いと惑う六回目/大切になればなるほど
良い天気。
軽蔑されてもしょうがないような事をしたのに、笑って許してもらって
なんだか楽しい場所に来て。ちょっとぼうっとしてしまいましたが、途中軽く雑談した感じ小春さんもこういう所、好きみたいで。
あと博物館も好きなんですって。
僕も好きです。映画の感想も結構合うしきっと趣味が近いんでしょうね。
またお弁当作ってもらってしまって。
たまご、ハムと胡瓜のサンドウィッチ、ベーコンとチーズだけホットサンド
あとフライドチキン。
水筒にはアイスコーヒー。
美味しかった。
右手にぬくもりを感じて、そちらを見れば僕の小指をそっと小春さんの手が握っています。
心配そうにこちらを見つめる黒い瞳。
このままきみの手を取って、僕のこの気持ちを伝えられたらどんなにいいだろうか。
喜んでくれるのかな。
僕のどこが好きなのかちょっと聞いてみたい。
そうしてきみのどこが好きなのか一つも漏らさず伝えることが出来たら。
ああ、うまく自分ごと騙してやるつもりでしたが、結局無理でした。
友人のままちょくちょく会って、いつか僕が死んだときに、きみが涙を流してくれればそれでいい、なんて思っていたんです。
けれどきみと過ごす日々はあまりに楽しくて。
過ごした時間の分だけ僕の中のきみの居場所が増えていって。
これ以上、僕の気持ちを隠して同じ時間を過ごすことは出来ません。
所詮下っ端の妖狐には上手くいかない計画だったんです。
なんていう無様な結末。
逸る心臓を静めて。
言葉がきちんと伝わるようにその黒い瞳を見据えて。
早口になったりしないようにこれから言うべき台詞の確認を慎重に行います。
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ずうずうしくも、また椿さんに触ってしまいました。
でも心配なんです。
考えたくないですがお身体の事もありますし。
もう一度、好きだという気持ちを押し付けてもいいのでしょうか。
迷惑でしょうか。でもそれ以外に私は言葉が思いつかないのです。
椿さん。
「小春さん」
とても静かな声でした。
呼ばれて顔を上げると、静かに笑う椿さんがいました。
私の目をまっすぐ見つめています。
「手を、放していただけますか。ちょっと不快です」