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限定勇者  作者: 大和伊織
17/20

一人目

 

 

 午前中忙しい数多だが、すぐにつかまった。というかつかまってくれた。仕事を中断し、僕を招きいれた。僕が手紙が捨てられていたことを話すと、彼は笑っていた。

 「僕が手紙を?そこまで性格悪くないですよ」

 「分かってます。でも、メイドさんがこの手紙だけ落とすのは、どうも不自然過ぎて。あなたが落とさせたんじゃないかと」

 「…なぜ?」

 「僕への褒美のつもりでは」

 僕がそこまでしゃべると、彼は大笑いしていた。一通り笑うと、彼は咳払いして、座りなおした。

 「本当に面白い子だ。そうですよ、僕は、君の手紙が捨てられていることに気付いた。メイドをてなづけるなど簡単だ、夜に呼び出して」

 「最低ですね」

 「知ってますよ。手紙には何と?目が赤いですね、帰りたくなりました?帰れれば、の話ですが」

 編音は、鈴の国だ。鈴の魔法石で成っていた国だ。彼女がいなくなれば、当然それもなくなる。そうなってしまってずいぶん経つ。怖い、けど、僕はそれを聞かなくてはいけない。 

 「帰れないんですか」

 「とっくに侵略されてるでしょうね」

 後ろから、何か大きなもので殴られた気分だった。僕が震えていると、数多がハンカチを差し出してくれていた。泣いていたらしい。彼は大げさにため息をついていた。

 「そう素直だと、苛め甲斐がない。あそこの王女の頭は空だが、兵長は優秀だ、あなたが想像するほど酷くはなってないでしょう。想像ですけどね」

 「自慢の師です」

 「…そうやって君は、いつもいつも、国の中心に関わっているんですね…そんな君に、お願いがあります。もし、私に何かあったら、王をよろしくお願いします。この国の兵たちは、誰も頼りにならない」 

 「出来るだけ長生きして下さい、俺には身が重すぎます」

 「あっはっは」



 数多との授業が終わり、次は君成との時間だ。手紙を処分していたのは数多ではないとすると、もうあとは君成しかいない。兵を引き連れ、廊下で会った君成は笑顔だった。

 「おお千、今から行こうと思っていたところだ」

 「王。僕への手紙を処分していたんですか」

 噛まずに一気に言えた、君成の瞳が冷たい、後ろの兵士たちが何か騒ぎだてているが、僕はただ、目の前の君成に集中していた。目をそらさずにいることに必死だった。

 「もう、止めて頂きたいのですが」

 「貴様!いくら、王の友人とはいえ、無礼が過ぎるぞ!」

 「よい。千、こちらに来い」

 

 言われるまま、僕がついていく。兵がいなくなり余計に緊張するが、2人だけになると別の緊張もある。いつも君成に説教したり絵を描かせたりしている部屋に移動すると、彼がいつものテーブルに座る。僕も座った。

 「こういうときは詫びるのが当然なんだが…俺は悪いと思っていない。手紙は読ませてもらった。隠し文章で、王女が消えたことが分かった。お前が国に帰したくなかったんだろうな」

 「ひ、他人事みたいに話しますね」

 「そうだ、分からない。まるで自分が自分でないようだ。最近、ようやく、どうしてこんなに千を失いたくないのか分かった。お前は、お前だけは、ちゃんと顔が見えている」

 「…顔、ですか?」

 「ああ。産まれたときから、周りには人より獣に近い連中ばかりで…剣の才があり、王になったら、仕えてくれるものが山のようにいるが…みんな顔が同じに見えるんだ。男も女も、兵も奴隷も、国民全て髑髏に見える。けど千は、違う。ちゃんと笑う。ちゃんと怒る。髑髏じゃないんだ」

 「そ、そうですか」

 王、イケメン控えて。僕の照れがもうなんか限界だよ。おまえは親友だと抱きしめられるばりに恥ずかしいよ、されたことないけど。されても恥ずかしかっただろうけど。

 「千は理由は分かるか」

 「なんとなく分かりますけど、それは教えてあげません、自分で考えて下さい」

 「…お前、数多に似てきたな」 

 「何ですって!?」



 それは大変だ、僕はそれから君成に久しぶりに恥ずかしい講義をしていた。今日のテーマは友情だ。君成は相変わらず熱心に聞いてくれていたため、余計に恥ずかしい。

 講義が終わり、昼食を食べると、廊下を歩いていた僕は、井戸端会議をしている兵たちを発見した。井戸ないけど。難しい話、僕は聞かない方がいいだろう。早足で移動しようとすると、兵の1人に呼び止められた。

 「少しいいか」

 「?はい」

 「おい、こいつに話すのか?」

 「初めての王の友人だぞ、おまけに全く処刑される気配がない」

 なんだかものすごく怖い話をしながら、兵が僕の手を引いて、会議室に拉致られる形になった。


 議題は、王がずいぶん夜伽を呼んでいないということだった。来海から聞いていたし、僕もそこまで真剣に考えていなかったが、兵たちにとっては大問題のようだ。

 「この国の歴史は酷い。君成様が王になって、ようやく、国として出来あがったようなものだ。正直、次の王は君成様の子というのではなく、また大会で優勝したものにでもしようと思ったが、それではまた、あの地獄の日々に戻るかもしれない。君成様は変わった。今は国民の信用も得始めている。この信用を失うのはあまりに惜しい。しかし、このまま君成様が結婚されないとなると。世継ぎが―」

 「よ、養子とかでは駄目なんでしょうか」

 「どちらにしても、結婚はしてもらわないと困る」

 なるほど、ごもっとも。

 「お前が女だったらな…」

 また言われた、なんだか重くなった会議の中、ふと別の兵が声をあげた。

 「あの、メイドはどうだ。千月の知人なら、君成様も、もしかしたら」

 「ああ、名前は…来海といったか」

 「え!?」

 「ああ、確か、恋人だったな」

 「そう、そう、恋人ですよ!だから来海は」 

 「まあ、王がもし気に入ったらそれまでだな。諦めろ」

 兵全員に肩をぽんぽん叩かれた。

 いやいやいや!!



 無理やり終わらせられた会議の後、僕は急いで来海を探した。が、メイドとして忙しく働いている彼女はすぐに見つけることが出来なかった。僕はどうしようもなく部屋に戻ると、なんと来海がいた。

 「来海!」

 「千月様…」

 僕は来海に飛びつかんばかりのテンションだったが、さすがにあんまりだと寸前で理性が勝った僕は結局間抜けに転ぶ羽目になった。来海の格好に度肝を抜かれたのだ。

 「くっ、来海!?」

 恥ずかしそうに身を固くしている来海は、まあ、その、言葉を選べないからそのまま言うが、下着姿だけだった。かなり背伸びした下着ではあるが、いや決して似合わないというわけではなくて、ああもう僕は混乱している。

 「どうしたんだ、その格好!」

 「あの…私…王とお見合いすることになりました。元は奴隷ですので、結婚はしないと思いますが…夜伽の相手には…また…呼んで頂けるかもしれません」

 ずん、と、僕の背中に何か重いものが突き刺さったような感覚だった。分かっている。来海と知り合ったきっかけだってそうだった。けど、僕は、どこかで大丈夫だと思っていたんだと思う。来海は僕の恋人ということになっているし、君成はどこがいいのか僕を買ってくれている。けどそこから先のことを考えていなかった。君成は、周りの意見も聞かなければならない。

 「そ…そうなんだ」

 結構時間があったくせに、こんな言葉しか出なかった。何て言葉をかけていいか検討もつかない。そんな情けない僕の向かいで、来海は口を開いた。

 「私…千月様のおかげで、まだ、その…未経験なんです…王に捧げるのが光栄だとずっとそう信じて疑わなかったんですが…千月様、受け取って頂けないでしょうか」


 ん?


 何だろう、今、僕の耳、ばぐったかな。

 「ごめん来海、今、何て」

 「な、何度も言わせないで下さい…王のお手がつく前に…私、始めては千月様と…」


 聞き違いじゃなかったー!!


 いやそんなお中元みたいに、いやこの場合お歳暮か、いやそんなもんどうでもいいわ、困る困るそんなもの貰えない!据え膳食わぬは男の恥とか聞いたことあるけど、これは無理だ!こんなご飯食べられないよ敷居が高すぎるよ!

 「来海、落ち着いて!僕、僕には心に決めた人が」

 僕の叫びも空しく来海が自分の下着に手をかけ、僕は慌てて自分の両目を自分の両手で隠した。しかし、その手は、自然と滑るように落ちた。僕の目は、来海の露わになった肌から目を背けられなかった。僕の目は、彼女の右肩に釘付けになっていた。

 「…あ、あんまり見ないで下さい。ここの傷、恥ずかしいんです」

 「…っ、はは…」

 「千月様?」

 「ごめん、来海の裸が変とかそういうわけじゃない、ごめん」

 僕は謝りながらも、唇の震えが止まらなかった。どうして、こんな簡単なこと分からなかったんだろう。僕を好きなんて言ってくれる女の子、例え異世界を探したって、鈴子と家族くらいだ。僕ら兄弟には、みんな同じところに傷がある。何か特別な理由があるわけではない。幼い頃、はまっていたアニメの主人公の肩に傷があり、三人揃って、お互い肩に傷つけて、痛がりながらも喜んだ。当然両親にはものすごく叱られた。特に妹は女の子だったから、余計に怒られていて大泣きしていた。

 君成が僕の家族を探す必要がないと言っていた意味がようやく分かった。いたんだ、ずっと僕のすぐ近くに。いてくれたんだ。


 「          」


 妹の本名を呼び掛けて、僕は止まった。呼んではいけない気がした。それを呼んでしまったら、鈴みたいに消えてしまうんじゃないかと思って。

 「千月様…どうしたんですか?」

 しかし、美人になるんだな、僕の妹。こりゃ、未来の僕が大変だ。大変な未来の為に、今、頑張る練習をしないでどうするんだ。

 「来海、僕のこと、好き?」

  「えっ…はい、もちろん。大好きです。お慕いしています。こんなにほっとする殿方、始めてなんです」

 「ははっ」

 そりゃそうだ身内なんだから。よし、と決めた僕は、来海を抱きしめた。彼女はきゃ、と呟き照れてくれるが、僕にはもう照れはない。嬉しくて嬉しくて泣きそうだ。

 「ありがとう、僕も来海が大好きだ。でも、いや、だからこそ、僕は何もしない。出来ないよ。もったいなくて貰えない」

 「でも…それでは、私は…」

 「でもだからって、君成にくれてやるつもりもない」

 「ええ?」

 驚いた来海の顔が、怯える顔に早変わりする。彼女は僕しか見ていない。今、僕は、きっとものすごく兄馬鹿の本領を発揮して怒っているだろう。

 「僕が何とかする。まあ、大船に乗ったつもりでいてくれ」

 「あ、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか」

 「じゃあ、敬語を止めてもらおうかな。あとお兄ちゃんを呼んでくれたら尚いい」 

 「ええ!?」

 

 こうして僕は、異世界でようやく、1人目の家族を発見した。



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