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このゲーム、無理ゲーです。  作者: 音無 紗乃斗
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【第4話】身の程を知れ、

 声の聞こえた方向……左に反射的に目をやる。


無論本当に声が聞こえた訳ではなく、ゲームシステムによって産み出された疑似音声が、聴覚再現エンジンによって出力されたに過ぎないのだが。


 とにもかくにも。そこには当然、1人のプレイヤーが立っていた。

……プレイヤーと断言できる根拠……根拠というほどのものではないが、NPCが派生ジョブ表を凝視していることはないだろう。

だからおそらくプレイヤー。大人びた雰囲気を纏う……見た目年齢が17か18歳くらいの女の子だった。


挿絵(By みてみん)


 「うぐぅ……」

声が漏れる。


目が合った……いや、まぁ確かに反射的に見てしまうのは分かるが、長らくニート生活に甘んじている俺は対人能力が全くない。


コミュ障と言ってなんら差し支えないだろう。

同性であるボルスの時でさえ、あんなにキョドったのだ……異性である(しかもかなり可愛い部類の)彼女と話すのは至難の(わざ)だ。


 俺がどのくらいの美少女と会話しかけているのかを知ってもらうため、彼女の容姿を描写する。それにあたって少しゲームシステムの説明もしておこう……。


 このゲーム内での容姿は現実(リアル)を元に、ランダムでファンタジー的要素が組み込まれた上で、3Dグラフィック化されている。

ランダムというだけあって組み込まれる要素は様々で組み合わせもかなりの数があるそう……。


 ほんのりとした茶色の髪に、燃えるような紅い眼。

ショートボブっぽくまとめられた髪の上に、現実だったらちょっと珍しいくらいの装飾がついた帽子?を被っている。


その装飾が、クエスト系ゲームではものすごくありがちで…………現実感溢れるこのゲームでは痛く見えても仕方ないのかもしれないが、彼女の場合はそんなことはなかった。


その理由としては、俗にエルフ耳と呼ばれる横に尖った耳が、全体的な印象をフェアリーというか……ニンフというか……ともかく妖精のような物にしていたことが大きいだろう。


端的に言うと凄く似合っている。


 ファンタジー要素以外のほとんどをリアルのまま再現しているらしいのだから、ここまで綺麗な子だと現実でも相当可愛いのだろう。


ファンタジー要素を組み込むのは、現実の物を忠実に再現しすぎては容量が重くなるとか……リアルと比べてはクオリティダウンは目に見えているとか……、そんな理由でこのような仕様になったそうだ。


そのため、彼女の容姿もあくまで「そのくらいの年齢に見える」だけであって、実年齢よりプラマイはあるだろうが……。


 そういう意味で言えば年齢は大体15~20歳といったところか?


 ……そういえば、俺はまだこの世界……もとい、このゲーム内に来てから自身の容姿というのを確認していなかった。


自分の容姿を知らないというのは、 このような場面で相手に話し掛けるか否かを選択・決定する上で、とても大切な要素を欠いてしまっているように思える。


 身の程を知れ、ということだ。


 現実の俺は可もなく不可もなく……といったところだが、一体この世界ではどんな男性になっているのだろう。


 …………そんな風に思考を脇に逸らすことで、目が合ってしまったこの状況をどうにかスルーしようと努める俺が、そこに立っていた。


 ……だが、このままずっと居るわけにもいかない。勇気を振り絞って話し掛けるかべきだろうか……

向こうも初心者っぽい……というか完璧なまでの初期装備だが、俺とは違い、腰に短剣を装備している。


 新規プレイヤー同士が序盤のクエストを協力し合うなんてざらだし、待ち合わせている雰囲気でもない……よし、


「あ! あの……!」

フィイイイィィィン______


話し掛けようとした、まさにその時。


輝くような効果音(サウンドエフェクト)と激しい効果光(エフェクトライト)……、つまりは何かの発動サインらしい緑色をした光が、螺旋状に俺の体を包み込む。


!?


「な、なんだこれ!?」と、叫ぼうとしたが言葉にならなかった。


_____口がセメントのようにガチガチに固められていた。






 こ、これはなんだ?


影の黒幕か何かの、俺のリア充化ルートを阻止する呪文か!

とか馬鹿なことも思ったが、少し状況がおかしい。


 そもそも街中でバットステータスを生み出す魔法や「とくい技」を使えるなんておかしいし、視界内にそんなことをしているような人はいない。


______前述の通りあまり人はいないのだ。


それにステータス異常を引き起こす呪文、魔法であれば……普通、効果光の色は黒や紫といった、悪いイメージを湧かせる色が専らなはずだ。


 逆に自分(達)に掛ける際の光は明るく、良いイメージを与えてくれる色……そう、緑色なんかの……。


 …………もしこれが自分の特殊効果の類いであるなら、どこかにその表示がされているはずだ。


目だけを動かして必死に探す……………………そして。


 視界の右下に、それはあった。


《種族特性発動!》《「あいーん」のメンタルが低下! 口が重くなった!》


…………異性が相手だと……こうなるのか、チキンは。


 ……どうやら初対面の異性に話し掛けられたり話し掛けようとすると、口が果てしなく重くなるらしい。物理的な意味で。


こ……これは自分ではどうしようもないので______


 逃げるなりスルーするなりでやり過ごそう……と決心する俺。

……しばらく互いに見つめ合ったまま沈黙が流れる。


気まずいぃ…………。


「あ、あの~……」


 この空気に耐えることができなかったのか、向こうから話し掛けてきた。

「もしかして、始めたばかりの方ですか?」


 効果光がわずかに弱まる。

……なんとか喋れそうだ。

「……は…………い……お……れは……新規プレ……イヤー……です」


途切れ途切れだが、一生懸命に口をこじ開けながら話す。

もはや臆病とかコミュ障とか関係なくなっている気がする。


「あー……大変ですね、チキンは」


 ……色々とイラっとくるな、このゲーム。


……でも特性発動を見ただけでこちらの種族を臆病(チキン)だと特定したのを見ると、向こうはどうやら俺よりもこの世界に詳しいらしい。

……とはいっても俺より1、2時間ほどプレイ時間が長いだけだろうが。


 ……もしくは、知り合いにこのゲームをプレイしている人がいて、その人から色々聞いている……とかか?


 いずれにしても、こっちが【臆病】という単語を出されたことであからさまに嫌な顔をしたせいか、彼女は

「ああぅ、ごめんなさい!!」


と、必死に頭を下げてくる。


うん、かわいい。


「あ、頭上げて……くだ……さい! 気に……してませ……んから」


もち、嘘だ。


 ものすごーく気にしているし、今もまあイラついているが、この可愛さで十分相殺(そうさい)されたと言えるだろう。


 我ながら可愛い女の子には甘いな……、と思う。

【次回の投稿は6月10日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】

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