表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球と天界  作者: 橘 蓮
7/11

第6話 異空間相談屋

千雨が学校へ来なくなってから数日が経った。

「おはよー、翔太」

「おぉ、綾花か。おはよ」

「おはよう。綾花、翔太」

里菜も声をかけてきた。

「今日もりっちゃん、来ないのかな」

千雨は相変わらず欠席が続いていた。

『おはよう』

「あぁ、おはよう……って、うわぁ! ゆ、優太か……。驚かさないでくれよ。心臓に悪いだろうが」

振り向くと優太がいた。いきなり背後に立たないでくれと翔太が言う。

『ごめんごめん。3人とも、ちょっといい?』

私たちは顔を見合わせた。


行った先は学校の屋上。

「どうしたの? こんなに朝早く」

『実は……、千雨がどこにもいなんだ』

「嘘……でしょ?」

里菜が不安そうに聞く。

『公園のブランコの上に、手紙があって。ちょっと見てくれる?』


優太君へ

全ての準備が整いました。

優太君もよく知っている異空間相談屋に行ってみて。

そこのおじいさんに話を聞いてください。

その人のやり方なら皆を犠牲にすることなく崩壊を止めることが出来ます。

それでは、またどこかで会いましょう。


千雨


追伸

りっちゃんたちの事、頼みます。私は天界4か国を直します。


――――手紙にはそう書いてあった。

『一歩、遅かったんだ』

優太はこの場に居ない千雨を思い、地団駄を踏んだ。

この現世界に千雨の姿は一切ない。千雨という存在自体が“消えて”居ない。

自分が甘かったのだ。千雨を探さなくては。でないと上の奴らの思う通りのシナリオが出来てしまう。

優太はそう言い、焦っていた。

「相談屋のおじいさんってどこにいるの?」

私たちが聞きたかったことを里菜が聞いてくれた。優太は知るべきではないという。

「そこに行けば何か手がかりが掴めるかもしれないんだよ。優太、1人で抱え込まないで私たちを頼ってよ。友達でしょ?」

「そうだよ。住む場所が違うからって俺たちは除け者かよ。どちらにせよ、俺たちにも関わることだ」

優太は渋りながらその場所を話した。


「ここ……教会?」

入り口は教会1列目を右に向かって歩く。その時、自分の血で紙に魔方陣を書いたものを持っていることが条件になる。案内するのは優太だから優太の血らしい。

そうして辿り着いた場所は暗い太陽のない異空間。コウモリが今にも出てきそうな場所だ。暗い暗い道が続いている。そして先にある1軒の家から漂ってくる甘く異様な雰囲気は覚悟のないものを近付けないようにしているようであった。

『……ここだ』

優太はその家の前まで来て立ち止まる。

「ここに相談屋のおじいさんがいるの…………?」

その家は今にも壊れそうなほど古かった。辺りを見回してみても、他に家は見当たらない。何かの鳴き声や羽ばたく音があちらこちらから聞こえる。

「何だか気味が悪いな。本当にこんなところに人間が住んでいるのか?」

翔太が不信そうに言う。

『僕も来たのは初めて。……よしっ、行くぞ』

「うん」

「……何だか怖い」

優太は扉の前に立ち、奇妙な形の呼び鈴を鳴らす。

(………………)

何の反応もなかった。

「あれっ?」

「誰もいないのか?」

優太はもう一度、今度は少し長めに呼び鈴を鳴らした。

(………………)

やはり反応がない。

『……うーん、留守みたいだね』

「えー、どうするの?」

と、その時だった。ギィーっと不気味な音を立てて扉が開き、1人の男が出てきた。

『あのっ、こちらで相談屋をやっていらっしゃると伺って来たんですけど』

「そうだが、お前たちは何者だ? 何の用でここへ来た?」

優太が事情を説明すると男は入れと告げ、私たちを家の中へ入れてくれた。

家の中は薄暗かった。男は手に持っていたランプで前を照らしながら進んでいく。歩く度に床がミシミシと軋む音がする。

「相談屋は主にこれからお前たちが会う先生がやっていらっしゃる。私は先生の、まぁ秘書みたいなものだ」

さぁ、ここが先生の部屋だ。と男は言う。

「先生、お客様がいらっしゃいました」

「お入りなさい」

『失礼します』

中に入ると、髭を蓄えた老人が椅子に腰かけ本を読んでいた。

「……おい、優太。お前、なんか言えよ」

翔太は優太に小声で囁く。

「こら、翔太。人に頼らずに自分で何か言いなさいよ」

「だったら綾花。お前が言えよ」

「えー……」

「お前たちは、天草千雨の知り合いかな?」

老人が本を閉じて尋ねる。

『えっ、はい。そうです。あの、千雨をご存じなんですか?』

「いや。この前、本人がうちに来たんじゃよ。これから数日の間に知り合いが来ると思うから、その時に天界の崩壊を止める方法を教えてあげてくれ、とな」

『……千雨。あの、千雨を、彼女を助ける方法は何かないでしょうか?』

「無いねぇ。彼女の力は最早誰にも抑えることができない。残念だが、儂らには彼女のやるがままに任せて見守っているしかできないのじゃ」

『……そうですか。では、天界の崩壊を止める方法は教えていただけるのでしょうか?』

本来の目的を達成するべく優太は老人に問う。

「それは君たちが知るべきではない。だから今、ここでは言えん」

「そ、そんな……」

「俺たちが来た意味はなかったってことなのか」

私たちは肩を落とす。

「どうする? 帰る?」

その時、老人は そうじゃそうじゃ と思い出したように机の引き出しを開けて何か探し物を始めた。

「ちょっと待ちなさい。良いものをあげよう。えっと確かこの辺りに……おぉ、あったあった」

そう言って老人は引き出しから小さな巾着袋を出した。

「この中には水晶が入っておる。お前たちが本当に困った時に、きっとこれが役に立つであろう。持っていくと良い」

『あっ、ありがとうございます!』

「お前たちの健闘を祈っておるぞ。また何か困ったことがあったらいつでもいらっしゃい」

「はい」

「ありがとうございました」

私たちは老人に一礼してお店を出た。出た先は外に通じていたようで私たちは屋上に戻ってきていた。

「戻ってきたんだ」

その時チャイムが鳴る。時計を見ると9時半。

「あー……、1限目終わっちゃった」

まぁ、数学だしどうでもいいからいいけど。

『ごめん。僕のせいだね』

がっくりと優太は肩を落とす。

「気にしないで。大丈夫よ」

「それより、水晶だけど誰が持ってる?」

『…………』

「…………」

「…じゃあ、俺が持ってるよ」

「そう? じゃあ、お願いね翔太」

里菜がニコっと笑って優太にそういった。

「お、おぅ! 任せとけ」

翔太が一瞬戸惑ったように返事をする。もしや、翔太……。

「翔太が持ってるのはいいけど、失くさないでよ?」

「おい、綾花。それどういう意味だよ?」

「そのまんまだけど」

『まぁまぁ2人とも。そんな言い争いで2限目に遅刻してほしくないんだけど』

時計を見ると5分前だった。次は英語。移動教室である。私たちはカバンを教室に置いたままだった。

「本当だ。急いでいかないと遅刻しちゃう」

私たち3人は大急ぎで授業に向かった。

その結果―――

「はいっ、中谷さんと坂本さんはセーフね。後藤君は駄目。アウトでした」

「え、ひどくねぇっすか?」

「そんなことないわよ。チャイムの余韻でも後藤君は教室に入ってなかったもの」

「そんなぁ~……」

クラス中が笑いに包まれる。この先生はとても面白い。スポーツ系の快活な先生だ。生徒からの人気も高い。


放課後、いつもように公園へ行くと優太は滑り台の上で座っていた。私たちに気付くと滑り台を滑り降りて駆け寄ってくる。

『2限目、間に合った?』

「私たちはね。ただ、翔太は駄目だった」

『え、そうなの? 同じクラスなのに?』

「よりによって2限目が英語でさ。俺だけアウトとかひどくねぇ?」

あー、なるほど。そういうことね、と納得する。

「ねぇ、昨日の天草さんのことだけど……」

『昨日、おじいさんは千雨のやるがままにと言ったけどやっぱりそれは無理だ。止めなくてはならない。彼女の支払った代償のことを考えると……ね』

「どういうことなんだ? 天草の払った代償ってなんなんだよ?」

『それは……』

優太は一度深呼吸をしてから彼女の代償を告げた。

それは私たちにとって、特に里菜にとっては衝撃的なものであった。


――― それは命の期限だ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ