【第8話】とりあえずモブ狩りだ。
全身をガチガチのガチ武装で固めた、あからさまに「やり手」な片手盾剣装備の女戦士が声を掛けてくる。
声を掛けてくるというより、遠くから呼ばれたようなものだが。
俺とノムさんは立ち止まり、(俺の場合は無理矢理止まらせられたと言えるが)歩いて近付いてくる彼女をしばし待つ。
……その武装、ゲーム慣れしていると一式装備は「うわー」って(色々な意味で)なるけれど、彼女の装備は統一性がない。
これは……凄いの一言だ。
恐らく防具の耐性傾向だけを合わせているのだろう……。
見た目からだけではあまり判断がつかないが、纏う雰囲気も熟練者のそれだ。
右肩は鎧……軽量甲冑なのに、左肩は装備がない。
一の腕に当てている防具も左右で素材もデザインも違う。
さらに注意深く見てみれば、全体的に左側は鎖帷子ないし斬りにくい装備なのに対し、右側はゴツめの装備で固めている……ということは、恐らく右側が対打撃耐性装備で左側が対斬撃耐性装備なのだろう。
素材が燃えにくそうなのもポイントだ。
……さっき西洋剣と日本刀の話をしたが、この人のはまるで右半分が西洋甲冑で左半分が武士甲冑になっているかのようだ。
色を赤で統一してあるのも中々に拘りがある……。
俺も相当のゲーマーだと自負している(当然だ、ニート歴5年の俺がそのほとんどを費やして築き上げた経験蓄積は(あいーんノばかミタイナ自慢話ハ以下略))が、彼女も中々の強者ぶりだ。
これはやりこんでいる。
……というか、ここまで細分化されて装備できるのか、凄い面倒なシステムだな。最高だわ。
「あんたたち新規プレイヤーだろう?」
喋ろうとしたが当然俺は喋れないので(というかそれが当然になってしまったのは何故だろう……何故だろう……)、ノムさんが応対する。
「はい! どっちもさっき始めたばかりです……っ!」
何かにハッとしたような表情になるノム。
「見るからに初期装備だもんね~、アッハハハハハッ……でもあんたら、そんな装備でフィールドに出るつもり?」
見せつけるような立ち振舞いにこの言動。
なんだこの人。自分の装備自慢したいだけの輩か? そりゃ別に自慢が悪いってわけじゃないけど…………新人の、赤の他人にまで自慢せんでも………………っと、決めつけは良くない。
……俺の悪い癖だな。
「でもそんな武装でフィールド外へ行くのは自殺行為だよ」
少しだけ真顔になって、彼女は言う。
「そんなに序盤のモンスターって強いんですか?」
ノムさんも彼女のこの態度にはムッとしていたらしく、間髪をいれずに尋ねる。……語気が強い。
「少なくとも新人二人でどうこうするのは難しい。それに……ちょっと最近ここいらは荒れてるからね~、初級ジョブ以下の連中がうろつくのは危ないんだよ」
はじまりの村なのにかよ…………。
「じゃあ貴女がついて来ていただけるんですか?」
またもかなり強い言い方で、ノムが迫るように聴く。
あわよくば切りつける……とでも言うかのように、ナイフに手を掛けようとしながら。
あいや、これはそう見えただけであって、実際に手を掛ける前に止めてたし……勘違いだと思いたい。
でもなんか怖ぇよ……ノムさん…………。
彼女に対するイメージが少しだけ変わった。
「あら~、 なんだか威勢のいいお嬢さんだこと。……とはいっても私も忙しいから着いていってあげることはできないんだけどね、せいぜい気を付けなさいな」
「丁寧にご忠告どーも」
つっけんどんに言い放つノムさん。
これって所謂女の修羅場って奴か?
……てか、こういうのは俺を巡って言い争うのがセオリーだろうが! ……と、ラノベの主人公の境遇を羨ましがってみる。
あんなの疲れるだけだろうし全然羨ましくないんだけど……
うん、非モテの意地っ張りだね。
「行きましょう、あいーんさん」
「そのなあえでよあないで……」
じゃあどの名前で呼べと言うのか。自分に突っ込んでみる。
自らが撒いた種とはいえ(……果たして本当に自分が撒いた種なのかは知らんが、とりあえず俺の名前はなぜか正しく入力されていないので)、多少……というかかなり情けなくなりながらもノムさんに着いていく俺。
「頑張ってステータス上げましょう!」
あ、なんかさっきまでの雰囲気と変わった……というか戻った?
……まぁ、とりあえずモブ狩りだ。
彼女の言葉に応えるようにある程度張り切りながら、俺達は村門をくぐった。
______その二人の様子を(自分としては)見送りつつ、中級剣士の彼女、ザリアは考えを巡らす。
チキンくんと小生意気なお嬢ちゃん……新人ということは確実にあの事には気付いてないわよね……。
でも自力で気づけるかしら? レベリングなんて安易に始めないといいけど…………。
まぁ、私ならこっち側に引き込むことはできるけど、無闇にちょっかいを出すのはマナー違反になっちゃうのよね……。
例の暗黙のルールに反してしまいかねないというか…………
だから私から教えたりはしない。できない。
アカBANは嫌だからね~……あくまでも傍観。
…………けど。
「レア物だったら欲しーな……」
「ヒントくらい、あげちゃおっかな~」
ニヤけながら佇む……、1人の女性。
【次回の投稿は6月19日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】