【第5話】……武器?
俺にもし、度胸などという物があれば……。
ここはお茶にでも誘える(といってもこの鬼畜ゲーのことだ、喫茶店みたいな娯楽施設に入ったところで木の実ケーキやらミルクティーやらを注文してしまえば1500ゼニー……つまりは初期金額を軽くオーバーしてしまうことだろう)場面なのかもしれない____が、当然俺はそんなことはしない。
……というか出来ない。
ようやく効果光が淡くなり、効果も切れてきたようだ……。少し喋って慣れてきたからか?
……いまいちこの種族特性の特徴が分からない。
どのタイミングで掛かって、どのタイミングで切れて、異性に話し掛けられる以外に発動する機会はあるのかとか……
もしもこれが、脳波の緊張を感じ取って発動する……などというタイプなら、戦闘中いきなり敵が現れたときなんかも掛かってしまう可能性がある。
そういった際に臨機応変に対応するためにも、この種族特性について色々と知識が欲しいが…………現状そんな手立てはない。
でもまぁとりあえずは話せそうだし、……俺は思いきって彼女に聞いてみた。
「あなtあも始えたばありのkあたでふか?」
舌がまだ痺れているような感覚なので、うまく動かせない。
呂律が回らず、発音もままならない状態だったが……相手の返事を待つ。
……通じるか?
「あ、はい! ついさっき始めたばかりで……ジョブ探しをしているところなんですけど、ステータスがまだ足りてないみたいですね。この役所のジョブ、どれも1レベのままじゃ転職出来ないみたいなので……」
俺の言葉の理解に少し手間取った風な彼女はそう言う。
「ジョブさあし? いっしょいっしょ」
自分を指差して苦笑しながら必死に会話を続ける、俺。
「どのジョブねあっているんですか?」
よし、会話を続けられてるぞ! 凄いぜ俺! ナイス切り返し!
……以前テレビで見た、コミュ障軽減のコツその1。話を続けられたら自分を褒める、という裏技を実演してみたが……
…………自虐的にも程があるだろ。
「あぁ、えっと……、一応腕力補正が効く見習い木こりを……」
恥ずかしそうに彼女は言う。
恥ずかしながらでも喋っている彼女のほうが俺よりも数倍メンタルが強い。
くそ……
でも木こりか、女性だからパワー系ジョブを恥じるのかな?
斧を振り回す女の子……か、確かに進んでやりたくはないかも。
「へぇ、いこりは腕力の補へえが入るんですか!」
恥ずかしがっているようだし、こういうのは人によってデリケートな問題でもあるから、とりあえずそこには触れずに補正の話に持ち込む。
こっち系の話題ならゲーマー知識を利用してなんとか場繋ぎが出来そうだ。
まぁ、俺の場合……場繋ぎした結果、着地地点が見当たらずに墜落死することがほとんどなのだが。
「確かそうだったかと……。あ、ちなみに剣士はフルガード率補正と体力補正で、村人はなんといっても全ての代金が5分の1になりますからね、お金貯めるにはもってこいのジョブだったはずです!」
詳しいな……。そして村人が上位ジョブということに納得だ。
なんだその村人同士仲良くやりましょー的な能力は…………
「そっか……それ聞いてすほし参考になったよ、俺は何にしようかな~」
相変わらず回っていない舌で言う。
「ジョブが決まらないとお金稼ぎも難しいですからねー、モンスターを倒してもドロップしたお金しか手にはいらのいのはきついですし。住人表なんかは十万ゼニー台で手もでないですけど、初期金額じゃあ武器を買うことも出来ません……」
住人表は十万か~、高いな……。それだけの大金を使ってまでなる価値があるのか、村人は。
……それもそうだろう、たぶんジョブチェンはそんなに手間が掛からないタイプのはすだ。
戦闘用ジョブは他に用意しておいて、買い物の時だけ村人になる……住人表はなくなったりしないのだろうから、なるほどそれはお得だ。
前払いで住人表代十万円を払っているだけで。
そうなれば割高であろうアイテムや武器が安く……
待てよ、……武器?
え、武器が買えない?
彼女の腰に眼をやる。
短剣、つまりナイフだ。
俺の腰に眼をやる。
何も持ってない。
当たり前だ、俺の武器はさっきステータスで【なし】って表示されてたんだから。
…………つまり、このゲームは最初から武器を持っていない状態で開始される手のゲームなはずだ……と、俺はそう解釈していた。
……しかし、彼女はナイフを装備している。
あれ?
買えない? 買えてるじゃん。
……あ、そうか。
木こりの専用装備と言えば斧だ。
一撃の威力が武器中最高クラスの斧がそれだ。
もちろん、値も他の武器よりは張るだろう。
序盤で手にはいる斧、それをさして、彼女は言ったのだ……ろう、たぶん。
斧は1500ゼニーじゃ買えなかった、と。
だからナイフを買ったのだと。
……違うか? ……え、……だとしたら______
【次回の投稿は6月12日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】