第4話 放課後の公園で…
「……、帰ってきたみたいね」
気付くと公園に戻ってきていた。
「イケニエって……、一週間で荷物をまとめろって……。何で俺たちばっかりこんな変なことに巻き込まれなくちゃいけないんだよ」
「今、優太君が話してくれたことが全てよ。嫌だろうけどこればっかりは本当に仕方がないのよ……。さぁ、もう暗くなってきたし帰ろう。りっちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう。……りっちゃん?」
「えっ、あっ、うん。……ねぇ、ちーちゃん。今のって……」
「はいっ、この話はおしまい! じゃあ、私の家はこっちだから。3人とも、また明日学校でね」
そういって千雨は走って帰ってしまった。
「……帰ろうか」
私たちもそれぞれ帰路に着いた。
次の日、学校に行くと翔太も里菜も来ていた。2人ともそれぞれ席の席でぼんやりしている。千雨はまだ来ていないようだ。
「里菜、おはよう」
「……あっ、おはよう」
「ねぇ。昨日、天草さんが里菜のこと大親友って言ってたけど本当?」
「そうだよ。ちーちゃんとは同じ幼稚園でいつも一緒に遊んでたからすごく仲良しになったんだ。卒園して、ちーちゃんは引っ越しちゃったから小学校は別々だったんだけど手紙はよく交換してたの。時々会ったりもしてたんだよ。でも、そのちーちゃんが転校してくるなんて思ってもみなったからびっくりしちゃった」
事前報告もないなんてひどいよねぇ、と笑いながら話す。
「そっか、そうだったんだね!」
その時、1限の始まりのチャイムが鳴った。今日の1限は数学。朝からは辛すぎる。
眠いのと昨日のことを考えているのとで頭がボーっとしてる。おそらくほかの2人も同じだろう。そんなこんなでよくわからないうちに1日が終わる。今日は土曜日なので4限までである。
終礼後、私たちは近くのファミレスへ寄って昼食を摂る。
「あーあ、今日の授業ほとんど頭に入ってないよ。1時間目なんてさ、授業聴く気しなくて寝てたら俺がイケニエにされる夢見ちゃったよ。マッドサイエンスみたいな人が出てきてさ、沸騰寸前のなんだか赤い液体が入ってる大きな鍋に落とされるんだぜ。思い出しただけで鳥肌……」
「ねぇ、明日は日曜でしょ? 2人とも荷物まとめする? なんか私、怖くて出来ないんだよね」
「……私も。なんか全然状況がつかめてない上に、結局昨日は優太とゆっくり話す時間もなくてさ。未だに優太と会えたこととか実感わかなくてどうしようなんだけど!」
里菜は最後の方はちょっと興奮気味だ。
「……、でもやらなきゃだめよねぇ」
「……そうだよな」
「はぁ~…………」
私たちは3人揃って大きなため息をつく。
「とりあえず、飯食ったら公園行くか。もう他にすることも思いつかないし」
「そうね。宿題は明日でもいいし」
週末課題めんどうだし、と私は愚痴をこぼす。
「私も今日は行ってみようかな」
「本当? じゃあ、行こうよ」
公園に行くと今日は千雨はおらず、優太だけだった。
「天草さん、今日はいないんだね」
『千雨は今日は習い事の日だよ』
「そうそう。バイオリンやってるって言ってたっけ?」
確か小学校上がってから始めたとか言ってたなぁ……と里菜は言う。
「すげぇな。俺には別世界」
『翔太はそういうの不得意だもんね』
優太は苦笑しながら言った。
「ってか、翔太は全体的に駄目だよね!」
「おい、綾花。それどういう意味だよっ」
ギャーギャーと言い争う私たちの横で里菜と優太は笑っていた。
「そうだ。俺、母さんから買い物頼まれてるんだよ。3人とも、じゃあな」
そういって翔太は公園を後にした。
「綾花は今日、ピアノ?」
「うん、そうだよ……って、もうこんな時間じゃん」
私は帰って練習を少しでもしようと思っていたことをすっかり忘れていた。
「里菜は? 一緒に帰る?」
「もうちょっとだけ優太と話して帰るよ」
「そっか、じゃあまた学校で」
里菜と優太が何やら楽しそうに話す姿をほほえましく思いながら、私は帰路に着いた。
『里菜は一緒に帰らなくてよかったの?』
「うん」
『……ごめんね。この前はいきなりあんなこと話して。何のことか全くわからなかっただろ?』
あの2人もきっとなんとなくしか分かってないだろうけど、と優太は言う。
「久しぶりだね。こうやって2人で話すの。1年振り?」
『そうだな。あの事故以来だもんな。僕もまさか死んじゃうとか考えてなかったし』
「こんな風に話せる日がまた来るなんて思ってなかった。夢みたいだよ」
『僕だって、君たちから僕が見えるようになるなんて思ってなかったよ』
2人で顔を見合わせてほほ笑む。
「……ねぇ、優太。私、1年前に話そうと思ってたことがあるの。聞いてくれる?」
『……いいよ。なに?』
「私、私ね。優太のこと…………、好きだった。大好きだったの。だから死別したとき、すごく悲しくて全然立ち直れなくて。正直まだ少し引きずってる。優太が事故にあった日、告白しようと思ってたの。でも、死んじゃって……、言えなくなっちゃった。だから、こうやって今話せてることがとても嬉しいのよ」
ゆっくりと里菜は自分の気持ちを伝えた。
『……里菜。好きって言ってくれてありがとう。嬉しいよ。でも……』
「うん、大丈夫。分かってる。約束があるんでしょ? 想い人がいるんだもんね」
『ごめん、里菜』
「謝らないで。話、聞いてくれてありがとう。私ね、これからは少しずつ前に進んでみようと思ってる。
ねぇ、優太。聞かせて。想い人って誰?」
せめて誰なのかだけでも、と里菜は優太に問う。
『それは……』
「約束があるから言えないってまた誤魔化す?」
『うーん。……誰にも言わないって約束してくれるなら……里菜だけに……教える。実は……』
そういって優太は照れながら里菜にその相手を教える。
里菜は驚きを隠せなかった。
「えっ、嘘。えっ……、本当? それ本人は?」
『知らないだろうし、多分約束すら覚えてないと思うんだ。だから完全に僕の片思い。僕はもう死んじゃってるし実らない恋かもね』
「じゃあ私たち、似た者同士だね」
お互いに実らない恋。実っても付き合えない。里菜は死んでしまった優太が好きで、死んでしまった優太も想いを伝えられなかった人がいて。
「あー、でもすっきりした! 優太のことを好きって言えたことも、優太の約束の人が誰かが分かったことも。モヤモヤが取れた」
久しぶりに本当の意味で笑顔で話せた気がする。
『あっ、そうそう。天界の話なんだけど。今日の夜、家に帰った後に国長のところに行ってイケニエを出さずに何とかならないか聞いてくるつもりなんだ。悪いんだけど明日のお昼頃に、ここの公園に綾花たちと来てくれないかな? そのくらいには結果が分かるはずだから』
「うん、わかった。伝えるよ。私、なんかそのことも全然分からないの。この世界がなくなっちゃうとか全然実感湧かないし。何で天国の出来事がここまで影響してくるの?」
『難しい質問だね。まぁでも、あえていうなら生きている間に培った知識や備わった知恵を使って天界を作り上げたから……じゃないかな。だからその源とされるこの現世界にまで影響を及ぼすんだと思う。出来れば今後一切、崩壊のための解読作業がなくなればなとは思うんだ。あ、つまり天界が原因での世界崩壊がなくなればってことね。死んだ者が生きている者に迷惑をかけちゃいけない』
「うん。そっか。とにかく、いい方法見つかるといいね」
里菜は優太にそれしか言えなかった。
『ほら、もう暗くなってきた。里菜のお母さん、心配するから早く帰りな。ねっ?』
気付けば西の空に向かって太陽が沈もうとしているところだった。
「今日はありがとう。すごく楽しかった。また、明日ね」
『うん。また明日』
そういって別れる。
この間にも静かな音を立てて現世界が崩壊し始めていることをまだ誰も知る由はなかった。