四回目も浮つかない/彼のターン
センセイは男の僕から見ても格好いいと思うんです。黙っていれば。
いつもは来るなり、時候の挨拶から最近のニュースや僕をからかったりなどひととおりべらべらと喋りすぎて舌の根が乾くんじゃないのだろうかと思うような勢いで喋り倒すのですが、今日は席に着くなり難しい顔をして「いつもの」と言ったきり黙りこんでいます。
何かを考え込んで、僕に言いかけてを繰り返したあと決心したように、口を開きました。
「……何で、同じパフェを別々で食べてたの。二人で」
「…………何の、話ですか」
「日比谷で映画見た後に、資生堂でお茶なんてキミにしては上出来のコースだけどさあ」
「ちょっと待ってください何で知ってるんですか」
昨日のデー……ではないですけええと順路を!
「暇だったんで、跡つけてみたんだ☆」
センセイはペコちゃんのように舌をだし、ウインクなどをしてきました。
これ、ぶん殴っていいんですかね。
「……そういうの、最近欧米でストーカーって言うらしいですよ……」
「別にキミの事好きじゃないからそれは成立しないなあ」
「さすがに悪趣味じゃろー、お前さん」
うんざりした顔をしながら助け舟を出してくれたのは店長さんです。いつもありがとうございます。
そうです。ほんとそうです。
「だって気になっちゃったんだよ、麗ちゃん」
麗ちゃんは店長さんの愛称です。
神様の名前というのは大変に効力のあるもので、呼ぶだけで僕らに類が及んだりするので本当の名前に気付いても、口にしてはいけない仕組みになっています。
とはいえ、固有の呼び名がないと不便ですので、そのためにつけられた、そう、ニックネームのようなものなのです。
「何をじゃ」
「ここまでお膳立てが揃ってるのに、ガツンといかない椿くんの意気地なしの理由はどこから来てるんだろうって。で思い返したら椿くんの彼女がお店に押しかけてくるシチュエーションて今回が初めてじゃない」
「彼女じゃないし、センセイが無理やり連れてきたんでしょうが」
「今さー麗ちゃんと話してんの。椿くんあっち行って」
……本当に神様なんですかねこの人。もういいです。明日の仕込みとかあるし作業に集中します。
「うちの大事なバーテン、いじめないでくれんかのー」
「大事なバーテンの将来の話だもーん。でさーほら椿くん超純粋じゃーん。これはまさか交際経験がないからいかないんじゃないかと思いついたら小春ちゃんと普段どんなデートしてるのか気になっちゃってさー。毎回映画って言うのは知ってるんだけどさー」
喋らなくていいから楽なんですよ。
僕の事、話せないのに小春さんに延々話させるのもおかしいでしょう。感想とかで間が持つし。
「したらまー小春ちゃんに歩く速度合わせてあげてるし、飲み物とか買ってきてあげるしすッごいマメなの!なんかこなれてんの!ちょっと感心しちゃってさー。でも同じパフェだよ。別々のもの頼んで「ダーリンはいあーん」とかやりたいんでしょ?女子は」
「バカなんじゃないですかセンセイ。前々から言おう言おうと思ってたんですけど、本当、バカなんじゃないんですかセンセイ。大体何で僕に突っかかってくるんですか。僕なんかしました?僕に恨みでもあるんですか?」
こう見えてというか見た通り僕は人畜無害な狐ですし、センセイにも神様にも礼儀を尽くして真面目で一線引いた態度でこつこつやって来たのになぜこんなにいたずらにからかわれるのか本当に意味が分からないんですよね。
先祖がセンセイに無礼でもはたら……まさか………!
「……センセイって……まさか、狸関連の神様じゃないですよね……?」
それなら納得いきます。聞いた事ないですけど。
僕の言葉を聞いたセンセイはにっこり笑って前髪をかきあげます。
キマッているのが腹が立ちます。
「やだなあ椿くん。ボクはタヌキじゃなくて、22世記から来た、ネコ型ロボットだよっ」
「間に合ってるんで、22世記にお帰りください」
そして二度と、20世記に足を踏み入れないでください。
なんで満面の笑みで親指たててるんでしょうか、この人。
しかもいい声なのがまた腹が立ちます。