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限定勇者  作者: 大和伊織
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たどりついた場所で

 食事はありがたいことに、とても美味しかった。犬みたいにもりもり大分食べ進めたところで、そういえば君成に毒見とかしなくていいんだろうかと思いだしたときにはもう遅く、彼は急ぎながらも丁寧に綺麗に食べていた。

 「毒見とか大丈夫だった?」

 「ああ、もともと俺は毒の匂いが分かるように教育されてるからな。あれは、俺への忠誠心を計るようなものだ。それに、もう俺は王じゃない」

 「君成は王だよ!」

 僕が何だか泣きそうになりながらそう叫ぶと、君成が笑って僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。なんだろう、すごく、すごく優しくなった気がするんだが、どこか違和感がある。


 腹一杯になり、ようやく詩歩がいないことに気付く。一緒に食事をしたくないのだろうか、僕が目線だけで探していると、ターバンを巻きなおしながら帰ってくる彼を見て、納得した。顔を見られたくないのだ。

 「では、出発しましょうか」

 「えと…行き先を聞いてもいいかな」

 「と、言いますと」

 「探したい子がいるんだ」

 僕らを買ってくれた彼が敬語で、僕がタメ口。落ち着かない上に全て話すわけにはいかない状況で、僕は言葉を選びながら、気をつけながら、懸命に説明した。突然の訪問者により家を奪われたこと、魔法空間でここまできたこと、そして一緒に来たはずの妹が行方不明だということ。詩歩は簡潔に、大変でしたね、と言った。その簡潔な言葉が、気が楽だった。君成はといえば、ただじっと、僕の様子を黙って見ていた。

 「では、今、ここがどこかも分からないのですね」

 「うん、そうなんだ」

 「では申し上げましょう。ここは場鳥という国の近くです」

 「場鳥だと?」

 「君成、知ってるの?」

 しまった、名前を呼んでしまった―きっとものすごく青くなっている僕の向かいで、詩歩は何も変わった様子もなく、君成も落ち着いていた。少なくても、詩歩は君成王のことを知らないようだし、もし知っていたとしても君成は構わないといった様子だった。格好悪いのは僕だけだ。

 「地図はあるか」

 「はい」

 詩歩が胸元からばらんと地図を広げる。君成は身を乗り出し、僕にしか聞こえないように、編音がここ、そして無帝国がここ、と説明した。僕は絶句した。遠すぎる。良いんだか悪いんだか、編音には近くなったけど。

 「場鳥はここだ」

 詩歩にも聞こえるような大きな声で、君成が指差し、僕も隣から身を乗り出す。大きな国だ。国の北部が海に面しているらしく、隣国も多い。

 「安全なの?」

 「比較的安定している国です」 

 「ああ、そう聞いている。それに、人も多いから情報もある。来海のことも分かるかもな」

 「ええ、それに千の妹なのでしょう?血は巡りあうと古来から言い伝えられてます」

 「ありがとう」

 魔法、というよりも、叶ったらいいおまじないレベルの話だが、僕は実際来海と出会えたんだ。奇跡が一度起こったんなら、もう一度起こったっていい。僕が信じなきゃ。

 「では、急ぎましょう」

 「うん…あ、詩歩はいいの?何か用事とか」

 「ええ、それならもう済みましたので」

 そう、と返事した僕が、詩歩が君成と不自然に距離を取っていることに気付いた。君成のこと嫌いなのかな―いや、ていうか、そもそも何で僕らを買ってくれたんだろう。人間不信になりつつあるなあ、僕。



 それからは、快適すぎるくらい快適な旅だった。移動は全て馬車、泊まりはキャンプだったが、食事は全て詩歩がどこからか買ってくれたもので、おまけに僕と君成の2人だけ。気も楽だった。詩歩はよほど、顔をさらしたくないようだ。三食昼寝つき、いや昼寝はしてないけど、労働もなし。完全に食事を提供してもらうだけ。無償で。だんだんと自然に喜べなくなってきた。目的が全く見えない。かなり失礼な話、不気味だ。

 「大丈夫かな、君成を狙う奴とかじゃないかな」

 「お前も随分いい性格になってきたな」

 「君成に言われたくない」

 「ははっ」

 「…君成。よく笑うようになったね。雰囲気も柔らかくなったし」

 嬉しくなった僕が思わずそう言うと、君成がふ、と、真顔になり、スープ皿を地面に置いた。僕も食事を一旦止めて、君成の顔をまっすぐに見た。

 「治療されている間、ずっと髑髏に襲われる夢を見ていた」

 「…えっ?」

 「倒しても、倒しても湧いてくる。そして、最後に斬るのが、いつも、数多かお前の顔になるんだ」

 僕は、君成の笑顔に安心して、ちっとも気付けないでいた。考えようともしなかった。君成はずっとずっと、見えないように泣いていたんだ。

 「数多は俺を置いて死んだ。千はそうしたくない。だから、数多の真似をしていれば、強くなれるのではないかと思った」

 「…へっ?」

 間抜けな声が出た。笑ったり頭撫でてくるのは、数多の真似だったのか。なんだかんだで君成に甘甘だったからな、あの人。そう思うと可笑しくなった僕に、また、手が伸びてきた。

 「どう接したらお前を斬らずに済むのか分からない。これで合っているか、千」

 「うん…大丈夫。合ってるよ。人にどう話していいのかとか、どう優しくしていいのかとか、全部、誰かの真似していって覚えていくと思うから。正解。花丸」

 僕が地面に花丸を木の棒で大きく描くと、君成が珍しそうに覗きこんだ。

 「千、なんだそれは」

 「あ、こっちの世界にはないのか。あのね、これは―」


 とんっ!

 「ひい!」

 「おっ」

 

 矢、矢が飛んできた。何、敵襲なの、慌てて戦闘態勢を取る僕の隣で、君成は冷静に、周りを見ていた。そしてやがて、姿勢を崩した。

 「大丈夫だ、流れ矢だろう」

 「流れ!?どこから!?」

 「知らん。もう寝るぞ、眠い」

 「自由」

 まあ、矢くらい流れてくるだろう異世界だし。ていうかーまさか打ってきたのって詩歩じゃないよな。ていうか絶対そんな気がする。なんか、詩歩が寝てるはずのテント、殺気立ってる気がするし。



 朝が来て、出発し、昼前になる頃には、大きな集落前に着いた。たくさんの兵が槍を持ち、詩歩と怒鳴るように会話している。僕をかばうように立ってくれている君成が、顔を隠している。僕も真似ようとしたが、すぐに止めた。僕は顔がばれても大丈夫なのだ。ここにきて、僕はようやくあることに思いあたった。

 「…る…く、っ…すう…」

 「…え?君成、何か言った?」

 「まずいな。歓迎されていない」

 「え、え、言葉が分かるの?」

 「学習した。まだ六割程度しか分からないが…どうも調べさせろと騒いでるようだ。おまけにお前の方を」

 「ええ!?」

 君成の学習能力の高さに驚くよりも、そっちの方が衝撃が強かった。君成ならまだ分かるけど何だって僕―焦る僕らの元へ、詩歩が急いで戻ってきた。

 「すいません、食料をまとめ買いしたかったのですが、入れてくれないようです。逃げます」

 「わ、分かった」

 「…千!」

 「うわ!?」

 走りだしたつかの間、僕の右足は縄でからめとられ、すごい勢いで引っぱられた。僕が派手に転ぶと、そこへゆっくりと少女が近づいてきた。まだ七歳くらいだろうか。空色の瞳が印象的な子が、僕にいきなり口づけた。

 「うぐ!?」

 まさか毒か何か、僕がたまらず咳き込もうとするが、どこも苦しくならないし、何より、僕はその感覚を知っていた。

 「突然のことで失礼致しました。言葉が分かりますか」

 「…はい」

 やはり、翻訳チュウだ。とても幼子とは思えない凛とした態度と声の落ち着きに僕が敬語で返事をすると、彼女は僕の耳の後ろを探った。すると、彼女の手には赤い石がある。あんなものいつの間に耳の裏に―近くの兵士たちが騒いでる。かなりの高純度の魔石だそうだ。魔石、という単語に僕は泣きそうになった。

 「魔力の正体が分かりました。これはお返しします。よく、あなたを守ってくれている」

 鈴、鈴ちゃん。ありがとう。ありがとう。ずっと気付かなくてごめん。いつから守ってくれてたの。ずっと守ってくれてたの。ありがとう。

 「ようこそ、わが集落へ」

 君成と詩歩が向こうから走ってくる足音が聞こえる。少女がお辞儀し、僕もお辞儀した。



 集落は町、というよりは村といった印象が強かった。集落の全体は見渡せるほどの広さで、家も数えられるほど。お世辞にも裕福そうには見えない。ならどうして兵がいるほど潤っているのか、僕は集落全体を歩いてみてすぐに分かった。村には兵以外男がいない、それ以外はすべて女性ばかりで、揃いも揃って美少女ばかりだったのだ。彼女たちがどういう存在なのか、僕は考えないようにした。

 集落の人々は、僕らが食料と水だけ調達にきたと分かると、兵は引いたが、集落全体の歓迎してないムードはぴりぴりしきっていた。早く帰れと顔が言っている。言われなくても長居はしませんよ、さっさと荷造りしてさっさと支度を整えている僕の向こうで、詩歩から心配そうな気配がした。顔見えないから、なんとなくだけど。

 「困りましたね」

 「どうしたの」

 「いえ…そろそろ、あちらの方をまともに休ませなくてはと思っていたんですが」

 僕は、あ、と呟いた。そうだ、全く気にしてなかったが、君成は王宮生活だったのだ。連日野宿では、僕は平気でも君成は何かしら体調を壊すかもしれない。

 でも、ここまであからさまに歓迎ムードでもないし―でも詩歩の考えも分かるな―僕が迷っていると、僕たちを招き入れてくれた少女が近づいてきた。

 「どうぞ、旅のお供に水入れです」

 うう、早くもお土産を渡してくれている。負けそうだが、負けないぞ。

 「あの…連れの者が風邪を引いていて…良ければ一泊休ませて頂くと」

 「風邪?」

 「あ、な、治りかけなんだけど」

 元気いっぱいに集落を探索している君成に、嘘が上手くつけない。いや、もともと嘘は得意じゃないんだけど。僕がしどろもどろに発した言葉に、少女は少し考え、顔を上げた。

 「見ての通り、狭い集落です。旅の方に泊まって頂くような場所はありませんが、ばば様の家なら部屋が余ってます。相談してみましょう」

 「あ、ありがとう!」



 案内されたばば様の家は、集落の中でも広くて綺麗な木造の家だったのだが、申し訳ないがものすごく酒臭い。煙草臭い。これならテントの方がマシだったのではと思ってしまったが、部屋のベッドを見て、僕の喉はごくりと鳴った。ベッドが恋しかったのは僕だったようだ。

 葉巻をぷかぷか吹かしながら、ばば様が僕らを見上げる。指が折れそうなくらい指輪してる。僕の腰くらいまでしかない小柄さだが、何だか妙に迫力がある。

 「トイレは外、煙草も外、何かあっても知らないさね。夜中騒いだら、ただじゃおかないよ」

 「は、かしこまりました」

 僕がお辞儀しているのに、詩歩と君成はさっさと部屋に行ってしまう。薄情な奴らめ。

 僕が部屋に入ると、君成はもう眠っていた。よほど疲れていたのだろう。布団も着ないで―僕がよいしょよいしょと君成に布団をかけてやっていると、ノックが聞こえたので返事をした。入ってきたのは詩歩だ。

 「明日、朝早くにここを出ましょう。誰にも会わないうちに」

 「え?」

 「あなたの魔石に気付いたことが気になります。念には念を入れて―薄情かもしれませんが、あなたたちは私の所有物ですので言うことを聞いて頂きます。よろしいですね」

 「分かったけど…念には念をというなら、僕も確かめたいことがあるんだ」

 「何でしょう」

 「君は、誰?」


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