表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
門前仲町小夜曲
16/155

真夏の見ッ会/彼女のターン

【1994年 8月】

 縁で庭側に頭を向けて寝転がるのが好きです。屋根の向こうに大きな雲と青い空。

 蝉の鳴き声を聞きながらパッキンするアイスをかじる。

 お行儀悪いですが、好きなんです。


「…………」


 8月17日。夏休みも終わりかけ。宿題も終わってしまってちょっと暇です。

 友達と毎日会えるわけではないですし。


 暇なので椿さんの事を考えてしまいます。


 映画を見てもテレビを見ても本を読んでも、椿さんこれ好きかな、とか考えちゃいます。


 そう言えば先月は椿さん半袖でした。歩いてる時に腕がふれてしまってどきどきしました。


 昔みたいに、手をつないで歩けたらうれしくてそれだけでいいのに。

 椿さん。椿さん。椿さん。今何をしているのでしょう。

「小春―。電話」

 おかーさんが子機を持ってこっちに向かって来ます。ちょっと怖い顔。

 はい、お行儀悪いですからね。ごめんなさい。

「誰から―?」

「……若い、男の人」


「やあ!ごめんね急に呼び出したりして。そして椿くんじゃなくて」

 明治神宮駅で私を待っていたのはとってもうきうきした先生でした。

「……いえ、暇だったので」


 がっかりなんてしていませんとも。全然がっかりなんかしませんでした。

 先生は子供の頃の私にそうしてくれたように、頭をポンと叩いて私の手を引いて歩きだします。

 代々木公園の方へ向かうようです。初めて来ましたが、結構大きいんですね。

 日差しは強いけど風があるのでそんなに不快ではありません。帽子もかぶってますし。

「今さ、お盆でお店休みじゃない」


 そうです。神様もその辺は神妙に、おとなしくしていなければいけないらしく、今週12日から21日までお店がお休みなのです。

 なので第3土曜にはお店に行けなくて、今月は月2回しか椿さんに会うことができません。

「こないだボクさあ、椿くんを怒らせちゃって悪いなーと思って今日おごるから飲みにでもいかない?って誘いに行ったら『今日は予定がありますので』とか言ってサーっていなくなっちゃってさあ。気になるじゃない?気になるじゃない?だから麗ちゃん誘ってあとつけたらさあ」

 開けた場所に出ました。先生は私を右手側のちょっと森っぽい所につれていきます。

 少し歩くとベンチに座った店長さんが。


「……ホントに連れてきたのかえ、お前さん」

 やや呆れ顔です。今日も美人さんです。

「こんにちは店長さん」

「久しぶりじゃのー小春。夏バテとかしとらんかー?」

 店長さんもにっこり笑って私の頭を撫でてくれます。やさしい。

「はい、げ」

「そんな場合じゃないんだって!こっちこっち!」


 先生はベンチに置いてあった双眼鏡をつかんで私を草むらのほうへ。しばらくレンズを覗いて調整しているようで、そのあと私にそれを渡してくれます。

「ええとねー、縞々の服をお揃いで着てる頭悪そうなカップルの奥、左側!」

 草むらの向こうに広がる芝生の広場には、お盆のせいかあんまり人がいないのですぐ見つかりました。奥……?


「…………」


 椿さんと、隣には見た事のない女の人がいます。椿さん、笑ってます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ