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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
門前仲町小夜曲
23/155

五回目のゆさぶり/男の夢と聞いております

 こないだの椿さんと小手毬さんの姿を見て、とても落ち込みました。


 落ち込んだまま帰ったらおかーさんが私を見て心配してくれて、その顔を見たらもう止まらなくなってしまって椿さんの事を喋りました。

 今までは学校の友達と遊ぶと行って出かけていたんです。なんか恥ずかしいですし。

 色々かいつまんで

『昔お世話になったお兄さんが好きなんだけど、妹扱いしかしてもらえない』

 みたいに説明しました。小手毬さんのこともなんとなく言いました。


 おかーさんは「もうそんな年になっちゃったのねー」と大笑いです。

 断じて断じて、笑い事ではありません。

 月一回会える映画の日の事を話して、色々作戦を練った結果が今日です。

 今日のワンピースはいつもより大人っぽいんですがどうなんでしょう。

 あとチケット貰ったって言うのは嘘です。でもいつも出してもらいっ放しだからこれくらいしたいんです。


 そしてお弁当です「男の人は胃袋でつかむものです」だそうです。

 おかーさん監修の元がんばりました。お手伝いもいつもしているので多分大丈夫です。

 たたいた梅と白ごま、たくあんと紫蘇の二種類の混ぜご飯のおにぎり。手で握るといたむのが早くなってしまうのでちゃんとラップで握りました。

 明太子の入った出し巻き卵にポテトサラダ、ピーマンと玉葱の甘辛炒めにプチトマト

 それにがっつり味付けした唐揚げとソーセージです。

 粗熱を取ってお弁当箱に詰めて、夏場なので更に保冷剤を入れて保冷バックに入れて完璧です。小手毬さんが羨ましかったので芝生に座っていいようにレジャーシートも完備。

 おしぼりと箸も忘れませんでした。


 どうですか椿さん、これどうですか?


※※※※※



「お友達なのでいつもごちそうになりっぱなしなのはどうかと思ったんです」ですって。

 レジャーシートまで用意していてびっくりしていたら「ちょっと荷物見てて下さい」って走って行ってしまって、帰ってきたらビールとか買って来てくれちゃってて。

 しかも偶然僕の好きな銘柄でした。


 いつも小春さんといる時は飲まないんですけど、センセイか誰かから僕がお酒好きって聞いたんでしょうか。いじらしいなあ。

 暑いのは苦手なんですが潮風のおかげかどこかここちよく

 きっちり詰められた色とりどりのお弁当

 横には真剣なまなざしで僕を見つめてくる小春さん。

「あ、味、大丈夫ですか」

「はい。美味しいですよ」

 そしてうれしいです。


 なんかいつもより酔いが回ってしまいます。



 頭、ふわふわしてきちゃいました。


※※※※※


「…………」

 ええとですね。


 お弁当は全部はけたので、美味しかったってことで大丈夫なんでしょうか、椿さん。


 と、私は足元の椿さんに心の中で問いかけます。


 ごちそうさまをした後に、ビールを飲み干した椿さんは体育座りでうなだれてしまって、何か傷んでたのかと思ってあわてて声をかけたら「ちょっと酔ってしまいました」と。

 とりあえず私のお茶を飲んでもらって、お水買ってきますと買って戻ってきたらシートの上で椿さんが横になっててですね。

「…………」

 起こしたほうがいいんでしょうか。

 でも顔色悪いわけでもないですし、なんか気持ちよさそうなので、このままでいいですかね。

「…………」

 椿さんの寝顔をみるのはこれで二度目です。


 前に、待ち合わせに来なかったので大手町からお店に電話したら先生が出て「出て来ないって麗ちゃんに聞いてさっき覗きに行ったら寝てたからさー。寝込み襲っちゃいなよ!」と、言われてお店の奥の椿さんのお部屋にお邪魔した時以来です。

 むろん、襲っていません。


 その時の椿さんは、机の上に突っ伏してなんだか苦しそうにしていたので、すぐ起こしてしまいました。


 今日はなんだか気持ちよさそうに寝ているように見えます。


 とととと隣とかに、座っていいんですかね。いいですよね、うん。座ります。

「…………」

 椿さんの髪の毛が風にゆられています。柔らかそう。

 たまに瞼を更にぎゅってさせて、薄く閉じた状態に戻ります。そういえば睫毛も髪の毛と同じ色。

 軽く閉じてあるくちびるに長めの首。肘がすこしだけとがってるんです。椿さん。

 耳は薄め。狐だからですか?

「…………椿さん」


 無反応です。


 チャンスと思って投げ出された椿さんのてのひらをつん、とつつきます。


 無反応です。


 いけないと思いながら私は椿さんのてのひらに自分のてのひらを重ねます。

「…………んん」

 あっ。

「…………こはる」

 椿さんの手が、私の手を握っています。あああ頭がパンクしそうです。椿さん。

「…………」

 椿さんと手をつなぐのは8年振りくらいです。

 私、大きくなりましたが、それでも椿さんの手のほうが全然大きい。


「こはる」


 えーとそれで、何で呼び捨てなんですか、椿さん。

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