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合(流)コン(コン)パーリー/前編

 女三人いれば姦しいという言葉があるけど、今は静かだわ。


「…………」


 とはいえもとからそんなにきゃぴきゃぴした三人ではないのよ。

 あたしは勿論のこと、山茶花だって母様と喧嘩する時以外はそんなに騒がしくない。

 そしてお客さんの――小春ちゃんも。


「…………」


 空気が淀んでいる訳ではないが、沈黙が続く。


 世間話のようなものはたくさん思い浮かぶけど、そういうのは特に何もない日の時の為のものだから今は口にする必要がない。


 今日は小春ちゃんが何か聞きたいことがあるからという理由で、うちに来た。

 お土産に持って来てくれたケーキを選んで盛って紅茶を淹れて、これおいしいとか大分あったかくなってきたわねとか一通りの話が終わって、流れが切れちゃったのよね。


 そろそろ促した方がいいのかな。


 でも思いつめているような雰囲気でもあるし、気にしないふりをしてケーキを食べているほうがよさそう。そう判断してミルクレープの解体作業にとりかかる。


 ……ミルクレープって一気に食べるのがもったいないのよね。

 一枚ずつはがしてちびちび食べたいっていう願望がずっとあるけど、行儀が悪いし多分途中で飽きるからしないで終わる。


「小春、それで、今日はどうしたのー?」

「あ、うん」


 空気読めない感じに山茶花が話を切り出した。


 まあ、遅かれ早かれ言わなきゃいけない事なんだから、咎めるほどのことじゃないけどもうちょっとねえ……この子、学校で上手に友達付き合い出来てるのかしら……。


 小春ちゃんは「ごめん、なんか、どうやって質問したらいいのかちゃんと整理できてなくて……」と、もじもじしている。


 まあ、予想は出来ていたけど、椿関連の事ね。きっと。

 サプライズで何かをあげたいとか、何が好きか知りたいとかそういうのかしら。それにしては浮かない顔だけど……


「……あの、そう、あ、アフリカだと、大きい女の人がもてるとか、あるじゃないですか」


「えっ、そうなの」

「ああ、うん、聞いたことあるわ」


「その……妖狐の中でもそういうの……あるんでしょうか、というか、私って、妖狐さんから見て、ぜんぜん駄目な見た目……とかだったり…します…か…?」


「は?何言ってるの、小春」

「だから」


 ―――山茶花が聞き役に徹し聞き出した情報をまとめると、最近椿から小春ちゃんへの接触頻度が薄いらしい。あまりに薄いらしい。


 小春ちゃんはそれが、こうー、椿が、恋愛の熱が上がり切って(我々の、冬特有のやつね)ー、ふとした瞬間にー、小春ちゃんの事がタイプじゃなかったことに気付き―、しかし今更間違いでしたとも言えずー、無理して付き合ってくれているのではと思ってしまったらしくー。


「でもその、私、意地汚いのわかってるんですが、そうだとしても諦められなくて……小手毬さん、妖狐さんのなかでものすごくモテるって聞いたので……どうしたらいいかお知恵を拝借できないかって……」


「いやあの、そんなん小手毬が勝手に言ってるだけであたしそういうのじゃ……」

「ていうか、気のせいだから!ないから!椿あんたにメロメロだから!」


「椿さん……お店でなんか言ってた……?」

「う……え、あ、いや、仕事中は……その……」


「無理しなくていいの、山茶花ちゃん、ありがとね」

「……いやあの、その違う、違うの!とにかくあいつあんたしか見てないから!」


 山茶花の「椿あんたにメロメロだから!」の、確信のもとは多分なんか手ひどくしっぺ返しくらったときの経験からなのね。

 顔が苦々しいのが隠せていないわ。小春ちゃんはそれどころじゃないから気づいていないのが幸いだわ。


「とりあえず、すこしでも多く、椿さんに好かれるための手がかりが欲しいの、ダメもとで!」


「……姉様、フォアグラが、あの味のない駄菓子の煎餅についている梅ジャムに身を落とそうとしてるんだけど止めた方がいいわよね」

「その話もう忘れてって言ってるでしょ、山茶花」


「えっ、あ、もっと痩せた方がいいってことですか、小手毬さん」

「ちがうわ、全然違う話よ、小春ちゃん!」


 小春ちゃんの多分最大の悩みの、実は自分が椿にとってタイプじゃないかもって件は全く何の問題もないわ。


 あとはなんか何がどういう感じなのか知らないけど、思いのたけをぶつければ椿が何とかするでしょう。

 逆切れしたり相手を落として自分の体面を守りたいみたいなこっすいタイプじゃないし。


 なので、なんとなく自信を持たせつつ、二人の問題は二人で話し合うのが一番よって流れに持っていくのがいいのよね。うん。


 ……あれよね。こういうのが、かわいげなのよね……。


 相手の態度に一喜一憂しないといけないのよ。

 嫌われたら生きていけないみたいな、一生にあなた一人です、みたいな風に相手に見せないといけないのよ。


 小春ちゃんは実際そうなんだけど。実際そうじゃない場合は演技を多少するべきなのよね。

 気が合わないわ、ごめんなさいね。それでどうしようかしら?

 じゃ駄目なのよ。

 言いなりもいけないけど。


「いやあのフォアグラってそういう意味じゃないの、ねえ、あの、あ、あ、姉様!」


 この子忘れろって言ったのに忘れろって言った事忘れてるのよね……。

 うっかりなのはわかっている。

 あたしが悪いのもわかっている。

 粋連の記憶を消す術ってこの子にも有効なのかしら……さすがに人道的にだめね。

 多分どの部分を消したいかを粋連に説明しないといけないし。


「えっ、粋連何いきなり」

「……インターホンが壊れており、かつ急を要する事態なので。失礼」


 山茶花が呼んだとおりの名前がついている人物は、部屋にすたすた入ってきて勝手知ったる様子で居間のカーテンを開けて、ちょっとだけ開いていた窓を閉めた。


 掃除して空気の入れ替えに開けていたけど、向かいの建物との距離感を考えてカーテンを閉めたことで開けっ放しなことをすっかり忘れていた窓を、である。


 この、関係者だらけの建物で筒抜けになると色々微妙な話題をしているので、注意しに来てくれたけどインターホンが壊れていたのでこれ以上なんか、きわどい話になったら困るだろう、と思って今こうなったという事ね。


「……なんか、いつもごめんね」

「いえ、それより勝手に上がり込んですいません。インターホン、連絡しておきますか」


「あ、それは自分でやるわ」

「そうですか」


 この子も大人になったわよねー。

 そりゃあたしも年取るわ。

 最近気を抜くとおばあちゃんだわ。気を付けないと。


 昔はしゃがまないと目が合わなかったのに、今は見上げないといけないくらいの成長はしみじみしてもいいかしら。別に。そうよね。いいわよね。


 そのまま人の姿に化けると本来の毛色と同じ髪の色になってしまい、黒髪にしようとすると目が金色になっちゃう、うまくいかないって泣いてたものねえ。


 結局あまり克服できなかったのか、好みでこうなっているのかはわからないけど人に混じって暮らすには話のたねにされそうな薄い色の瞳が少し動いて、なんだか不機嫌そうにゆがんだ。


「……お前の事は別に地獄に落ちろとまでは思わんので忠告しておくが」


 粋連は、物静かで優しい子謙虚ないい子だったんだけど、今とても険しい顔で小春ちゃんを睨んだ挙句、とても厭味ったしいイントネーションで話し始めた。


「あいつはろくでもない。今すぐ吉崎君に乗り換えておけ。あいつガリ勉と思いきや運動神経もそこそこいい」

「……えっ」

「誰なの、小春、吉崎君って、うちのクラスに居たっけ」


「ああ、この小娘が小学校三年生のとき転校していったクラスメイトで、今年こっちに戻ってきて、こいつに惚れている男です。椿より色々お似合いです」


 物静かで優しい謙虚ないい子なんだけど、椿にだけやたら突っかかるのよね。

 多分相性が悪いってやつなんだけど。

 かといって椿を苦しめる(?)為だけに、小春ちゃんに横恋慕を薦めるほど根性腐ってはいないと思うんだけど……。


「……気持ち悪い」


 思うんだけど……そうよね、気持ち悪い虫を目にした時のような不快感を抱いても当然よね。小春ちゃんの反応はそんなにおかしくない。


「粋連、なんであんたそんなに吉崎君とやらの動向に詳しいの」

「偶々、取引先の息子さんだったんです。話してみたら人柄も悪くないですし」


「えっ、それつまり小春と吉崎をくっつけたらあんたの会社の取引が有利になるってこと!?」

「は?全然違います」


 あ、今こじれたわ。


 山茶花の突飛な発想は完全に間違いで、粋連は善意からの忠告だったのかもしれないけど、もうこれはどんなに正しくても一切聞き入れられないルートだわ。

 もとから聞き入れられるルートはなかったとしても。

 戦闘態勢の山茶花と、この部屋に入ってきた瞬間から汚らわしいものと対峙している姿勢を崩さない小春ちゃん。


 もうこれはどうしようもないわ。

 なんとかすればどうにかなるのかもしれないけど、仲立ちする気もない。

 あたし学校の先生じゃないからそこまで世話焼きたくないし。


 さてどうしたもんかしら。粋連を帰し、話題をそらして二人の敵意をどうにかし、粋連には後でフォローいれる。みたいな感じよね。


「あのさ、粋」

「おはよ――」


「えっ」

「やっ」

「山茶花、それ固定しておいて」


「う、うん」


「うかわいい妹たち!粋連が留守だ!チャンスだ!一緒にあいつのいやらしき本を探し出すのを手伝っておくれよ――!」

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