五回目のゆさぶり/夢だっつってもさあ
あれ、また泣いてる。
また思い出しちゃったんですかね。可哀想に。
あれは春先とはいえど寒い日でした。
よく置き去りに出来ますよ。
「小春、こっちおいで。抱っこしてあげるから」
なんですか。いつもすぐ寄ってくるのに。
眠いから抱き上げるのは無理ですよ。
「遠慮しないで、早く」
あ、やっと来た。寝っころがったまま彼女を抱きとめます。もう。やっぱ子供って体温高いなあ。
いつも通りに頭を撫でて、背中をたたいて。
「いい子いい子。僕ここにいますからね。大丈夫ですよ」
ああ、今日は僕のほうが先に寝てしまいそう。仕方がありません。昨日なんか一睡もできなかったんですから。あれ、何でだっけ。
「小春、かわいい小春。大丈夫ですよ」
僕、そばにいますからね。
―――――夢、だと思ったんです。
普通に考えて起きたら、自分の腕の中に小春さんがいる訳ないじゃないですか。
まあ随分と都合のいい夢を見たものだと思いながらも、折角なのでと更に抱き寄せて日頃おいしそうだなと思っていた鎖骨に噛みついたり、首筋にくちづけとかしてみたんですけど、やけに感触がリアルでテンションが上がってしまいまして。
いいにおいするし。
現実で出来ないんだから夢の中でちょっとくらいえげつない事してもいいんじゃないかなーと思ったわけですよ。
小春さん顔真っ赤にして「あの……」とか「つ、椿さん……」とか言ってるのもまた現実感があって大変よろしい。
覚めないで欲しいなーと思っていたら、いきなり襟首を掴まれまして。
何事?と思って振り返ればものすごい怖い顔をした小手毬ちゃんが。
そこで周りの音が聞こえて景色が見えてあれ、これ、夢じゃない???という事に気付いてですね。
と、いう事はと視線を下に向ければ、僕の好きな人が僕の下で顔を真っ赤にして目をうるうるさせていました。
血の気って本当にサーッ!って引くものなんですね。あははははうわあ。
とりあえず小春さんを起こして謝り倒して寝ぼけていたことを伝えて謝り倒して、小手毬ちゃんが僕に「無意識だろうと公衆の面前でしかも未成年の女の子になんという事を!こんの人でなし!」という説教を下さって。
そうです。狐ですから。いやもう狐界の恥さらしですよ。
でも何で小手毬ちゃんが?と思ったら後ろからセンセイが出っづらそーに出てきました。
まさか、こいつお盆の時もつけてたのか。どんだけ僕の事嫌いなんですか、と生まれて初めて殺意のようなものを抱いたのですが、でもおかげで助かったけれど釈然としないけれど今は小春さんが最優先です。ああ!
謝れば謝った分彼女を同意もなくそういう対象として扱った記憶が彼女の中から消えるなら謝り続けますけど、そうではないので謝りきった後はなんかシートとかたたんで、小春さんを東西線の葛西まで送っていきましたとも。
センセイが空気読めない感じに「デート先かぶるなんて偶然だねー小春ちゃん。えーとねこの人小手毬ちゃんて言って小手毬ちゃんも妖狐なんだよーそれで椿くんの友達なんだってー」とかそういうつなぎとかしてくれて助かりました。腹立ちますけど。
なぜか4人で東西線に乗って、すぐ小春さんのおうちのある門前仲町についちゃって小春さんは何も言わずに会釈をして降りて行ってしまいました。
そしてなんとなくうちのお店に3人で流れて行って、今に至ります。
カウンターには僕を挟んで小手毬ちゃんとセンセイが。お店につくなりセンセイがハイテンションで一部始終を店長さんに説明してくれやがりました。
小手毬ちゃんはお店に来たのが初めてなのできょろきょろしています。
あ、その手振って来てる神様女グセ悪いから気を付けて小手毬ちゃん……僕がいえた事じゃないですけど。
「…………」
「……これで解ったでしょう椿くん。抑圧すればするほど反動が、ヤバい」
「自らを律する器官が最初から備わっていないようにお見受けするセンセイに言われるのは本当に癪なんですけどそのようです」
いつもやられっぱなしなのでこれくらいの悪口は飲み込んでほしいものです。
「…………」
「椿」
「うん」
「……好きなんでしょ?」
「…………」
そうです。
小春さんが好きです。
姿を目にするだけで身体の奥がどうにもふわふわしてしまい
声を聞けば否応なく心が躍り
触れたら最後、欲しくて欲しくて仕方がなくなってしまいます。