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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
日比谷消極
11/155

今日のところは、ここまで

「……さん」


 肩をゆすられて、瞼を開いて。


「椿さん」


 声の方を向けば、同年代の子より若干大人びた女の子が。


「あれ……小春さん、どうしたんですか」

「どうしたもこうしたもありません。待ち合わせの時間過ぎてますよ」

 時計を見て、僕は慌てて机から身を起こします。寝過ごしてしまった!

「ああ、ごめんなさい」

「おわびとして、私と付き合って下さい」


 立ち上がって背伸び。斜め下の小春さんは僕に向かって右手を差出し、きらきらとした目で見てきます。

 僕はその手を取らずに上着に袖を通して、靴を履いて部屋の外へ。


「可愛そうなので言いませんでしたが、小春さんは全然僕のタイプではないんですよ」


 大嘘です。板張りの廊下をゆっくりと歩き出すと、後ろから小走りの足音が。

 回り込んできた彼女が、僕の顔を覗き込んできます。

「じゃ、好みのタイプを教えてください」

「そもそも人間とは、恋とかありえないんですよ」


 結局、根負けしてしまった僕は、彼女に名前を告げ友人として関わることを選択しました。

 でもこれ以上は絶対に踏み込みません。

「絶対ないんですか?」

「絶対ないんです」


 この想いは正に死ぬまで、隠し通してやりましょう。


 人を欺くのが、狐の本分ですからね。


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