【第38話】それでも悪夢は終わらない。
________カシャン
銀色の閃光が迸ったその直後、目の前に立つ牙無しのゴールデンスターファングが、その巨体を揺らしながら…………前のめりに倒れ込む。
________決してスタンなどではない。
…………やがて黒いエフェクトライトが王を包み、……重圧のある効果音と共に跡形もなく消えてなくなる。
「た……倒した……」
……正直、実感なんて沸くわけがなかった。
そこに行き着くまでの過程が、自分の中で整理しきれていなかったこともあったし……何より最後があっという間過ぎて……あれ、というかあれ……?
金豚どうした、金豚。まだ一匹残ってたろ?
「あいーんさん! 後ろ!」
必死に叫ぶノムさん。
後ろ……?
ガッ__________
「っ……!?」
真っ黒い効果光が俺を包む。
【You are dead】
…………は?
~Penalty Time Now~
チャ~ララララララ~ラ~ラ~ラ~♪
チャ~ララララララ~ラ~ラ~ラ~♪
眼前に写し出される、ペナルティタイムに入ったことを知らせる文字列。……そして聞こえてくるバックミュージックが……
……よ、よりによって電話の保留音と同じ音楽とか……。
……曲名は確か…………エルガーの「愛の挨拶」だっけか……?
……クラシックなんて全く聞かないのに、曲名知ってただけでも奇跡だな、うん。
……てか、…………このゲーム作ったやつ頭おかしいだろ……。手ぇ込めるとこと抜くとこ絶対ぇ違う…………
せっかく王を倒したのに死んでしまった俺だったが、元より死ぬ覚悟で臨んでいたため精神的なダメージはそれほど大きくはなかった。
______そのためか、三分間のペナルティタイムは、俺にとって本当に短く感じられた。
……もしくは、対戦の余韻に浸っている間に過ぎてしまったか。
兎にも角にも、そんなわけで束の間の三分が過ぎ。
_______フィィィィィィイイイイイイン
電子音と共に戦闘フィールドへと引き戻されるあいーん。
「あ! 戻ってきた」
後ろからノムさんの声が聞こえてくる。
「ご、ごめん……お待たせ……!?」
こ、これは……
「の、の……ノム……さん?」
「ブゥ……ギィ……」
振り向くとそこには……実に弱々しい鳴き声を漏らす元金豚が倒れていた。
……尻尾と四肢、そして牙がない。
尻尾を切り落としたのは見ていた……が、牙、両前足、両後足が切り落とされているのは見ていて相当痛かった。
さらに言えば、本来一撃で仕留められるほどの攻撃力を持っているノムさんが、力加減を意識しながら全箇所部位破壊をしたと考えると…………精神的に何かしら堪えるものがある。
端的に言おう、惨すぎた。
「よくもあと一歩のところであいーんさんを……まあ戻ってきましたし、止め刺しますね」
「あ……」
ズショッ________
ブフォッ……チャリーン______
あまりに軽い効果音が、なんとも言えない焦燥感を生む。
「あの……ノムさん……」
『Congratulations!!』
____話しかけようとするがしかし、音声と派手な効果音に掻き消される。
【RESULT】
【Monster】
Golden Servant Bpigfang:5
The King of Golden Star Fang:1
Total:6
【Zenie】
あいーん:5125
Nom:5125
Total:10250
【Experience】
あいーん:45
Nom:45
Total:90
続けて表示されるリザルト画面______
「凄い……ゼニーがこんなに!」
経験値も普通の群れの数倍はある。
「やったよノムさん!」
先ほどの嫌なイメージを掻き消すためにも明るく言ったあいーんであったが……
「……ノムさん?」
これだけの大報酬を前に、ノムは微塵も喜ぶ素振りを見せない。
「あー、俺が死んだことなら気にしなくてもいいよ?」とか言うべきだろうか……。
いや、俺のことでこうなってるんじゃないならスゲー場違いな台詞だし……うーん……
1人悶々と考えるあいーんをよそに、複雑な表情でリザルト画面を見つめる彼女。
______だったが唐突に____
「ふっ……ふふっ…………」
「……? の、ノムさん?」
「あはははっはははっ」
笑いだす。
訳がわからないあいーんは困惑しながら佇まざるを得ない。
「はは……ふぅ…………。あいーんさんって面白い人ですよね」
「え?」
「だって途中から超大真面目な顔で避け始めるんですもん。たかだかゲームにそんな必死にならなくったって……ふふっ、でも凄かったですよ、あの時のあいーんさん!」
「え……あ、そう……? はは……」
やばい、こういう時に何て言えばいいのかわからない。
誉め言葉として受け取って……いいんだよな? 少なくとも最後の部分は。
「別に死んだからってデスペナルティだけで済むのに……あいーんさん、話してて思うんですけど頭でっかちなところあるから……どうせ深く考えこんだりしてたんでしょう? 大袈裟だなぁ……ふふっ……あははっ」
唇に軽く握った手を当てながら、笑いをもらす彼女。……可愛い。
……まぁ、内容は相変わらず素直に喜んでいいものか悩むけれど。
…………というか俺、あんなに必死になってたのが馬鹿みたいだなぁ……トホホ……。
「それからあいーんさん」
「はいっ!?」
すっとんきょうな声で返事をする。
「……あんまりその格好で堂々としないでもらえると……助かります」
「……?」
自分の服装を確認。
……服がない。
下はそのままだったが、なんと上半身裸になっていた______。
「そ、そんなぁ…………」
「ふふっ……」
「……ぁはは……」
彼女につられて笑う俺。……もう笑うしかない。
笑い声は少しずつ大きくなっていき______
そのフィールドで戦闘が終わったことを実感させていた。
……しかし。
けれど。
______それでも悪夢は終わらない。
【次回の投稿は7月31日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】




