【第6話】よーくわかった。
わりとストレートに聞いてみた。
「あのさ、その腰の武器は……」
「あ、これですか? 初期装備になってたナイフです」
……初期装備?
初期装備。
あれだ
最弱武器のあれだ。
銅の剣とか、皮のムチとか、そういうのが一般的な最初から装備されてるあれだ。
うんうん、やっぱりか、よくわかったぞこのクソゲー。
引きこもりのニートには初期武器すらあげないのね、よーくわかった。
ひきつった顔で静止していたためだろうか、彼女が気まずそうに言う。
「あの~、どうかしました?」
「え、……えと……俺、……」
じっと見つめられている状態、さらにはあまり言いたい内容ではないので言葉につまる。
しばし考えた後……最終的に俺は、一番無様なカッコつけかたをした。
「お……俺の初期装備ってこの素手なんだ! 拳法? みたいな?」
【武器】【素手】
うん、そういうことにしておこう。
【なし】ではない。決して。
「おぉ! 友達の話では武器は取り外し不可能だって聞いてたんですけど……そんな闘法もあったんですね! そっか~、素手かぁ! 格好いいです!」
「……え? あ、そう?」
予想外の食い付きっぷりに戸惑う俺。
「はい! もしかして、リーチが短い分攻撃補正とかあるんですか?」
「まぁ、まあね……」
挙動不審になりかけた結果、適当に答えてしまった。
…………後悔。
というか……さっきからこの子、補正だとか言ってるのを見ると結構なゲーマーなのかな?
見た目はそんなんじゃないし、どちらかというとこういう女の子はゲームに疎くて俺が教えてあげるくらいの場面じゃ……
「……それからですね! あのゲームの素手スキルっていうのが本当に便利で……」
一人でペラペラと素手の魅力について話しているのを横で流しながら、俺はこういう時のセオリーに便乗することを決心した。
もう一度、あらかじめ言っておくが……俺はポリシーとして、どのような場面に陥ろうとも女の子を誘うようなことはしない(できない)決して。
現実ではもちろん、ゲーム内でもそれは一緒だ。
ましてや、このあと一緒にクエストでもどうですか?
……などと見知らぬ女性に振れるはずもない。
「なんで?」とか
「ごめんなさい用事が……」とか
「友達と約束があるんで~」とか言われたら、
死んでしまう、心が。
……しかしそれは……。
相手が相当のゲーマーであり、また、こちらもオンラインゲーマーとしてのある程度の素量を持っているのであれば、話は変わってくる。
セオリーが相手にも通じるし、なによりもこれは社交辞令的なものだからだ。
そう、自然。
流れとしてごくごく自然。
ナンパではなく、下心があるわけではなく、まして何か展開を期待しているわけでもない…………。
まさしく自然。
至極当然。むしろここまで話しておいて、その社交辞令的なそれをしないのは失礼に当たる程かもしれない。
無茶苦茶な理論を脳内で構成しつつ……半ば無理矢理決心をつけた俺は、彼女の話が途切れたところを見計らって勇気を振り絞って言う。
「あの……、この後……俺ステータス上げにフィールドに行くんですけど、一緒に行きませんか?」
お暇ならでいいんで……。
と付け加えるのを忘れ、ちょっと合間が空いてしまったので言い直すタイミングも失ってしまい。
あー、やっちまった……
内心そんなことを思う。
…………一応断っておくが別に何か下心があって誘ったのではない。単なる効率的な問題だ。
どのようなモンスターがどのような形式で出てくるのかが分からない以上、ソロよりもパーティの方が心強い。
もちろん手に入る経験値は2分の1になってしまうのだろうが、そこはノルマが倍になるだけで済むし……パーティを組むにしてもそこいらにいる新規プレイヤーに再度話し掛けるのは勇気がいる。
熟練プレイヤーなら、相手の用事を踏まえて考えてしまう俺の性格上、非常に誘い辛い…………。
なのでパーティーメンバーをつける場合、ここで彼女を誘っておくのは中々の良判断のはずなのだが……気楽にやれるという点では同性の方が良かったかもしれない。
そうだよ、断られでもしたら俺は精神的に若干死ぬ…………
などと、いらぬことを思っている間に……。
少し考えている素振りをしていた彼女が
「いいですよ、行きましょう!」
と言ってくれた。
ああ……、……嗚呼。
もしも彼女が、
「彼はチキンだから今の誘いにも相当な勇気が必要だったのではないか……だとしたら無下に断るのは失礼ではないか」
とか考慮した上でOKをしたのだったら……
それはそれで死ぬ。
じゃあよろしくお願いしますね! とにこやかに軽くお辞儀する彼女を見ながら、そんなネガティブ発想をしている俺。
「えーと……」
彼女が頭をあげ、なにかを見るように俺の頭上に眼を凝らす。
「げ」
咄嗟にものすごい洞察力を発揮し、今彼女が何をしようとしているのかを察する俺。
声が漏れ、慌てて頭上を隠す。
そういや名前名乗るのまだだったぁあ!
______内心で絶叫。
「み、見えないですよぅ……」
彼女の頭上に浮かぶプレイヤーネーム……Nom……
ノム?さん、かな?
困った顔でこちらを見つめるノムさん。
「お、俺のは見なくていいから!」
今見せなくとも、モンスターを倒した後のリザルト画面でどっち道ばれてしまうのだが……。
「えいっ」
両手で頭上を隠し続ける俺に、彼女が脇腹をつついてくる。
くほぉっ……
なんだこの幸せプレーは……
くすぐったくて身をよじる俺に対して、頭上の名前を確認するノム。
しばしの沈黙……
「フッ」
あーぁ、鼻で笑われた……
……あーあ。
【次回の投稿は6月15日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】