人生楽しそうで宜しゅうございますね/堅香子
計画通りだわ。計画通り過ぎるわ。
泡沫ちゃんが尾行について来たいって言い出した時はどうしようかと思ったけど、なんとかなったし。
いえね、泡沫ちゃんはほんとうに楽しい狐なのよ。ただ、人間に化けると、ちょっとお洋服が派手なのよね。多分小手毬と椿に見つかっちゃうのよね。
そうするとデート、台無しじゃない?
なんとか解ってもらえてよかったわ。今日の結果は夜、電話して報告ということになっているから、忘れないようにしなくっちゃ。
それにしてもいいじゃない、二人共。実際はあれだけど、お似合いの同年代カップルじゃない♡
小手毬は「そんなんじゃない」って言ってたけど、椿と二人でいるとき、他の狐といる時よりあなたの態度が柔らかいと母は思うのです。
その手袋を買ってもらいなさいな。あー!悪態ついた!
何を話しているのかしら。このフロアとフロアのはしっこじゃ聞こえないわ。女の人のおしゃべりばっかでうるさいし。術を使ったら小手毬は勘づくからだめね。
まったくわが娘ながら、手ごわい。
そしてあの強情さ、誰に似たのかしら……
「かあさま」
コートの裾を引かれて振り返ると、茉莉がこちらを見上げていた。
ああ、そういえば小手毬もこんなだったのよね。よく袂をつんつん引かれましたとも。
「ごめんね。お腹空いたかしら?」
「大丈夫です」
あれももう百年以上前の事。これから小手毬はその倍どころじゃない時間を生きていくけど、椿はそうじゃないでしょう。
後悔した瞬間に時間が巻き戻る世界じゃないんだから、もう少し素直に―――
「かあさま」
「なあに?」
「おなかはだいじょうぶなんですが、とっても、ねむい……です」
「―――え?」
しまった!今日お昼寝させてなかったんだわ!この子まだ小さいから寝ると、変身とけて狐に戻っちゃうのよ……えー?どどどどうしようかしら。
しかもこんな時に限って、小手毬たち西武出てどっか行こうとしてる!?えー!
「かあさまあ……」
ああ。頭ぐらぐらしだした。これ、これもうあと五分くらいで寝る。この狐、寝るわ。
「頑張って茉莉、お手洗いまで頑張って。母様も頑張るから頑張って!」