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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
恐れ入ります、恐れ入ります、当て馬にもならない道産子が通ります。あっ、ご協力ありがとうございます。
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風が吹けば桶屋が儲かる的な、とばっちり

 

 今日は2月5日、日曜日の朝です。


 椿さんはお仕事がお休みで私も学校休みなので朝から晩までずっと一緒にいられます。

 いつもなら平日と同じように朝、椿さんが起きる前にお部屋にお邪魔して、寝顔を堪能しつつ朝ごはんの支度をするという幸せな朝のはずだったんです。


 はずだったんです。


「えっ、この海苔の佃煮手作りなんですか?」

「しけっちゃった海苔いちいち炙って使うの面倒じゃない?だから煮ちゃうのよね」


「あー。海苔使わない時は使わないですもんね」

「そーなのよーおとーさんおにぎりもお餅も海苔いらない派だし。もうお正月のお餅も食べちゃったし」


 私の目の前で、おかーさんと椿さんが楽しそうにお話ししながら朝ごはんを食べています。

 ここは私の家です。


 昨日の夜「椿さん、朝ごはんうちで食べることになったから」と、なぜかおかーさんからそんな報告を受けまして、今です。


「危機感がありませんでした。最近暗いですし、物騒ですし、小春さんに何かあったらいけませんから、僕が通わせていただくことにします」


 だそうです。

 だそうです。


「あらーこのふきの煮物おいしいわ椿さん」

「大家さんが山菜取りに行ったみたいで。アクティブですよね」


「そうよねー。しっかりしていらっしゃるし」


 椿さんとおかーさんが隣同士に座っているのは、4人掛けテーブルで空いている席がそこしかなかったからで、向かいは私なので、いいんですけど。

 仲がよさそうなのが、妬けます。


 椿さんがおかーさんとばっかり話しているのは、基本的におとーさんが無口なのと、わたしが今、何も喋らないからなのですが。


 急に、うちで朝ごはんを食べると言い出した時は、気分なのかなって思っていたんですが、ちがうんですって。

 これからずっとうちで食べるんですって。なんでですかって聞いたら


「よく考えたら、小春さんを朝早くに外出させるのって防犯上よくないなって、今更気づいて。遅かったですね。すいません」


 ですって。


「うちのご近所さんにはそんな不届きな人いないですよ」

 って反論したら


「小春さんはもう少し自分が素敵だという自覚を持ってください。よからぬことを考える人がわざわざ付け狙ってこの辺まで通いたくなるレベルのかわいさなんですから」


 と、なぜか怒られてしまいました。更に。


「お迎えとかもいらないですから。あの、夜間はチェーンをかけることにしたので、朝早くうちに来ても合鍵で入れないようにしますから」


 ですって。

 ですって。


 なんだかない肚を探られたようでちょっとむーです。

 いえ、多分今くぎを刺されなければ思いっきりしていたでしょうが。


 という事はつまり、わたしは今後、寝顔の椿さんを見る機会がガクッと減るって事です。

 きっと、うちでご飯を食べるという事は、約束した行ってきますのちゅーはしてもらえないのでしょう。あとぎゅってしてもらうのも。私も恥ずかしいのでちょっと抵抗ありますし。

 野生の椿さんの遭遇回数も減るのでしょう。


 ああ、人生の楽しみが半分くらい減った気がします。


「じゃあ、明日その納豆持ってきますね。ねぎもきざんで持ってくるので」

「あらー助かるわ。一品肩代わりしてもらえるなんて。でも、無理しないでね」


 お話がはずんでいて、とっても楽しそうです。

 私は何も楽しくありません。


 お茶をすするおとーさんもあまり面白そうじゃありません。

 なんだかんだラブラブですからね。うちのおとーさんとおかーさん。


 自分の奥さんの隣に世界一格好いい、元の姿に戻れば世界一かわいい男のひとがいて楽しそうにしている状況は面白くないに違いありません。


 今までなんの問題もなかったのに、なんでいきなりそんな事を言い出したんでしょうか。

 原因は何なのでしょうか。

 タイムマシンがあったら、原因を突き止めて椿さんがそれと遭遇するのを全力で阻止するのに。


「いつも作ってもらっていましたので」


 と、椿さんが持ってきた卵焼きは、箸を入れた瞬間にだしがじわっとでてくるやつで、わたしの作っているやつより全然おいしくて、八つ当たりだってわかっているのにむかむかします。


 すごいぷるぷるです。

 卵焼き大好きなおかーさんを気遣って、おとーさんはいつもあまり卵焼きに手を伸ばさないのですが、がっつり食べています。

 悔しい。

 そしておいしい……!

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