【第3話】ジョブ探し……。
なんだこの出落ちゲーム……最悪すぎる。
てかなんで俺の名前間違ってんだよ……! ボルスはちゃんとVolsって入力できてたじゃねえかよ!
……いや、そもそも思考が読み取れる時点で誤字・脱字は物理的にもシステム的にも有り得ないはずだ。
なのになんで間違ってるんだ?
「K」は抜けてしまったとして「ー」はどこから来た、どこから……。
そして何より、ひらがな表記というのが一番いただけない。
「Ain」ならまだ格好もついたろうに…………。
……え? ネタゲ? ネタゲなのか?
入力させた名前を間違えるとか、シュールギャグ要素でもなんでもない。ただプレイヤーを不快にするだけの要素だ。
……あいや、他のプレイヤーが俺の名前をみて苦笑するなら俺だけが犠牲になって他のプレイヤーを笑わせてる……なんて受け取り方も出来るか? なんだその芸人魂。そんなものはいらん!
皆が皆間違って入力されているわけではないだろう。Volsなんて何も面白くない。
……ということは、俺の名前は所謂イレギュラーってやつで、ゲームそのものはネタゲではない…………?
……そうだ、全部が全部ネタならこんなに人気出るわけがない。……でも、それならどうしてここまで人気が出たんだ……。
頭を抱えつつハードを拾い上げる。
……叩き落としはしたものの、壊れるどころか終了すらしてないようだ。
うん、無駄に頑丈。
ハードを被り直し、中断扱いになっていたゲームを再開する。
……様々な思考を巡らせまくるが、人気が出た理由が全くわからない。ストーリーか? ストーリーがいいのか?
そう……これ以上グダグダしていても仕方ない。というより拉致があかない。
……乗りかけた船だ、とりあえずイベントみたいなもんでも進めてみるか!
…………っと、その前にジョブ探し……。就活とは言わない。決して。
それにアレだ、派生ジョブ表みたいなのも売ってるだろ。
たとえそれが終盤の街なんかで手に入る代物でも、(本来よりも高めの値段で)熟練プレイヤー達が流売してくれることが多いし。
狙うジョブが決まれば、ステータスの目標設定やら専用装備を揃えるための予算やらをある程度決定できる。
ストーリークエストなるものを進めるにしても、土台となるジョブや装備、すなわち基盤が出来ていなければそれこそ台無しだろう。
そんなわけでひとまず俺は、はじまりの村の小さな商店街へと向かった。
……しかし____色々と出費する覚悟で赴いたにも関わらず、意外とあっさり……ジョブ派生表は見つかった。
そもそもが買うようなものではなかったからだ。
ついでに言うとジョブを変える、つまり転職をする方法も見つかった(俺の場合就職と言うべきかもしれないが)。
他のゲームでジョブシステムを採用しているもので言えば、転職する際は
・クエストをこなすことで変わる(もしくは増える)
・ステータスの値を一定以上にすることで、その職業に転職できるようになる(さらには専用施設などが必要)
とかとか……まぁ、他にも色々ある。
無代償に変えられる変わりに派生が多いだとか、ジョブにもレベルがある分安易には変えにくいだとか……
様々な方式があるが、このゲームではステータスの値を一定以上にした後、施設を利用して変える……というシステムらしい。
こったゲーマーにとっては喜ぶべきことで、変えられるジョブは施設によって違ってくるそう。
ゆえに後半の町や、限られた強靭プレイヤーでなければ辿り着けないような村でしかなれないジョブも存在するようだ。
……ということは必然的に、大半のプレイヤーが見落とすような、隠された街でしかなれないジョブも用意されているのだろう。
さらにそこへ、派生元のジョブを解放・訓練していないとチェンジ出来ないという縛りが入るのだから……面倒臭いことこの上ない。
それらを掻い潜って、ようやく転職出来るようになるのが隠しスキルならぬ隠しジョブ……!
あぁ、良い響きだ。
MMORPGで他プレイヤーと差をつけたくなるのは人間の性だろう。
その「プレイヤー間の差別化」がこのゲームでは良くできている。
なるほど、なんとなく人気が出た理由がわかってきたぞ……!
俺が今いる場所は、商店街から少し離れた村役所の前。
そこに立ててあった看板に、ジョブ派生表が貼り付けてあった。
はじまりの村(正式名称もこれだ)唯一のジョブチェンジ施設であるこの村役所では、「村人」や「見習い剣士」「見習い木こり」等々になれるらしい。
驚いたのは「最初の質問」の選択肢で相当いいものを選んでいれば、最初から初期ジョブではなく派生ジョブが使用できる……という点だ。
ボルスの話(というか記憶?)が正しければ、彼は始めた時点で「見習い剣士」ではなく「剣士」だったのだから。
…………そうなると「最初の質問」は…………、俺とボルスの優遇、不遇さを見る限りだが……相当リアルに依存していると言える。
つまりはリアルの職業、身分的なものがゲーム内での初期設定に大きく関わってしまうということだ。
「木こり」……斧を専用装備とするパワー系ジョブの筆頭だが、「剣士」が現実で「剣道をやっている人」になるならば……「木こり」は「土木業関係者」とかか? ……あながち的外れてはいない気がする。
ゲームの職業だというのにやけに泥臭いな……あいや、現実臭い……というか、俺みたいな社会のアウトローからすると嫌気がさす…………な。
それにしても一定以上のステータスか。俺の今のステータス値ではとても転職(就職?)は出来ないだろう。
レベリングする必要があるわけだが……さてはて、どうしたものか…………
「「うーん……」」
ふと、2つの声が重なった_______。
【次回の投稿は6月8日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】