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このゲーム、無理ゲーです。  作者: 音無 紗乃斗
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【第2話】ステータスでも確認してみるか。

 視界が突然明るくなったかと思うと、俺は噴水の前に立っていた。

辺りを見渡す……見える範囲には小田舎(こいなか)風の建物ばかりが並んでいて、なんというか庶民的な雰囲気を(かも)し出していた。


よくクエスト系のゲームでみられる、はじまりの村といったところかな?


 周りには建物以外に、俺のように時期はずれで買ったらしい新規プレイヤーやクリア後回帰イベントか何かで来ているような玄人(くろうと)がちらほらといるだけ。


……まあ、当然だろう。


 発売から1年が経っているのだ、はじまりの村なんかに人が集まってるほうがおかしい。


 プレイヤー達の頭上にはプレイヤーネーム、つまりは先ほど入力したニックネームなるものが表示されている。

かっこつけたものもいればウケ狙いで顔文字などを入力している者、本名をもじったらしき者……多種多様だ。


ネタがそのまま……というのを見た限りでは、初期入力したあとは変えられない仕様らしい。

俺からは見えないけど……俺のニックネームも周りからは見えているのか。


 ……さて、始めたはいいけど、これからどうすればいいのか分からない。


…………序盤の目標設定のためにも、メニューを開いてステータスでも確認してみるか。


メニュー……と頭の内で念じ、軽快な効果音(サウンドエフェクト)とともに視界右にメニューその他諸々が表示される。

俺は一覧からステータスを開いた。


【ステータス】


……若干写し出される画面が小さい。……上から見てくのも面倒だな……ある程度下までスクロールする。

読み飛ばし、斜め読みってやつだ。


【レベル】【1】

まぁ、始めたばっかだからな。大抵は1、もしくは0だろう。

……例外と言えばポケットの中に怪物を入れて戦い合うあのゲームくらいか。最初に手に入るのはLv.5だもんな。


【次のレベルに上がるための経験値】【3】


さん!? なんだ、やっすいレベリングになりそうだな。

……こう見えても俺はレベリングが大好きだ。


ポケットの中に怪物を入れて戦い合うあのゲームなんかでも、5つ目のジム戦ごろには手持ち全員がLv.100になっているほどに。

そのくらいのレベリング大好き人間、それが俺だ。


……例えがワンパターンなのは置いておく。


職業(ジョブ)】【無職(ニート)






…………………………フリーズした。

まさか、ゲームの中でもこの文字に悩まされることになるとは……


 いくらMMOとは言え……主人公キャラのように最初は勇者やら何やら特殊ジョブが用意されているものではないのか?


無職……せめて村人にしてほしかった……。


近くを男性の熟練プレイヤーが通りかかる。

思わず俺は声を掛けてしまった。

「あ、あの!」


「ん、俺?」


コミュ障のくせに人に話掛けちまった……若干後悔しながらも、

「す……すみません、ちょっとお聞きしたいことが……」

必死に声を出す。


「君、新人? 今始めたとこっぽいね~」

頭上に表示されているニックネーム……Vols、ボルスと読むのだろうか。


 アイテムで染めたらしい黒のメッシュが掛かった、真っ赤な髪をもつイケメンだ。イラつく。


装備からして既に貫禄(かんろく)があり、なんというか…………ギルドマスターでもやってそうなカリスマ感がある。

……ただ、センスが相当チャラい…………悪魔風というか(決して小悪魔ではない)、鎖ジャラジャラで毛皮とか羽織ってるし…………。似合ってるから別に良いけど。


こちらの名前を確認しようとボルスが頭を上げる。


「ぷっ……、君その名前」

笑いを堪えながら言うボルス。


……え? 名前? ……KainもVolsもたいして変わらないと思うんだが……それに、言っちゃなんだけどカッコつけているのでいったら相手のほうが…………


……あれ? 俺そんなおかしい名前選んだのか?


 ……まあ気にせずに。

自分の聞きたいことを聞く、それに専念する。


「あの、初期ステータスの職業なんですけど……あなたは何だったか教えてもらってもいいですか?」

全員が全員、無職だというのなら別に気になどしないし?

それが気になったのだ。


「あぁ、えーっと……確か【剣士】だったかな?『最初の質問』で、部活聞かれたときに剣道って答えたから」


 ええええぇぇぇぇ、そんなのありかよ……


リア充分岐……いや、年齢分岐? で、そんな違うのか……

年齢→学生の年齢を答える→部活を聞かれる→剣道と答える→ジョブが【剣士】になる……そんなとこだろう。


……なにこの差別。


内心そんなことを思いながら、顔に出さないように努める。

「そ、そうなんですか……せ、せめて村人とかないん、で……ですかねー?」

結果、キョドりながら尋ねてしまった。


「村人? は? なにいってんの? 住人票とったの?」


「住人票!?」


「村人といったら月に所持金の15%取られて住人税に持ってかれる上級ジョブじゃん」


「えええええええええ!」


 心が折れそうになった。

恥ずかしながらゲームで……。


「住人票…住人税…」

ブツブツ気持ち悪く呟く俺。

住民票、住民税じゃないのかよ! と、突っ込む気力も湧いてこない。

村人ごときが上級ジョブという事実に、正直精神が……折れそうだった。


「ああ……悪いけど俺もう行くわ、友達待たせてんだよ。それじゃ!」

軽く手を挙げるボルスが足早に立ち去る中、俺は再度ステータスに向き直った。


見たくねぇ…………でも今後のためにも確認しなきゃな……あぁ、玉砕覚悟で特攻していった軍人ってこんな気分だったのかな。


【武器】【なし】


何も持っていないからな。


【装備】【ただの服】


ただの服だからな。


【攻撃力】【3】


武器が武器だからな。


【防御力】【5】


装備が装備だからな。


 ……ここまではまあ想定内だ。

若干低いけど、まあ、どこにでもあるゲームのステータス。

酷すぎるということはないだろう……。


やけくそになっていないかと聞かれれば否めないが。


【攻撃料金】【(一撃あたり)10ゼニー】


…………なに? 攻撃料金って。

金とられんの? 攻撃するのに?


______後になって知ったことだが、このゲームの世界の法律にも、一応人への暴力はダメ……と明言された文があるらしい。

罰金がわりに、攻撃するたび所持金が引かれる……というシステムを取っているのだ。

ゆえに防御料金は存在しないのだそう…………。


 なんてシステムだ。


【所持金】【1500ゼニー】


初期金額って奴か。割りと高めだよな……

攻撃料金とやらが一発あたり10ゼニーなのだから、150発は相手を殴れるって計算になる。

正直言ってさっさと憂さ晴らしがしたい……


さてと……次のステータスは……?


【種族】【臆病(チキン)


………もう、驚きもしなかった。


 ……これも後から知ったことなのだが。

この種族というのは対モブ戦……すなわち対モンスター戦には全く関係のないステータスで、対人戦で用いられる要素なのだそうだ。

無数にある種族同士にはジャンケンみたいな相性があり、臆病はリア充に弱く②ちゃんねらーに強いという特性がある。

②ちゃんねる(マルニチャンネル、と読む)というのは廃人密度が高い掲示板だ……。


 なぁるほどねぇ!

臆病でも②ちゃんの中なら強くなれるのかぁ!


……最悪だな。


 つーかチキン扱いか……「最初の質問」にはもしかしたら心理テスト的要素も含まれていたのかもしれない。


なんだかんだで最後の項目。


【とくい技】____おお! 俺1レベにして得意技なんて覚えてるのか!


【就活】






「あぁ、………………………………俺がこの世で一番消えろ……って思った言葉だ……」


 ……つまり、まずはジョブを探して転職しろってことか。


 目標は……まあ出来た。

仕方ない、ここは気を取り直していっちょやってみるか!


 律儀に上までスクロールして戻し、メニューを閉じようとした_____その時。


あり得ないものが目に入って、消えた。


____いや、ただステータスウインドウが閉じただけなのだが……、いや、しかし、まさか……


 再度ステータスを開く。

当然すぎて目を通していなかった、一番上の項目。


その瞬間俺は理解した。


あぁ、ボルスはこれを言ったのか、と。


【名前】【あいーん】


 俺が直後、ハードを床に叩き付けた事は言うまでもない。

【次回の投稿は6月5日20時を予定しています。読んでくださった方々、ありがとうございました】

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