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門前仲町小夜曲  作者: ろじかむ
恐れ入ります、恐れ入ります、当て馬にもならない道産子が通ります。あっ、ご協力ありがとうございます。
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【R15……?】超普通の日常パート・後編/おにいさん(ぽんこつ)といっしょ

 ええと。

 ええと。 


 あ、放心していました。とりあえず目覚まし時計止めないと。


 じりりりりと、殺意を覚えるようなけたたましい叫びを上げ続けるアナログの、ザ、目覚まし時計な時計は電子レンジの上でまだ金切り声を上げています。

 キッチンに引き返してそれを停止させて。


 それで……小春さん行っちゃったから……今僕一人で……だからもう取り繕わなくて……いい……!


「――なんなんだ、小春さん、かわいすぎる。いつもキス結構積極的にしてくるのに、なんでさっきは恥じらってたんですか。そそるに決まってるじゃないですか。あーもーめちゃくちゃにした――――――い!」


 ご近所迷惑にならない程度に欲望を吐き出すことにします。

 形にすることによって外に逃がせてなんとなくすっきり出来るので。効果的な手段です。


「もうやだ小春さんのばか、かわいいところがばか、小悪魔、あれぞ小悪魔、僕の欲望を的確にくすぐる小悪魔」


 誰も見てないし聞いていない所で暴れられるって楽しいです。

お店で下宿していた時は、あそこ店長さんの領域なので、聞かれてたら嫌だなって遠慮してたんですよね。


 身体のおもむくまま、くるっと一回転とかぴょんぴょんしても恥ずかしくない。


「もはや僕を誘惑することに関しては小悪魔の域を離れド、いやもはや魔王!あーあー一戦交えてえ。一戦どころかもうなんか一線を越える戦いを日付変更線越えまくりながら行いたい……!意味わかんない。なんで飛行機の中で事に及ぼうとしているのか僕は。あたまおかしい。でもおかしいでしょうあのかわいさ。犯罪だ!」


 今、自由です。

 この場所に僕一人。


「ベタですけど僕の心を盗んだ窃盗犯ですよ。返してくれなくてもいいので物々交換で示談に持ち込みたい」


 だからちょっと頭おかしい事言っても大丈夫。

 あれ?一人暮らしって最高じゃないですか?

若者が皆こぞって実家を出たがる理由が分かった気がします。


「あーあー一晩中あんあん言わせたい。開いてめくって見つけたい、何をかは言わずもがな。ほんとう言わずもがな。声に出して言いたい日本語言わずもがな。なんか淡水魚でいそうイワズモガナ。コケ食べてそう。コケで満足できるんですかイワズモガナよ。僕は、もっと、別のものが、食べたいでえーす!」


 なにやらちょっと楽しくなってきてしまいました。


 まだ出勤まで時間あるしビール開けちゃおう。

 しょうがないなあ椿くんは。冷蔵庫から取り(いだ)したるは、てれれってれー。サッポロ黒ラベルうー。

 冬はなんかね、寒い所の会社で作ったビール飲みたくなるんです。そういうものです。


 プルタブ開けて、行儀悪く直のみです。缶は当然ながら冷たくてかたい。

 さっきの幸せな感触とは程遠くてさびしい。


「……あーあ……」


 小春さん。


 なんで学校行っちゃったんですか。勉強するためですよねそうですよね。

 学校ってどんな感じなんでしょう。

 小春さん何してるんだろう。どんな話してるんでしょう。

 隣の席は男子なのでしょうか。


 小春さんはああ言ってくれていますが、男子は絶対小春さんのこと好きじゃないですか。クラス全員。

 ……あまりおもしろい気持ちではありません。明るいお酒派なんですが。

 いい歳して独占欲ばりばりで嫌になります。大人の余裕とか、ない。


 色々、ない。


「小春さん学校なんていかなくていいのに。ずっと一緒にいたい」


 そんな訳にもいきません。僕は仕事がありますし。

 もっと昔ならいざ知らず、このご時世、女の人も学問大事。

 僕がずっと一緒にいて養ってあげられるわけじゃないし。


 訳じゃないし。


「…………」


 あ、唐突に重い気分に。


 だめだ。ビールを零さないようにそのへんにおいて。床に寝転がります。

 冷蔵庫前なのでここキッチンですけど。行儀悪いですけど誰が見ているわけではありませんし。

 ちゃんとここ昨日クイックルワイパーしたし。

 汚れてないのですが床は冷たいです。しょげる。


「あーあ」


 色々考えていると、最近この気持ちがやってきます。

 直視したくないので、したところでどうにかなることではないので、なにか楽しいことを。


 好きな人の事を。


 どうしてあんなにかわいいんだろう。やわらかいし。やさしいし。名前を呼んでもらうときもちいいし。触ってもらうとうれしくて飛び上がりたくなる。いいにおいするし。

 特に首筋あたりから甘いにおいするし。おいしそう。本当おいしそう。


「あーあー。保健体育したーい。小春さんと保健体育的なことをしたい。僕だってそれくらい存じ上げているのですよー。人並みに。バリバリ教えて差し上げられるんですよーあーいいなあー保険体育………」


 たわごとを口からだだもれさせつつ床に寝そべりながら足を動かしてなんとなく床をずりずり仰向けで移動していたのですが、ありえないものが視界に入ってきました。


 紺地に白糸で自由の女神の刺繍が入ったハイソックス、ほっそりした生足、プリーツ太めのスカート、前をあけたままのダッフルコート。床からでも存在が確認できるやわらかそうな胸、そして美人さんの顔。


「え…小春さん……?」


 さっき出て行ったはずの、玄関扉の向こうの階段を駆け下りた音は確認できていたはずの小春さんがそこにいました。


「あ、あの……腕時計を、洗面台に忘れてしまって、すいません……お取込み中……」


 高低差があるので小春さんの表情は上手くうかがえません。うかがえないまま洗面所に消えていきました。あまりの衝撃に僕は起き上がれません。 


 どこから聞かれていたんでしょう。

 どこからでもアウトです。


 背中限定で冷や汗を身体が作り始めました。嫌われたら生きていけない……。

 言い訳はもうみっともない。あ、謝るしかありません。


 なんて?


 性的な目で見すぎてすいませんとかでしょうか。謝ろうにも身体が上手く動きません。

 起き上がらないととじたばたしているうちに小春さんが戻ってきて、僕の顔の横にしゃがみます。


「あの、具合悪いんですか、椿さん」

「いいいいえ、全然。すこぶる快調です」


 ほっとしたように微笑む小春さん。

 幻滅されている様子はありません。

 何かミラクル起きて、何も聞かれていなかったのでしょうか。安心しそうになったところで小春さんの眉がぐっと寄りました。


「椿さん」

「は、はい」


「学校の先生になろうとか、絶対に思わないでください」

「え?」


「絶対嫌です」

「あ、はい」


「……わがままでごめんなさい。行ってきます」


 ぺこりとおじぎして、立ち上がって、くるりと回って、小春さんは行ってしまいました。


「え……え……?」


 予想外の反応に、僕は対応できないでいます。なぜいきなり。


 でも保健体育の下りは聞かれていたという事で……恥ずかしい……消えてなくなりたいという気持ちはありますが、僕の心は謝罪一色ではありませんでした。むしろ謝罪の割合二割くらいです。


「……ピンク……ピンクだった……なんかかわいいピンク……あれなにピンク……?超かわいいピンク…」


 しゃがんだ時に見えてしまいました。スカートの中身が。

 男子中学生は風の日か鉄筋製の非常階段の下に潜まないと目にすることが出来ない、世にはびこる布製品の中で男子が好きな布製品トップ3に入るであろうあれを……!


 あれで上下おそろいなのでしょうか。

 それって最高じゃないですか。


 あー……

 あー……

 ……もう本当自分が嫌です。最もピンクなのは僕の頭の中です。

 早く春こないかな。


 文化的な思考に戻りたい。発情期じゃない僕だったら今だってきっと――


「……でも「おっ」くらいは思いますね。多分」


 めくってまで見たくはないのですが、棚ぼた的な感じなら大歓迎です。

 ますますスカートって危ない。

 小春さんの学校制服ズボンにならないかな……

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