普通の話するわ。クリスマスプレゼントとかちゃんとしたものあげられたのかしら?椿は」


「それもアウトです」

「えー?恋バナの範囲内でしょう。それと、息子が頓珍漢な物あげてないかお母さんは心配なのです」


 小手毬さんが眉を吊り上げます。その顔お母さんそっくりですね。これは答えられるので私は左手を軽く

 上げます。


「と、頓珍漢ではないです。これ、頂きました」


 左手首に巻かれているのは可愛くてシックな腕時計です。


「あ、かわいいじゃん」

「えー?かわいいけど、なんかもっと、若い女の子はきらきらしたアクセサリーがいいんじゃないの?」


「若い女の子の基準、山茶花(さざんか)しかいないんだから、知ったかぶりはやめなさい」

「そんなことないわよ。失礼しちゃう」


 確かにちょっと、そういうのを期待していた自分もいますが……でも、これなら学校にもしていけますし。いつも身に着けていられます。


「あ、でもほかにも」

「あらもりだくさん」


(かんざし)を、いただきました」

「簪」


「はい」


 そうなんです。頂いたのは昨日だったので、厳密に言うとクリスマスプレゼントじゃないのですが、なんか、頂いちゃいました。ニュートーキョー出て、別れ際に。包みを頂いて、帰って開けたら簪でした。


 昨日は電話できなかったので、まだお礼が言えていません。


「あらあ、おめでとうございます」

「は?何言ってるの母様?」


 にっこにこの堅香子さまと、眉根をひそめる小手毬さん。私の表情はどっちかというと小手毬さん寄りだと思われます。


「だって男の人が簪を贈るのはつ……今こんないい方しないわね。プロポーズじゃない」


「えっ!?」


「……いつの話よ。どんだけ昔話よ。椿が知ってる訳ないでしょそんなこと」


「あらあ、そんな事ないと思うわ。あの()、お年寄りの話に付き合ってあげるの上手で物知りだし。だって、じゃあ、何で簪って話になるでしょ」


「そ、そ、それは、多分、初詣に着物を来て出かけるって話になったからだと思います。全然、そんな……!」


 そうです、クリスマスにそんな話をしての、27日(きのう)でしたから。だから、全然そんな。そんな……ことはないと思うのです。


「あらあそうなの。ステキ。どんな柄なの?」


「ていうか柄とちゃんと合ってるの?簪」


「ああ、それ大事ねえ。男の人ってそういうの考えてくれなかったりするから」


「えーと、白っぽい、何柄って言うんでしょう……あれ……振袖なんですけど」


「あらあすてき。でも簪だけだとさみしいわねえ」


「あ、でも二本いただいてて、簪」


「難易度高くない?無理してつけなくていいのよ?」


「かわいいんでしょうねえ小春ちゃんの振袖。見たいわあ。帰る前に」


「えっ」


「何言ってんの。ちょっと」


「えー?ほら、茉莉がお世話になった挨拶もしたいし。ご迷惑かしら?」


 堅香子さまはにっこにこです。有無を言わせぬにっこにこです。私は大丈夫なんですが、家、大丈夫でしょうか。


「ちょっと電話して聞いてもいいですか?」


「小春ちゃん、言う事聞かなくていいのよ」


「小手毬は帰っていいのよ?」


「よそで何するかわかんないからそういう訳にいかないでしょう」


 ええと、二人、遊びに行くっておかーさんに連絡すればいいのでしょうか……。茉莉くんのお母さんとお姉さんが……えと、どこから説明すれば……頭こんがらがってきました。


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