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今日のところは、ここまで
「……さん」
肩をゆすられて、瞼を開いて。
「椿さん」
声の方を向けば、同年代の子より若干大人びた女の子が。
「あれ……小春さん、どうしたんですか」
「どうしたもこうしたもありません。待ち合わせの時間過ぎてますよ」
時計を見て、僕は慌てて机から身を起こします。寝過ごしてしまった!
「ああ、ごめんなさい」
「おわびとして、私と付き合って下さい」
立ち上がって背伸び。斜め下の小春さんは僕に向かって右手を差出し、きらきらとした目で見てきます。
僕はその手を取らずに上着に袖を通して、靴を履いて部屋の外へ。
「可愛そうなので言いませんでしたが、小春さんは全然僕のタイプではないんですよ」
大嘘です。板張りの廊下をゆっくりと歩き出すと、後ろから小走りの足音が。
回り込んできた彼女が、僕の顔を覗き込んできます。
「じゃ、好みのタイプを教えてください」
「そもそも人間とは、恋とかありえないんですよ」
結局、根負けしてしまった僕は、彼女に名前を告げ友人として関わることを選択しました。
でもこれ以上は絶対に踏み込みません。
「絶対ないんですか?」
「絶対ないんです」
この想いは正に死ぬまで、隠し通してやりましょう。
人を欺くのが、狐の本分ですからね。




