あっぷあっぷでダウン
「ごめんね、こはるん」
「一緒に持ってった方が早いから、大丈夫だよー」
「…………」
態度の違いも、気になるのよね。
あんまり見てもあれだからすれ違いざま、とかにしか見たことがないけど、学校では常時親しみやすい雰囲気なのだ。あの子。
朗らかよりさらにやわらかい雰囲気。
でもお母さんと一緒にいた時は別人のように違った。
普通、身内と一緒にいると、態度、素になるわよね。
学校での姿は、作ってるって事なのかしら?
誰だって家と外で顔を使い分けるところあると思うけど、ちょっとあれは落差大きすぎじゃないの?
「やよいちゃん、次教室移動だよ―」
「あ、わたし早退するかも。具合が悪いの」
「そっかあ、早退するんだ。具合悪い」
「そう」
えーと、クラスメイトにアリバイ(?)は作った。あとは保健室に行って、熱がとてもあることにしてもらって、それから先生にその証明を見せればいいのかしら。
サボるための小細工、めんどうくさいわ。
でもそれさえ終わればあとは楽しいだけ。
※※※※※※
待ち合わせ時間10分前。待ち合わせ場所の駅前の都電の前。スタンバイ完了。
完璧だわ。
制服はロッカーにあずけた。
本当は服も人間に化けるときの変化球で代えられるんだけど、絶対失敗したくないからちゃんとした服持ってきて着替えたわ。
コートだけ制服のピーコートだけどやっぱりなんか変な気がしてきた。
コートも持ってくればよかった……!
もうあとのまつりなんだけど。そんなに変じゃないはず。
そ、そういえば家族以外の若い男の人と二人きりで出かけるって初めてなんだったわ。
父様を覗くうちの男性陣のうちの二人は若い男の人に分類していいのかしら。
見た目と気は若いけど実年齢的にはおじいちゃんどころの騒ぎではない。
ミイラみたいなものだ。ミイラだと行き過ぎかしら。
エジプトでミイラ作ってたのってすっごい昔だもんね。
死にたての死体くらい?
なんかおかしいわ。生きてるし。もうちょっと適当な……
肩を叩かれた。強くなく、ほどよく。
「ごめんね、待った?」
「い、え、全然です」
声をかけてきたのは待ち合わせ相手だった。
この人の私服を見るの、何年ぶりかしら。
兄様達みたいに変な服着てない。真冬に下駄とか履いてない。ちゃんとしてる。
コートの中は何を着ているか不明だが、多分常識的な装いだと思う、椿さんは今日も柔らかい微笑みを浮かべていた。
「先にお昼にしちゃおっか。何か食べたい気分のものある?」
「と、特に希望はないです」
「それはそれでハードル高いなあ。とりあえず行こうか」
「は、はい」
平日なのに渋谷はそこそこ人がいっぱいいて、気を抜くとはぐれてしまいそうだった。
昔公園に連れて行ってもらったときは、手をつないでくれたっけ。
兄様達みたいにぐいぐい引っ張る訳でも、ふざけて抱き上げられる訳でもなく、歩幅が狭いわたしのペースに合わせてくれていた。
今は距離が、遠い。
でももうわたし、子供じゃないんだから。
気持ち強めに地面を蹴れば、一歩先を行く彼に難なく並ぶことが出来る。
※※※※※※
多分これが普通なんだろうけど、普通って素晴らしい。
お昼ご飯はパスタランチがおいしいお店だった。デザートがとてもかわいい。
ラーメン屋さんでも焼肉屋さんでもないし、勝手に大盛りにもされない。
店員さんをナンパしないし、隣の席のお年寄りと仲良くなったりもしない。
「おいしいね」って言い合って、ご飯を楽しめるだけでいい。
それだけでいいのよ。
わたしが席を立つ支度をしている間にお会計を済ませてしまうスマートさに、店員さんにさらっと「ごちそうさまでした」っていう所が好ましい。
財布がない小芝居とかいらっないのよ本当にもう。
悪気はないのは解るけど、兄様達の過剰なサービス精神がめんどうくさい。
というか自分たちが楽しければいいのよ。あの人たちは。
そういうのじゃなくて、他人に気を使わせず疲労させずに楽しい雰囲気を作れる人というのがいい。
多分それは素質とか気づかいが必要で。
「こちらのペンダントとかいかがでしょう?彼女さま、お肌おきれいでお白いですから、とてもよくお似合いになると思いますよ」
「あっ、彼女は別の人です。今日はプレゼント選びに付き合ってもらってるだけで。ねっ、山茶花ちゃん」
「……そうですね」
「あ、あら、し、失礼しました」
今までの接触時の行動から気づかいの出来るタイプだと思っていたのだけれど。
目の前の販売員のお姉さんの張り付いた笑顔を引っぺがせば奥にあるのは困惑だと思うの。
ですよね。
覚悟はしていたの。
今日の付き合う買い物は、椿さんの彼女の誕生日プレゼント兼ホワイトデーのお返し選びなのだから、覚悟はしていたの。
「女の人が好きなものが、いまいちわからなくてさ」
はにかんで言われたから、悪気がないのは解っているの。
「ああでも肌の白さは同じくらいかな……で、もう少しかわいい系なんですよね。小柄で」
そうですね165センチある美人系ですいません参考になりませんで。7センチヒールはいてすいません張り切ってしまって。無駄に。
べ、別に、いいの。
私の気持ちなんか知らないから、わたしの傷口に岩塩をぐりぐりとねじ込むようなことをしても。
むしろ隠せていて迷惑になってないって事じゃない。わたしすごい。
わたしはいいけど、他の女と二人で買いに行って他の女が薦めて購入したプレゼントなんてもらっても、彼女からしたらまったくうれしくないと思うのだけど。
男って女心全然わかんないって、こういう事なのかしら。
兄様とかものすごい大きな蛇の抜け殻とか切れ味が良すぎる日本刀とか寄越してくるから、選択肢がアクセサリーってだけで、もう、あれより全然ましなんだけど。
でも、わたしの薦めたもの買いそうになったら、止めた方がいいのかしら。
「……とりあえず、ネックレスは確定なんですか?」
「ピアスは空いてないし、イヤリングって感じでもないしねえ。わりと襟詰まってる服着てるし、使わないかなあ」
「夏もですか?」
「あー、そっか。夏は……空いてた。うん」
何かを反芻しているのか、彼は嬉しそうな顔をしている。
幸せいっぱいといった様子だ。
「……一緒に選んだ方が、彼女さんもうれしいんじゃないですか?」
「買ってあげる、みたいな流れに持ってくと、遠慮しちゃうんだよねえ。あと、びっくりさせたい気持ちもあるし」
近々悪い方向にびっくりさせられちゃいそうな人は、そんな事露知らずといった様子で、というか知らずに笑っている。
教えた方がいいのかしら。
「とりあえず、次のお店いこうかなー。何か引っ張りまわしちゃってごめんね」
「いえ、全然大丈夫です」
聞かれたこともわたしが知っていることも大丈夫なのか大丈夫じゃないのかはよくわからない。
わかるのは、わたしの事を見ていなくても少しでも長くこの人と一緒にいたいという事だけだ。




