a gold fox observe the lazy girl…?(2)
人間の女同士は嫉妬と牽制と懐の探り合いがすごいから気を付けてね。
ってさんざん脅されたけど、いまのところそういう目には合っていない。
「あの、子ってかわいいわよね」
「こはるん?」
「……そ、そう」
「……ここだけの話、天使かなんかだと思う」
「わかる。あれじゃね、男子とちゅーとかしたら空に帰らないといけない縛りとかある」
「あー絶対ある」
つぶやいて、返ってきたのは肯定となんか色々な好意的な情報だった。
調理実習で活躍するだの、遠足で肩に野鳥がとまって離れなくてよくいる動物に愛されたお姫様状態だっただの(実際はとろいからではないだろうか)、バレンタインに女子同士で配ったあの子が作った友チョコが欲しい男子相手にそれが高く売れたとか。
中学の時に人気の先輩と付き合ってただの。
ふうん。
「なんかうまくいかなかったらしい」
「へー」
ほんと、へーです。
じゃあ好きな期間そんなに長くないんじゃない。
わたしより確実に短い。
※※※※※※
部活は手芸部と、週一もしくは二くらいでボランティア同好会にも顔を出しているらしい。
手芸部は学校のすみーっこの、家庭科室でやってるから様子を伺えないけど、ボランティアは近所の保育園とか老人ホームに行ってるから、通行人とか施設の人を装って様子を伺える。
そんなものに参加するくらいだから、同好会には優しい子が集まってるんでしょう。別に参加者の中でぶっちぎり目立って優しいとかはない。
わたしでも別にこれくらい出来る。
保育園の子供より弟の方がやんちゃだけど、遊んであげてるし、うちの親は見た目は若いけどお年寄りだから似たようなものでしょ?
ちょっときれいで、優しいくらいの子じゃない。
どこにでもいる。
きれいといえばあのお店で一緒に働いている店長さんのほうがよっぽどきれいなのに、店長さんに話しかけるときよりも、あの子の話をする時の方が幸せそうな顔をしている。
ちなみに今日は保育園訪問日だった。
夕方5時に園を出て、それから駅までは同好会の子と一緒に駅に行って、段々ばらばらになって帰っていく。
「またねー」
「うん」
いつも通り、飯田橋で降りて、地下鉄東西線に乗り換え。
そしていつも通りわたしと同じ方向の、東に行く方に乗ら――ない。
「え?」
彼女が電車に乗るために並んだのは西に行く方だった。
今わたし、美人度を抑えてその辺にいる女の人の見た目になってるから、ついていっても怪しくない。
同じ扉の列にならぶ。真後ろにつくけど気づいた様子なく、彼女は鞄から文庫本を取り出した。
予備校ってやつかしら。代々木にいっぱいあるんでしょ?
あれ、でもこれ代々木行かない。
人の乗り降りが多いから見失わないようにしないといけないけど、じろじろ見て気づかれたらいけないので見るのは最小限にしないといけない。
結局、彼女が降りたのは中野だった。
定期で改札に入っちゃったから清算しないといけなくて、でもあの子も一緒だったみたいで三人離れて精算機に並ぶ。駆け足で後を追う。アーケードの商店街に向かって歩いていた。
アーケードは人がいっぱいいて歩きにくい。
近づきすぎないように、でも見失わないようにという微妙な距離を維持しながら後を追う。
このアーケードどこまで続くのかしら。長いわ。終わりが見えない。横道がいっぱいある。
なんか全体的に怪しい。
ずっと目印にしていたリボンっぽいバレッタがふっと左の横道に逸れた。
な勝手にずっとまっすぐ歩いていくのだと思っていたから焦ったけど、わたしが横道に差し掛かった時にまだ彼女はいた。
父様が割と好きなんだけど、今の実家から車で行ける距離にないのでたまに「食べたい」と、嘆いているドーナツ屋さんに入っていった。
後を、追うべき、よね。
ドーナツを買う列の中に彼女はいなかった。
まあ、お土産買うなら家の方向にあるわよね。多分。先に席を取るのかしら。
恐る恐る二階に上がる。
こういう所って席を取ってから商品を買う所と、商品を買ってから席をとれってところと二種類あるじゃない。何も言わず二階にあがるの、少し緊張する。
二階席は思いのほか広く、空席がいくつかあった。
さっき並んでいた人たちが全員上がってきても、座れないみたいな事態はないだろう。一安心。
あの子は、窓側のボックス席にいた。
一人だったけど、座っていない方の席にマグカップがあったから誰かがいるんだわ。
誰?
気になるけどこのまま様子を伺う訳にもいかない。
程よく距離のある席に鞄を置いて、一階に降りてアイスティーを買ってまた二階に上がる。
ボックス席はふたりに増えていた。レジで二つ前に並んでいた女の人だわ。
二人で何か話してるようだけど、わたしには聞こえない。
今は。
下の兄に教えてもらった、聴力を上げる術を使えばこの距離でもお茶の子さいさいです。
『―――校は楽しいの?』
『ええ、まあ、おかげさまで』
『そういや彼氏とかいたりするー?』
『いません』
また嘘ついた。
アイスティーぶくぶくしちゃったわ。行儀悪い。
『よかったわ。いると引っ越す時にめんどくさいじゃない?』
ん?
うん?
『まだついて行くって決めてないですけど。今日もよろしくお願いします』
『まだ気にしてんの?あんたも大人になったから、もう大丈夫でしょ』
『大丈夫じゃなかった時の取り返しがつかないので』
『ふうん』
『じゃあ、幼稚園の入園式の日だと思うんですけど、帰ってきてお風呂に閉じ込められたのなんでだったんですかね』
『あんたが制服の仕付け糸がついたまんまだったの自分で気づかなかったからでしょ。他のお母さんに指摘されてあたし恥かいたじゃない。普通わかるでしょ』
この人、どんな顔していたかしら。
わたしの席から見えるのはあの子と話している女の人の後姿だけだ。覗き込んで見る訳にはいかない。
『――そうですね、それは私が悪いですね』
『そうでしょ?お母さん全然間違ってないじゃない』




