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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
日比谷消極
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きみに出会う

 女性――そうです、店長さんが東都駅に開いたお店は、この国の八百万の神様がふらっと立ち寄るバーのような所でした。初めての試みだったそうです。


 物珍しさからひっきりなしにお客さんはやって来て、僕は帳簿整理以外にも給仕や管を巻いて面倒になった神様の世話をやらされ、毎日へとへとでした。


 それでも慣れてきて、お給料も人間の通貨で支払われて、住み込みだったものですから割と余裕のある、都会暮らしを満喫などもしていました。何年かがあっという間に過ぎて


 ―――あの日僕は、彼女に出会ったのです。


 お店のちょっと外れた業務で、とある場所に行った帰り道、休憩のために高速道路のサービスエリアに寄った時の事です。

 ああ、お察しの通り無免許です。ごめんなさい。


 明け方でがらんとしているのに人の気配がしておかしいなとあたりを見回すと、木の陰にひどく衰弱した子供が倒れていました。

 怪我を沢山していて、呼んでも返事がありません。あたりに家族連れのものっぽい車も止まっていません。


 ここよりはましだろうと、僕の乗っていた車で寝かせることにしました。

 子供は随分うなされて、昼ごろに目を覚ましました。なんだか随分小さいので言葉が通じるか不安だったのですが、僕のいう事をちゃんと理解して、質問に答えてくれます。


 本人は気付いていないようでしたが、どうやら母親に捨てられたようでした。

 かくれんぼだと嘘をついて子供を隠れさせ、その間に自分は帰る。しかも「鬼に見つかったら、二度と家に帰れない」などと言う呪いの様な言葉を残して。


 こんな残酷な方法を思いつくとは、人間はなんと恐ろしいのでしょう。


 なんとかしてあげたかったのですが人の世に手を出すのは良い事ではありません。

 ですがこのままという訳にも行きませんので少し騒ぎを起こして母親を他人に懲らしめてもらおうと思いつきました。


 幸い寝てくれたので、あまり得意ではないのですが、女性に化け直し親子を装って宿に泊まりました。

 置手紙と宿泊代を置いてそのまま僕だけ宿を抜け出せば警察沙汰になって母親はこってり絞られるに違いありません。

 それまでは僕が先生にしてもらってうれしかったことを子供にしてあげようと思いました。


 部屋に入るまでは上手くいって、随分汚れているのでお風呂に入れてあげようかという所で子供が女の子だという事に気付きました。

 ざんばら髪でしたし、傷だらけなのはやんちゃだからだと思ったんです。

 普通に遊んでいてはつかないような所に傷もあって、ああこれは悪意がないとつけられないものだとすごく嫌な気持ちになりました。

 こんななりをしていますが実態は獣ですので、何と言いますか、生き物のありようを真っ向から否定するような行為に触れてなんとも居心地の悪い気持ちになったものです。

 寝かせようと思い部屋を暗くしたら怖かったのか泣かせてしまい、彼女が僕にすがりついてきました。


 子供のいない僕が父性とはこういうものかと思ってしまうほど、か弱く、守ってやりたくなるような存在なのに、何の咎があってこんな目にあっているのでしょう。

 眠ってからも僕の服を離さず、寝言でお母さん、と母親を呼んでいます。

 この僕の行いで彼女の母親が改心することを切に願って、僕はそこを後にしました。


 お店に帰って店長さんに帰りが1日ずれてしまったことを詫び、その場にいたお客さんを交えて事情を吐き出しました。

 皆さん渋い顔をして、その子供がいい方向に向かうように願おうかと言ってくれました。


 神様なんだから何とかしてよと思ってしまいましたが、神様というものは、えこひいきはしてはいけないのです。


 その事は時々思い出してはいたものの記憶が薄れまた何年かした頃、お店の近くの広場で彼女を見かけました。

 遠足か何かだったんですかね。同じくらいの歳の子達と一緒に座っていました。

 髪もきれいに結んでもらって可愛い服を着ていました。ああ、良かった。

 なんだかうれしくなって、お店に帰って店長さんに報告しました。

 みんなで乾杯したのを覚えています。


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