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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
どのジャンルも最強のジョブは大体アレ
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そんなに思う通りには行かないのですよ→/椿

「ほら、がきんちょ共には一応、買っておこうと思って。クリスマス、的なやつ」


 さすがお姉ちゃん。というと「うるさい!」と怒られそうなので黙っておきます。

 今日機嫌悪いな小手毬ちゃん。まあねえ。いくら彼氏いないからって適当なにくっついておけよって僕あてがわれたら、そりゃ小手毬ちゃんも怒りますわ。


 小手毬ちゃん、ちょっと気難しいですが、好きなもの見つけた時とかはしゃいだりもするからかわいいのに。まあ余計なフォロー入れないほうがいいです。

 僕、女狐心がよくわからない、「全然駄目!」な狐らしいですから。


 泡沫さんところの翠雨さんが、いい所の若様を見つけた、すごい花嫁衣装貰ったって報告しに来てもらった時に、お祝いと「それはきれいなんでしょうね。お婿さんがうらやましい」って言ったら、何故か泣かれてしまったんですよ。号泣ですよ。

 ふつうの会話ですよね。ウエディングブルーってやつですかね。

 あ、お婿さんがうらやましい、がだめだったのか。そうか。僕ごときが、的な感じか。


「フラフラ歩かないの。こら椿」


 指摘は適切ですが、やっぱりとげがあるような。

 女王様にかしずく忠実な臣下よろしく、大人しく付き従っておくのがベターです。


 池袋から丸ノ内線に乗って銀座へ。

 向かう先は博品館です。


 僕、結構好きなんですよね。たかが玩具とバカにするなかれ、最新技術が使ってあったり、シンプルなのに奥深いものあったり。

 なによりここには、人を喜ばそうという気持ちから生まれた物しかない。


 どんな方がこれを作っているのかな、と想像しながら商品を見ていくのは大変に楽しいです。

 クリスマスシーズンですから、少し遅いこの時間帯なのに博品館は混雑しておりました。

 お店から出ていく人が持つ包みひとつひとつが、これから誰かの笑顔の素になるのか、と思うとなんだか不思議です。


「何買うか決まってるの?小手毬ちゃん」

「最近の玩具事情に詳しくないのよね……詳しい?」


「まあ、まあ。しかし茉莉くんがよくわからないからなあ。普通の4歳よりもしっかりしてるよね?」

「そうね。あんたもあれくらいの頃には一通り出来たでしょ?」


「まあ。一通りというか人変わりしか出来なくて、他に何か出来ないか色々試させられてたから、茉莉くんよりだめだけど。玩具とか竹とんぼとか紙風船ですし」

「昔か。ああ、まあまあ昔だわ」

「まあ、場所も場所でしたからねえ。店長さんにこっち連れて来てもらって初めて玩具屋さんというものを見ましたし。更科さまの家連れてってもらうと、庭に竹馬があって楽しかったなあ……」


 子供の頃を思い出します。

 父と母がいて、住んでいたのは山の中でしたから今よりずっと不便ですが、それでも幸せな日々でした。僕は両親に感謝していますが、彼らはどうだったのでしょう。

 たまに帰れば小言もなしに手放しで喜んで迎えてくれましたが、やっぱりさびしかったでしょうか。ちゃんともらった愛情を返せていたのでしょうか。


「あー茉莉そうかー。絵とかヘッタクソで幼児なんだけど……あの子ちょっと特殊だし……知恵の輪……?」

「いくらなんでも渋すぎるでしょう。パーティーゲームとか買って、みんなでやれば?黒ひげ危機一髪的なやつ」

「あー」


 そうそう。小春さんと僕とセンセイでやりましたっけ。彼女がお店で暮らしていた時。


 そうか、今の茉莉くんになんか親しみ覚えると思ったら、出会った頃の小春さんと同じくらいの大きさだったんだ。

 背丈は同じくらいだったけど、もう少し軽かったな。


 あの時、僕が彼女を連れて帰ってしまえばよかった。

 そうしたら、そのあとまたひどい目に遭わないですんだのに。


 定期的に、僕の中に湧き上がる後悔です。思い出させたくはないから聞きませんが、体が大きくなるにつれ、激しくなったらしいという事は知っています。


 どんなにつらかっただろう。

 ぶつける先のない――本当はあるんですけど――怒りをどうにかやり過ごさないと。


 過去を振り返ってぐずぐずする暇があるなら、明日の事を考えないと。今腕の中に居てくれる人の事を、笑顔にする事を考えていたい。


「ねー上まで一気に上がって、順繰り見る感じでいい?」

「あ、はい」


 小手毬ちゃんその方式好きですよね。

 博品館はエスカレーターがないので、エレベーターの列に並びます。幸いすぐに乗り込めました。この古めのエレベーターっておちつきますよね。

 そうだ。軽めのサブプレゼントならいいかな。お菓子とか。


「そうだ、もう一件寄っていい?」

「どこ?」


「オレいっちばーん!」

「こら、走らないの!」


 二階についたとたん、手前に乗っていた男の子が走って飛び出して行きました。お母さんが追います。元気だなあ……


「資生堂パー……」

「……何で止まったの」


 そっか、小手毬ちゃん、見えなかったのか。エレベーターの外に、小春さんとセンセイがいたんです。目が、合いました。

 合って、そらされました。

 扉が閉まります。


「今、小春さんが――ごめん、ちょっと行ってくる」

「あ、うん」


 三階の釦を押そうとして間に合いませんでした。エレベーターを四階で降りて、階段へ向かいます。知らず知らずのうちに僕は駆け足になっていました。


 なんで。


 予想していなかった所で会ってしまった事に動揺しています。小手毬ちゃんから見えなかったようですが、彼女からはどうだったのでしょう。もし見えていたら。


 今日は堅香子さまの接待だと言ってあるのに。嘘をついてまで小手毬ちゃんと会っていると誤解されたのでしょうか。


 あと、なぜかセンセイが小春さんの髪に触っていました。何しとんじゃボケ眼鏡、です。

 どうしてあんな悲しそうな顔だったのか、今日もかわいい。というかその服見た事ない。


 頭に泡のようにいろいろな思いが沸き上がってくる。しかしそれは泡のようには、はじけて消えてはくれません。


 沸いて。

 沸いて。

 沸いて。


 内側で際限なく増殖していく。もうとっくに容量オーバーです。

 喚いたりすれば少しは楽になるのでしょうか。


 逸りすぎてもつれそうになる足をコントロールしながら二階へ。フロアをざっと見回しても小春さんはいませんでした。


 通り過ぎざまちらっと見た三階にもいなかった気がします。なので一階へ。


 ごった返す一階にもいませんでした。センセイは背が高くて目立ちますので、いたら、すぐにわかるはずです。


 この短時間で、どうして。

 ―――避けられている?

 目の奥が一気に熱くなりました。

 僕、なんてバカだったんだろう。


 小春さんもこんな気持ちだったのかな。どうにかなりそうだ。ここまで心がつぶれそうになるほどの事だったとは。


 会いたい。


 もっとちゃんと謝らないと。


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