【第43話】その結果が……これだ。
さて、そんなわけで俺は今、あの商店街の裏路地にある喫茶店にいるのだが…………
え?
どんなわけだって?
話が飛んでる?
父親はどうした?
あー……父親ね……。
あぁ……もう……くそ、俺みたいなニートにとって親父の襲来なんて、正直言って悪夢以外の何物でもない。
ゲームの話から結構長く脱線してしまうことになるので、……もとより俺のプライベートな内容なので、あの時の出来事を詳しく描写・説明するつもりは毛頭ないのだが……。
……しかしまぁ、俺がどんな状況下でニート生活を送っているのか、なぜ父親・兄を敬遠しているのかを説明するくらいなら……良いだろう。
少しばかり時間の針を戻す。
時間はそう……今朝の8時前くらいだったはずだ…………
(うげええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ)
「おい! 聞こえてるだろ! 開けろ!」
ガンガンガンガンガン________
何度聞いてもこの騒音は心臓に悪い…………。
ドア越しに怒鳴り散らす父親……親父の声が聞こえる。
さっき聞こえてきた話し声からすると、兄貴も一緒らしい。
最悪だ。
ふて寝しようとスタンバってた体制から、のそのそと立ち上がり…………覚悟を決めてドアの鍵を外す。
ガチャッ______という音が聞こえるのとほぼ同時に、親父が俺の部屋に突入。罵声を浴びせてくる。
……平日の朝っぱらからなんて近所迷惑な…………っと、一応言っとくと親父の罵声や兄貴のちょっかいは全部カットする。
親父が俺の貸家に突入してきた理由はただひとつ。……電話に出なかったからだ。
事実、俺の携帯の着信履歴にはざっと80件の不在着信が……うちいくつかは兄と母のものだったが、ほとんど親父からの不在着信が羅列していた。
…………あと兄貴からのメールなんかも。「電話出た方が身のためだよ~(笑)」とか、そんな感じの。
……無論、毎朝携帯を確認するだけあって気付いていれば必ず出ている。
というのも、この現状を見てもらえれば察しがつくと思うが、俺の親父は約束破りが何にもまして嫌いなのだ…………
そう、車で一時間半も掛かる息子の貸家に平気で乗り込んで行くほどに。
家掟ですらこれなのだから……法律でも破ったらどうなるか分かったものではない。
中学の頃よくグレなかったとかなんとか言った記憶があるが、グレなかった原因としてのほとんどは多分、親父だ。
怖すぎる。
……ボクシングをやっていてもあまりいい顔をされなかった……と言ったが、あくまでもあまりなのだ。
そして、体がまだ出来ていない小学生の頃からボクシングなんかをやらせる大人というのは正気ではない。
実際、ボクシングの公式大会は15歳以上にならないとないほどなのだ。子供の発育上あまりよろしくない。
正気の保護者であれば諭すなりして諦めさせるが…………正気ではない父親、それが俺の親父だ。
職業は………………元警察庁次長。つまり警視監だ。
直属上司には警察庁長官しかいないとかいう元化け物。怖すぎる。
……ちなみに警察庁長官は同期だかなんだかでよく実家に飲みに来ていた…………な、そういや。
おじさんとか呼び親しんでいた記憶がある。あの頃は大人の身分とかそういうのの分別が付かなかった…………。
空手とか合気道とか格闘技関係をやっていたこともあって、60後半なのに体つきが年齢を感じさせない……。
昔はこんな父親に憧れてたんだなぁ……ボクシング始めたきっかけもこれだったかもしれない……とか、懐かしむ余地も与えずとにかく怒鳴り散らす親父。
あーぁ……、近所のおばちゃんも親父と衝突して以来、親父が居るときには苦情に来なくなったけど………………帰った時を見計らってねちっこく俺に当たるんだよなぁ。くそう。
とにかくそんな親父を今では滅茶苦茶避けて、敬遠している俺。
……まぁニートにとってしっかりした大人ほど一緒に居て気まずい物もない。
出来れば会いたく無いんだが…………、そんな俺が、出ないとこうなると分かっていて、電話に出ないわけがない。
事実、俺も出たかった。
…………でも全く記憶にないのだ。
それもそのはず。昨日の俺はずっと原因不明の昏睡状態だったのだから。覚えているはずもない。
その結果が……これだ。
お説教タイムが終われば居座りタイム。お掃除洗濯食料確認などなどなどなど…………現役引退してから活力が有り余ってしょうがないのか、家事全般を几帳面にこなす怪物親父…………。
畏怖の対象でしかない。
母さんは何を履き違えてこんな人に家事全般を教え込んだのか。
無論、なんてもの食ってんだ! とか怒鳴り散らされまくった。
…………これ絶対買い出しに付き合わされるパターンだわ……とか、思っている間に予想的中。
大の男三人仲良くスーパーへ……。
買い出しが終わったら昼食タイム。新しいハードについても突っ込まれたし…………とにかく精神力を相当削らされた。
そのあと夜中まで居座り続け、ようやく帰宅して現在に至る。
…………え?
またなんか飛ばしてないかって?
あー……兄貴ね…………。
なんつーか……もう、俺は父親以上に兄貴の方がよっぽど苦手なのだ。
嫌いと言っても過言ではない。
……というか一緒にいると気まずさMAX。
この人と家族とか…………。
知っておいてもらいたいのはまず、俺と違って対人能力がくそ高い。
どこへ行っても生きているんじゃないかと思わせるほど、ちゃらんぽらんでヘラヘラしていて抜け目がなくてよくわからない人で勝手に借金作って起業して大成功して…………。
親父以上に怪物なのだ。
行った大学こそ、俺より下の某旧帝大だったが…………そこからこの若さで、今や大企業になりかけている会社の社長に成り上がるのだから、ぶっ飛んでるにも程がある。
頭でっかちで固く考えがちの俺からしてみれば、人生の裏ルートを通ってゴールされたような物だ。
これだけでも自分と比較されないかヒヤヒヤで気まずくてプレッシャーなのに、俺が就活で失敗してからというものかなり優しく接してくるのが余計に嫌だ。
俺がニートやってても、
「父さんの脛はあんまかじんな、警察の給料は税金だし、年金も税金だぞ? その歳から国民に支えてもらうのは情けないだろう。僕はお金ならいくらでもあるから」
とか言って、毎月俺の口座に数十万が振り込まれてくるくらいだ。
子供の頃のボクシングジムの代金より親からの仕送りが安いというのは、この人の助力があってこそなのだ。
ちゃらんぽらんな性格で常日頃からちょっかいしか出さないような適当人間。比較的堅物な俺と仲が良いわけがない。
……てか本当、31歳で弟養えるとか……どんな勝ち組だよ。
顔も整っていて結婚もしていて娘もいて…………平日の朝っぱらからニートの弟を気にかけられるほどの暇をもて余した、正真正銘のリア充。いや、リア獣。
こんな人が俺の兄貴とか、胃が痛くなってくる。
なにせ当の俺本人はどうしようもないクズ人間なのだ。
なんと表現すればいいか……ニートではもはや足りないだろう。
モラトリアム人間、ネバーランド人、ピーターパン症候群…………無駄な知識のおかげでこんなときに使う自虐的用語などいくらでも思い付くが、社会に出るための猶予期間に甘えているにしても最早働く気すらないのでモラトリアム人間よりも質が悪い。
ちなみにモラトリアムというのは、戦争やら天災やらとにかく非常事態に、金融機関…………ようするに株価なんかで生じる混乱を防ぐために、政府が債務や債券の決算を一時的に停止・猶予する期間を設けることだ。
その期間自体を指す場合もある。
…………転じて、現代社会に要求されるシビアな条件を前に、いつまでも大人になりきれず事態を先送りにするような行動を取ってしまう若者の心理現象を社会モラトリアムと言うのだが、その猶予期間に甘え続ける人間のことをモラトリアム人間だとかいうのだ。
まぁた話が横道に逸れた…………、話題を戻す。
とりあえずそんなダメダメな俺なんかに構ってないで……もうホントほっといて帰ってくれ………………と願い続けること11時間。
18時になってようやく俺は、最悪の家族から解放されたのだった。
【次回の更新は8月22日を予定しています。読んで下さった方々、ありがとうございました】




