門前仲町小夜曲/暇を持て余すのは趣味じゃない神々の、雑談
そもそもボク東都駅自体も結構好きなんだよね。
なんていうんだろう。新宿駅だとさあ、なんか右も左もわからない人に対して慣れてる人が「どいたどいた!」みたいな感じあるじゃない。
ここは始発列車が多いせいか、そういう人に寛容な雰囲気があるんだよね。
お勤めの人もお出かけの人も利用する人みんな、ちょっとよそいきに振舞ってるっていうんだろうか。そんな感じ。
人の波をすり抜けて、丸の内地下改札を左方向に抜けるとそのドアが。
こーんなに目立つところにあるのに、駅員さんの目の前で入った事もあるのに見とがめられたことないんだよね。どういう術なんだろ。
ボク神様内ではまだペーペーだからそういうのは見当つかないんだよ。
レンガのトンネルを進んで今日は左。
板チョコに似たドアを抜ければそこは異国風のバーなのですよ川端くん?
カウンターの中には開店準備をしている麗ちゃんが。
「おや、行儀悪い。まだ開店前じゃぞ」
麗ちゃんは今日も美人さんで結構な事です。
「今日はお客さんじゃないもの。麗ちゃんに聞きたいこと聞いたらすぐ帰るよ」
「なんじゃ思わせぶりじゃのー」
「あのさー、麗ちゃんて人の寿命視られるの?」
「手前はそんなことはできんの」
「椿くん、なんだけどさー」
椿くんって、自分が人間にしか化けられないから自分を最下級の妖狐だと思っているらしいんだけどさあ、普通の妖狐って人間にずっと化けていられるの一日が限界なんだって。
下級だともっと短いらしい。
術の維持が技術的に難しくて映画みたいに栄養ドリンクじゃどうにもならないという。
で、ボク椿くんが狐になったの見た事ない訳さ。小手毬ちゃんもないらしい。
というか必要がないと元に戻ったりしないんだって。
そういう、化けっぱなしが出来るのって上級の妖狐なんだって。と言っても上級の中では大して重要なスキルな訳でもないらしいけど。
だから、色々こう差っ引くと椿くんもご両親と同じくらいの命、といってもあと10年はないけれど、まあそれに近いくらい行けるんじゃない?と思った訳さ。
僕の話を聞いて麗ちゃんはにこりと笑って
「そーじゃと助かるんじゃがのー。手前ひとりでは店が回らん」
と。言うだけ。どこまで知ってるんだろうなあ、この人は。あ、そうだ。
「そもそも麗ちゃん、どうやって椿くんの事知ったのさ」
グラスを磨く麗ちゃんは意地悪そうににい、と微笑むんだけどまあおっかない事。
さすが有名な神様だけあるねー。
「それこそ、神のみぞ知るってやつじゃ」
またかわされちゃった。
「お前さんもなー、神なんだからあんまり手を出しすぎてもいかんぞ。特別贔屓すれば、他の者がへそをまげるのが世の常じゃ」
「ボクはそういうのが本業じゃないからいいんだよ。だってさー、ひどかったじゃん他の神様連中」
「……まーそーじゃが」
あのね、あれですよ。神様連中もなんだかんだ椿くんのこと気に入ってるからさ、彼の幸せを願っている訳さ。
だから意地はってないで、とっとと行けよって事になって背中を押してやるかみたいな事を話してたんだけど内容が『椿くんを前後不覚になるほど酔わせてそこに小春ちゃんをおびきだせばあとはなんとかなる!』みたいな内容でさ!
うーん、ゲスい!
というかまああの人達の感覚だと、開国がこの間みたいな感覚だから、その頃の常識に当てはめればしょーがないのかもしれないけれど現代においては犯罪すれすれだからね!
そんなんでそんな状態になってあの真面目な椿くんが幸せな訳ないでしょ。
だからさーしょーがなく若手で、最近のトレンドを学ぶことを怠らないこのボクが面白そうに引っ搔き回してる体を装ってだね、まあ楽しかったんだけどね!
で、椿くんの後押しをしていた訳さ。
神様連中もめんどくさがりだから、あいつががやるならいいかーみたいな感じなの。
それにしても、盛り上がりもなさそうな感じで、ふっつーに成立したみたいだけどよかったのかな。ちょっと拍子抜けしたけど。
まーでも、実際の恋愛なんてそんなもんだよねー。ていうか椿くんこん負け、したよね。
あー、今度言お。忘れないようにしないと。
その結果何だかボク……小春ちゃんにちょーっと嫌われた感じがしないでもないんだけどさ……
い、いいよ別に。
ボク近年最も崇められてる神のひとりだし。
いまさら、小娘一人に虫けらを見るような目で見られても全然……全然気にしてないんだよ。
ホント、気にしてないから。