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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
どのジャンルも最強のジョブは大体アレ
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【R15】万が一椿さんに好感をお持ちになっている方がいらっしゃいましたら、こちらの話は読み飛ばして頂きますよう。飛ばしても話は通じます

「椿くん、ボトル入れてあげようか?」


 ……今考えた事を僕は頭の中から消したいです。消えない……。


「……いいです。店長さん。棚のそこの下のところの……あ、そこです。それ取ってください」


 店長さんから受け取った森伊蔵のボトル。中身を惜しげもなく自分のグラスの中に注ぎ込みます。

 あーあ。

 なんでよりによってセンセイに。僕の生体が。

 そうです発情期なんです。12月の頭くらいから絶賛発情期なんです。

 小春さん、もういないから大声で言ってもいいんですけどそれくらいの分別はあります発情期なんです。

 つらい……

 寝ても覚めてもなんかソレ関係考えちゃうし……部屋で二人きりなんてもう無理です。外、出かけても


 あ、あそこ死角だから連れ込めるやれる。


 とか考えちゃうんです。

 もう全国性犯罪者危険ランキングがあったらトップ10に入れちゃいそうなんです。

 ノーマル強姦魔が弟子入りを希望してくるレベルですよ。来たら簀巻きにして忍野八海に一人ずつ沈めてやろうと思います。


 しかも、今、小春さん家に泊めるって茉莉くんと一緒に小春さん帰っちゃって……

 うらやましすぎる。あのガキしばく。


「つらい……!」

「ああ、番い決めた最初の年はねえ、すごいのよねえ」

「母様そういうのサラッと言わないで」


 小手毬ちゃんは頬を赤らめている。はいはいかわいいかわいい。

 今は小春さんが茉莉くん連れてって、センセイと堅香子さまと、小手毬ちゃんと、店長さんしかいません。気心知れたメンバーです。

 もう、グズグズに酔って、隣の部屋で寝よう。


「なんか、一回したら落ち着くとかあるじゃん?なさそうなの?」

「ないです……」


 多分、手加減とか出来ない。家とか帰せない。好きだからしたいというか、したいからしたいみたいな感じで。こんな状況じゃ無理。無理。したい……


「ごめん、なんか、おつかれ」

「……お心づかい痛み入ります」

「あーそーいえば外泊多いのー、冬、お前さん」

「え?そうなの?毎年なの?」


 店長さん、結構、えげつねえ話好きですよね……。


「いやー毎年こんなにはならないんですよ……もうちょっと普通で」


 もう本当、今年、そればっかり考えちゃって頭が回らないんです。泣きそうです。


「その時期の女とはちゃんと切れとるんかのー?小春になんかあったらいかんじゃろ」

「えー?」


 お酒でふわふわしてて、そんなこと思い出せないですよ。小春さんがデートしてた年から、なんかそんな気分じゃなくなってたんでひいふう……


「まあ、続けて会う人とかそんなにいませんしー」

「は?どんな関係なのよ」


 あ、小手毬ちゃんちょっと怒ってる。


「えー、なんかー、普段とちょっと姿変えて、クラブとか……あのときディスコか、とかバーとか行くんですよー。そうするとなんか、僕らの発情期感を察知するのかーそういう目的の女の人が寄ってくるんで―そのままーなだれこみー。で、朝お店あるから出なきゃいけないけど、起きてくれないから、仕事有るからお先に、みたいな置手紙とー部屋の延長料金分くらいお金払って―」

「……椿くん、サイテー」


 なんですか。

 ブイブイ言わせてたんじゃなかったんですか。センセイ。なにけがらわしいものをみるようなめでぼくをみるんですか。


 とりあえずもういいかなーって思っても向こうから更に仕掛けて来たりするんれすよ。

 悪いの僕だけじゃないですよ。

 べつに乱暴してる訳じゃないのに。

 ふーんだ。


「……でもこれ都の狐男子のスタンダードだと思いますよ。僕も皐月兄さんに最初の年に教えてもらって。うまくいかない狐もいるらしいですけど」

「誰皐月兄さん」

「えー?小手毬ちゃんの……」


 と、小手毬ちゃんに視線を向けようとして、先に堅香子さまが入ってきました。

 めっちゃ怒ってます。


「あの()は本当に……!ろくでもなさすぎる……とりあえず椿、あなたね!」


 もう、全然お説教が頭に入りません。

 浮かぶのは反省の色じゃなくて小春さんの感触です。かわいい。押し倒したい。今は絶対だめだけど。かわいい。そして辛い……


「聞いてるの、椿!」

「何一つ」

「あなたねえ!」


 はやく春にならないかなあ。発情期(これ)終わるから。


 そうしたら、小春さんと水上バス乗っておでかけするんだ。

 普通のデートしたい。そのために、耐える。頑張る。

 決意を胸に……ああ、今日の服反則だった小春さん。早く触りたい。というか揉あ、いかん。もうだめだ。

 耐えられないかもしれない。とりあえず責任取れないような振る舞いをしないようにがんばろう。ハードルそれくらいにしとこうって何考えてんだろう僕。

 絶対しない。センセイという理解者を得たし(ゴミを見るような目で僕を見ているが)、二人っきりにならないようにしつつ、小春さんを寂しくさせないように頑張る。


 おー!

 自然の本能に負けない!


 春になる前に死んじゃったらどうしましょう、僕。化けてでるのかな僕。

 性欲こじらせて死んで化けて出るとか本当に嫌なので、発情期終わるまでは生きていたい……


 ※※※※※


 翌日、小春さんと茉莉くんがお店にやってきました。茉莉くんは得意げです。


「今日、小春と後楽園遊園地行くんだ」


 そうですか。僕は仕事です。だからですよね。堅香子さまと小手毬ちゃんと4人で行くんですって。


「先に僕と握手しますか」

「意味が解らん」


 そっか。北海道あのCMやってないんだった。だっせ。北海道だっせ。


「楽しんでらっしゃいな。小春さん、行ってらっしゃい」

「はい」

「もう楽しいものな。昨日、小春と泡風呂で遊んで楽しかった!な!」


 ぱーどん。


 ぱーどんですよ。なに言ってるんでしょう。この黒柴犬。どの形態で入ったというんですか僕だってまだなのに。しかも泡風呂とか。


「小春さん、明日、小春さんちにお邪魔する予定でしたけど、朝ごはんとお昼ご飯は僕のうちで食べませんか?お母さん大変ですし、僕も小春さんと二人っきりになりたいですし。ほら……こないだの埋め合わせしなきゃ」


 小春さんはとろけそうな微笑みを浮かべます。かわいらしいです。


「はい!おかーさんに電話します!」

「うん。楽しみにしてます。お店の電話使って聞いてみてください。で、夜電話しますね」

「はいっ!」

「ぼくも!ぼくも行く!」


 やなこった。


「堅香子さまがいいって言ったらいいですよ」

「次電話して聞く」


 昨日散散叱ってるの聞き流したらいつの間にか許してもらえましたもん。だからいいって言わないです。ざまあです。


 10分後、うきうきの小春さんとしょんぼり茉莉くんは店を去って行きました。


 最近の絶不調で曇りがちだった僕の心は今、晴れやかです。達成感で満ち満ちています。

 久々にいい仕事できそうです。今日!


「……ねえ、椿くん……どうすんの……?」


 今日は12月24日、土曜日。11時。まだお店は開店前です。

 普段なら聞こえるはずもないが、今日はまあ、いてもいいんです。昨日あの後夜中の3時まで飲んで、カウンターに突っ伏して寝ちゃって今起きたらしいセンセイが、僕をじ――――――っと見てきます。

 質問の意味がよくわかりません。


「え?」

「……もう肚決めたんじゃろ……あんま飛ばしすぎないように気を付けておやり」


 カウンターの中の床から、今日お休みのはずの店長さんの声も聞こえます。3時まで飲んで、床で寝てしまいましたからね。

 引きずり出すの面倒なのでそのまま転がしておきました。僕はシャワー浴びて自室で寝たので寝起きスッキリです。


「肚って」

「え、だから、発情期のせいで二人っきりになるとやばいんでしょ。なのに二人っきりになるんでしょ。昨日の夜絶対手出さないって宣言したのに。でも、今日は小春ちゃんの笑顔の為に頑張るって事でしょ」

「あ―――――――!」

「えーノリで言っちゃったの……ノープランなの……?バカなの……?」


 だって茉莉くんが、茉莉くんが……


 対抗意識が一瞬で炎上しちゃったんです。口が勝手にうごいちゃったんです。

 どうしよう……でも……小春さんと一緒に過ごしたいのは本当で……クリスマスケーキより小春さんをお召し上がりたいのも本当で……しかも小春さんいつもなすがままなのがいけないんですよ……小手毬ちゃんくらいびしっと言って抵抗してくれればいいのに……ああこれ責任転嫁だ。


 どうしよう。どうしよう。


「手前、耐えきれないに一万かけよう」

「ボクもそっちがいいよ。ボクに邪魔する事を要求してきて、でも到着したころにはなんか家鍵かかってるに一万」


 好き勝手言いやがってこのゲス神ども。


 逆ギレしている場合ではありません。小春さんに僕のこの発情期(じょうきょう)、ばれる訳にはいかない。恥ずかしくて死ねる。ばれないように、かつ小春さんを幸せな気持ちにしつつ、僕の性衝動をよそに逃がしつつ、小春さんのおねだりを遂行……


 出来る訳がねえ。


 あー。でも、小春さんのかわいいを封印すれば、あるいは……?

 顔にひょっとこのお面をかぶせて、肉襦袢を着せて、抱いて、キス……変な性癖持ってるって思われたら嫌だな。えーどうしよう!

 どうせ今日暇だし、ちょっと色々考えよ……


 ―――その時、お店の、玄関扉が開きました。

 隙間から顔をぴょこっと出したのは三四郎さんです。


「なん、どーしたんじゃ」

「男子会してる気配がしたから、混ぜてもらいに」


 隙間に顔が増えました。


「わしも」

「某も」

「わらわも来ちゃった」

「よく考えたら、そんなに目くじらたてる事じゃないしの。我々も祝ってくれよう、クリスマス」

「一度買ってみたかったんじゃ。パーティーバーレル」

「秘蔵のシャンパン持って来た。シャンパンタワーやろう」

「おお」

「すばらしい」

「あー……ええのー。やろう」

「麗さまはお帰りにならないと怒られますよ」

「もーええ。帰ってもガミガミ、帰らなくてもガミガミ」

「つるんでいる我々は腐っても神々」

「おや座布団一枚」


 好き勝手喋りながら、常連共が店になだれ込んできました。楽しそうです。

 店長さんもノリノリでジュークボックスを操作しだします。

 流れ出したのは今年一番流行しているクリスマスソング

 ‘All I want for Christmas is you’です。


 今年何回これ聞いて舌打ちしたか……まだ苦しめるのか……僕を……マライアめ……!


「つまみたらんの」

「椿、塩辛食いたい」

「フラポ、一緒ににんにく揚げたやつ」

「……えーせめて開店してから来なよ」

「なんじゃいい子ぶって、このボクちゃん眼鏡」

「そーじゃそーじゃ、流行ってるからっていい気になりおって」

「僻みはみっともないよ?おじいちゃんたち?」

「ああほんとうかわいくないの―」

「なー」

「椿はかわいい」

「かわいいの」


 肩に置かれた神様の手を静かに払いのけます。誰の手だろう。いいや興味ないし。


「僕も普通にクリスマスしたいんです……なんで、なんで」


 予定がどんどん狂っていきます。ゆっくり瞑想して欲望を飛ばしながら明日へコンディション整えようと思ってたのに。

 思ってたのに。

 何このありさま……。


「椿、すまんすまん。足りないもんは大丸で買ってくるから。今日はのんびりおし」

「千疋屋のゼリーも買ってきてやるぞ。好きじゃろ」

「みはしのあんみつか」


 いりません。高級スイーツと神様じゃ僕をハッピーにできないのです。欲しいのは小春さんだけです。

 そういう話ですよね。マライアさん。


 ふつうに早めおうち晩ごはんとか食べて、表参道のイルミネーションを見に行きたかったんです。クレープ食べちゃったりして。家帰ってからプレゼント交換とかしたかっただけなんです。ありがとうございますって抱き着いてくる小春さんを受け止めて、抱きしめあうだけでよかったんです。


 今の僕だとごはん作ってる途中で味見と称して小春さんを押し倒します。表参道に出かけるはずなのに予定と違う電車に乗り換えて錦糸町のラブホに連れ込むと思う。クレープを食べる口元に欲情して道玄坂の(以下略)。満室そうだったら意外と空いてそうな五反田の(以下略)帰ってプレゼントの包みをほどく小春さんの衣服をほどくと思う。なんかブラとか引きちぎる気がする。僕。


「椿」

「もう神様たち帰って……破魔矢とかお守りの準備とかすればいいじゃないですか……来年の……なんで僕ばっかり……こんな……こんな……普通に幸せになりたいだけなのにい……!」


 涙出て来ちゃった。もう。涙と一緒に流れ出てくれないかな、この欲望。

そうだったらいいのに。

あとからあとからわきあがる。涙と欲望。もうやだ。

 父もこんなだったのでしょうか。ああ、母妖狐だからなんの問題もなくスムーズにごにょごにょですか。

 うらやましい超うらやましい……でも小春さんじゃなきゃ嫌なんですう。


「椿くん、あのね最近は、業者発注なんだよ。破魔矢とか。お札もボク書いてないし。ていうか社務所の人ボクの存在ことしらないし」

「いらねえんだよその注釈。このバカ眼鏡。人間性ばれて人間にそっぽ向かれちゃえ。バーカ。眼鏡割れろ」

「ひっど!」


 八つ当たりな気がするけどしらねーよ。神様なら許せよ。いや、今日は全部罪を持ってってくれる人の誕生前夜だ。僕のもお願いします。僕の邪まな心持ってってください。

 無宗教だけど、洗礼うけた瞬間に性欲消えたりしないのかな。しねーな。えげつねーもんな。西洋。

 ブちぎれたくならないんでしょうか。向こうの神様って。

 本当にもうやだ。


 救いってどこにあるの。三越に売ってないんでしょうか。

 いくら出しても買います。渋谷区に一軒家買える金を全部つぎ込みます。


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