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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
恐れ入ります、恐れ入ります、当て馬にもならない道産子が通ります。あっ、ご協力ありがとうございます。
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a gold fox observe the lazy girl…? (1) 

 さて。今日は2月20日、月曜日。

 することは沢山あるけど、全て気づかれないようにしなくてはいけない。


 なので、いつも通りに過ごす。


 登校はいつもの電車で。粋連も同じ時間らしく毎日顔を合わせる。

 最初は面倒だったけど、持ってれば勉強できる風の参考書とか教えてくれるから意外といいやつなのかもしれない。クラスの子に何使ってるのか質問されて困ってたのよね。


「中身もやらないと駄目ですよ」


 とかうるさいけど。小言が。聞き流せばいいので問題ない。

 母様みたいにしつこくないし。


 そういう訳で、いつも通りの電車に乗って、いつも通りの時間に教室についた。

 真面目な子がすでに5人くらい登校している時間。


 あいさつもそこそこに、鞄を置いて教室を出る。

 教室にいると転校生だからって隣のクラスの人とかなんかいっぱい見に来てめんどくさいから。

 あと、次から次へと登校して来る人に挨拶しないといけないのもめんどうだから。

 なんだかんだまだあの子とは転校してきた日から一言も言葉を交わしていない。


 別に話さなくても今日も支障がないから、今日もそのように。


 校舎の人の通りにくい所をぶらぶら散歩して教室に戻る。先生が来る三分前。

 ほぼ全員そろっていて、目的の相手も今日も遅刻せずに来ている。

 でも席が離れているから挨拶の必要はない。無視とかじゃなくて、機会がないからそうしているだけで。

 挨拶が必要な時間に近くにいたら挨拶くらいするけど。子供じゃないんだから。


 今日までそんな機会がなかっただけで。


 ホームルームはなんかいつもどおり。はいはい。今日のLHRは卒業式の予行演習ですね。5限が終わったら体育館履き持って体育館に集合。


 あっというまに終わって、もうすぐ授業が始まる。

 異動じゃないからこのまま座っていればいい。


 勉強もしなくていい身の上だし。


 教室に入って来たくたびれ気味の英語の先生が板書をする背中を目で追い、聞いているふりをしつつ、今日しなくてはいけないことのおさらいとかをする。

 補導の先生がいるのかどうかを聞く。これはお弁当の時間でいいわ。

 大事なのはこっちよ。


「日向、宿題のやつ訳して」

「あ、はい」


 椅子を引きずる音と「えーと」が重なる。

 本人はノートに集中しているだろうから、ちょっと見ても大丈夫なはず。

 教室の窓側、一番後ろの席は髪の長い女子の席だ。

 並んだことないけど身長はわたしより確実に低い。


 訳文は完璧らしい。

 板書しながらも間違っていればストップをかける先生なのに黙っている。

 成績はこんなもんかなで上位グループの下くらいの成績に設定したわたしよりも上……である。僅差で。


 たしか美化委員。

 掃除用具の点検とかする地味な委員。


「続き、斉藤、転校生の方」

「喉が痛いので喋れません」


「そうか。それはしかたがない。後ろの吉岡」

「はーい」


 粋連みたいに人の中にある事実を丸ごと書き換える事はできないけど、わたしの言ったことを無条件に肯定したくなる術なら使える。

 これだってそこそこ高度。うちの父方の秘術その1だし。

 成績改竄ももちろんこれでやりました。


 ※※※※※※


 する意味が解らないので体育は常時見学。

 身体が弱いってことになってる。レポート提出でカバーらしい。


 今日はサッカーらしい。

 みんな大騒ぎでボールを追いかけて団子になってる。


 猫が動くおもちゃに殺到してる光景に似ているわ。

 お隣の佐藤さんちは猫をいっぱい飼ってたからそんな場面に出くわすこともあった。

 あ、餞別貰ったから何か送らないといけないんだった。


 ばななのやつ?

 ひよこのやつ?


 でもそんなありきたりの銘菓より佐藤さんちで作っているとうもろこしのほうがおいしいから、なんか失礼に当たらないかしら。


 帰ったら姉に相談しよう。


「わ、ごめん!小春ちゃん大丈夫!?」


 離れているのに続いているご近所づきあいに関して思いを馳せている間に、なんか事件が起こったらしい。視界には入っていた。


 団子になりがちな女子のサッカー。

 ボールを持っている子がパスを出しやすい、団子ゾーンとは離れた位置に同じチームの子がいたのでパスを出したのだが、出されたほうはポジション取りが上手な訳ではなくどんくさくて団子に追いつけないだけだったので、パスを受け止められずに、この言い方あれだわ。


 受け止めはした。顔面で受け止めたのである。

 だわ。正しくは。


「保健室行く?」

「だ、大丈夫。ごめん線出ちゃった」


 体育の授業はまだそんなにないけど、多分この子確実にどんくさい。


 ……この子の何がよかったのかしら。


 顔はかわいいけど。

 どんくさいし。

 人の事言えないけど、でも姉に比べれば色々数段落ちると思うんだけど。


 まあシスコンの自覚はあるが姉は女子として最上級だと思うのだ。


 一時期毎週のように一緒にうちに来ていたのに。それこそうちが引っ越すまでは。


 つきあってたけど遠距離が原因で別れた?

 そもそも、年上がタイプじゃなかったとか?


 姉には聞きづらい。この話題。


 ボールが当たった人は鼻血が出たらしく、保健室に行くらしい。

 校庭のもう半分を使ってテニスをしている男子の半分以上がその後ろ姿を目で追っているのが丸見えである。


 守ってあげたいタイプとかそういう事なのかしら。

 自立したしっかり者の方がよくない?とわたしは思うのだが。

 姉だったら多分一人でごぼう抜きにして華麗にシュート決める。

 サッカー出来るか聞いたことないけど。


 ※※※※※※


 まあ、優しいってのもポイントなんでしょ?多分。

 休み時間はクラスにいる若干勉強苦手っぽい子に教えてあげてて、どっかのクラスとかからよく辞書借りに来る子もいて、貸してあげてる。頼りにされてるっぽい。

 今さっきも先輩に呼ばれていった。今はお昼休みである。


 わたしは近くの席の子達とお弁当食べてる。あの子とは違うグループである。

 あっちは地味。

 こっちはなんか明るくて派手。


「そういややよいちゃんのお姉ちゃんていくつなの?」

「あ、え……に、25歳、くらい?」


「どうした疑問形」

「なんか離れすぎてて……」


 実際はもっと離れてるし。である。


「じゃあもう社会人だ」

「そ、そう」


「へー何系なの?おねえさん」

「あんまりちゃんと聞いてないの。今度帰ってきたら聞いてみるわ」


「あまり帰らないの」

「あ、うん。出張……的なものなんだと思う」


 しまったこのへんもっと設定考えておくべきだったわ。要相談。

 今日姉帰ってくるのかしら。というか姉、普段何やってるのかしら。


「おねーさん美人そう。似てる?」

「あ、あんまり。上の兄の方がわたしと似てる……」


「イケメンじゃん!写真ないの?彼女いる?」

「な、ない。最近会ってないし」


「てかおねーさん25歳で、その上がおにーさん二人で、そのうちの上でしょ、もう結婚してるんじゃないの?」

「あ、え、まだしてない……の」


 ちなみに妖狐の最長独身記録保持者らしい。母様が嘆いていた。

 結婚とかわたしにはまだよくわからないけど、あの人と毎日一緒には暮らせない。というか兄も兄で家帰ってこない系妖狐になると思う。


「今度家族写真見たいな」

「あるのかしらー……聞いてみる」


 それ以上に次兄の姿を見ない。次兄と長兄がそろっているのを見たのは引っ越しの時が最後だわ。

 茉莉が産まれた時も別々に来たし。


「そ、そそそそれより、二人暮らしなのにお姉さんあんまりいないんでしょ?寂しくない?」

「まあ、そうかも、でも慣れたかなあ」


 それに今までが騒がしかったから、やっとゆっくりできて幸せである。


「じゃあ遊びに行ったりとかしちゃったりなんかしちゃってもいいって事?」

「えっ!?ああ、どうかしら、大家さんに聞いてみる」


「どんな家なのそれ。戒律が厳しいの」

「戒律って、うけんだけど」

「なんか……その……と、隣に騒音に微妙に厳しい人が住んでて」


「なにそれこわい。おじさん?」

「いや、若い男の人……」


 妖狐の中ではであって、人間から見たら粋連はおじさんかしら。わたしより年上だからおじさんよね。

 というかあれはいくつなのかしら。

 姉には敬語で礼儀をはらってるから、姉よりは年下なのかしら。


「イケメン?」

「ああ、うん」


「マジで?見たーい!遊びに行きたい」

「うん、大家さんがいいって言ったら」


「大家さんイケメ」

「おっさん」

「そかー」


 一応弁の立つ方だと思っていたんだけど、なんかこのグループ、ペース乱される。

 悪い子たちじゃないんだけど。

 いつも話相手の妖狐のお年寄りたちはもっと全体的にもったりしてるから。スピードになれない。多方向から一気にくるし。


「大家さんからオッケー貰ったらお泊り会したーい。静かに!」


 ありなのかしら。お泊り会。

 まあ、入居者は人間の姿で生活してるからまあ大丈夫かしら。

 粋連だって彼女さん泊まってたし。でもなにかのはずみで天井や床が抜けて、おくつろぎ中の狐が落ちてくる、こっちが乱入しちゃうことになったら危ないわよね。

 お泊り会決行前に挨拶しておかないとまずいわ。


 めんどくさいわ。


「あ、おかえりこはるん!」

「た、だいま」


 テーブルのグループの意識が教室に入って来た人間にずれた。

 よかったお泊り会の話流れそう。

 このグループのリーダーっぽい、若干勉強苦手っぽい子はあの子と仲が良い。


「呼び出されてたね」

「あ、うん」


「告白されてたでしょ」

「あ、いや……」


「まじか。あれ三年の副会長でしょ」

「イケメンの」


 すごいどうでもいいけどこの子たちのイケメンのハードル低い気がする。

 あの人髪型変じゃなかった?

 わたしは水筒のお茶が熱くて上手に飲めない体を装って、顔を上げない。


「とうとうつきあっちゃう?」

「いや、だから、そういうのはあんまり」


「彼氏欲しくないの?」

「うん、当分いらないかな。勉強でいっぱいいっぱいで、恋愛とか、やっぱりあんまり」


 うそつき。

 という言葉を玄米茶と一緒に飲み込んだ。

 体とかじゃなくて事実熱いので、喉がうわっとなって腰を浮かしたくなったけど根性で耐える。


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