昔はかわいかったのね、君/茉莉
「あ、よかったわ!まだだった!あらーやっぱりいい感じじゃない!絵になるわ―」
そろそろ4時だ。今日、おやつ食べてないなあ。
ぼくとかあさまは、今、ビルの屋上にいる。
そうしてそこからとても大きな建物の様子をうかがっていた。普通の人間なら見える距離じゃないが、ぼくらは妖狐なので、遠くを見ることができる。
その建物から小手毬ねえさまと、椿が出てきたとたん、かあさまはひどく喜んだ。
「いい感じって、なんですか?かあさま」
「うふふー。椿が、茉莉のお兄さんになるかもって事。小手毬のお婿さんになって!」
「えっ!?椿がですか」
「さんをつけなさいって言ってるでしょう」
小手毬ねえさまは格好いい。術も上手でお強い。椿と全然似合わない。
でも、さっきまでお邪魔してた泡沫おばさまも「椿、うちの婿に欲しかったのに―」と、おっしゃっていた。
「椿のなにがいいんですか」
「椿のいい所はほんとうに沢山あるんだけど、一番は顔です」
かあさまはとっても真剣な顔だった。
「えー。あにさまたちのほうが全然かっこういいじゃないですか。革ジャン似合うし」
「ああ、人間に化けている時はそうね。造作は悪くないのにうすらぼんやりしてるのよね。化けるのがへたうまよね。そうじゃなくて、狐のとき、あの子それはもう美形なのよ!椿のひいひいおばあさまの科戸って方そっくりでね。もうその方がわたくしよりずうっと年下なのに、なぜか「お姉様♡」って呼びたくなっちゃうような素敵な方で……」
かあさまは盛り上がっている。
「かあさま、番いって、好きな人とならなくちゃいけないんじゃないんでしたっけ」
「もちろんそうよ。でも、小手毬は椿の事好きだから、後はあの子が勇気出して押せばいいだけだと思うのよね」
「え!?小手毬ねえさまがですか!」
「そうよ。椿より小手毬の方がうーんと年上だから、恥ずかしくて言えないだけなのよ。ばかねえ。愛に歳の差なんて関係ないのに」
小手毬ねえさまも椿の事が好きなんて。そんなに格好いいのだろうか。狐の椿。
「番いになる相手の顔って、重要ですか」
「えー?……あら……よく考えたらそうでもないわね……お父様そうでもないものね。一番は一緒にいてうきうきするかだわ。見目が良いのは、あったらいいけど、ないならないでってくらいの要素かしらね。カレーの福神漬けくらいのものです。だって茉莉、椿に遊んでもらうの、楽しいでしょう?」
「……小手毬ねえさまとは、椿、似合いません」
ぼくが言うと、かあさまは「ふふ」と笑った。
「似合う似合わないじゃないの。本人達が幸せならそれでいいの。あら!解散しないで二人でどこか行くわ!後をつけるわよ!茉莉!」
椿は、ぼくが最強の妖狐になるために倒さなければいけない当面の敵だ。
あにさま達は強すぎるから。べつにやっつける訳じゃなくて、術とかそういう事で勝つとかそういうことだ。
この間ぼくは、椿より先に番いを見つけると宣言した。小手毬ねえさまと椿が番いになっちゃう前に、ぼくはぼくの番いを見つけられるだろうか。
一緒にいて、すっごくうきうきする、そんな相手。いるのかな。
いままで会った狐の中にはいなかった。
だから、ぼくはきっとこの勝負で椿に負けてしまうんだ。ものすごく悔しい。