門前仲町小夜曲/神、珍しく聞き役
ボク、バーが大好きなんだよね……!
こだわりのある内装に、落ち着いた雰囲気。お酒を、って言うのもあるけどなんていうんだろうね、『場を楽しむ』みたいなところあるじゃない。バーだけに。
「麗さん、〆(しめ)張鶴もう一杯くらさい」
コン!とカウンターを叩くグラスの音のほうに視線を向ければ小手毬ちゃん。
元々美人さんだけど今は陰のある感じがいいね。でもその飲み方ガード下のオッサンだからね。バーの飲み方じゃないからね。
「……小手毬ちゃんさあ、椿くんの事好きだったよね?何で行かなかったの」
そうだよ。あの椿くんが小春ちゃんを突き放したときとか行っておけばよかったのに。
「あのれすね、そんなに簡単じゃないんれすよ、人間のらんじょじゃあるまいし」
ろれつが。小手毬ちゃんろれつが。
「そうなの?」
「そーれすよ」
小手毬ちゃんは手遊びでぐにぐにになったコースターを更に折り畳みつづけたり。
「えーと……どこからどう説明すればいいんでしょう。確かに椿はれすね、わたしに求愛してくる有象無象みたいな妖狐よりはるかにいいれす。驕ったところないし、思慮深いですし、ジブリ好きって言っても『アニメって!子供!?』とかバカにしてこないれすし、しかも兄様達ほどじゃないですけどそこそこ強いじゃないでしか」
「あーそうだねー」
って、相槌うつけどボクは妖狐ってやつは小手毬ちゃんと椿くんしか見た事ないんだよねえ。なんかお店に他の妖狐来てたらしいね、聞いた話じゃ。
とりあえず、椿くんを同年代の人間の男に当てはめるとそうかもねえ。
地味だけどなかなかやるってタイプ?えーとシティーハンターでいう所の槇村だよね。
あ、お兄さんのほうね。
「そうですちょっと好きれした。でもれすね、このまんま交際したりするとですね、その有象無象からのやっかみが全部椿に行くんですよー……」
「あー」
人間しかわからないけど、男の嫉妬もなかなかえげつないからね。女々しくて、なんて言葉もあるくらいだし。ボクも結構食らったことあるよ。辛いよ?
「椿はそういうの、当てこすりされても多分わたしに言わないですし、わたしがかばったら変になるし、でもわたしは知らないふりは出来ないですし、というとうまく行かないんですよ。多分。しかもわたしより大分先に死んじゃいますしと小春ちゃんみたいに突き放されてたんです、きっと」
うまくいかないんですよ、ともう一度小手毬ちゃんは繰り返してグラスの中身を飲み干してカウンターに頬杖。
「……小春ちゃんは、すごい」
「椿くん、意外と強情だもんね」
どんな手を使って籠絡したのやら。まあ、当人のみぞ知るっていう事で。
もしくは椿くんに聞いてみるのもいいかも!
図星ついたとたんに顔真っ赤にして怒るに違いない。かまかけてみよーっと。