プロローグ
私は気が付くと、広い広い草原に立っていた。
ここはどこだろう。だれか住んでいないのだろうか。
人を求め歩き出したが、どこまで歩いても人はおろか家さえ見当たらない。
誰もいないの?
そもそも、なぜ私はここにいるのだろう。だって私は……。
(……か、……やか)
誰かがなにか言っている。え? 何? 聞こえないよ。
「綾花ってば!」
「どうしたんだよ?ボーっとしてたぞ」
「ん……、いや。なんでもない」
翔太と里菜に呼ばれて、我に返る。
誰かがなにかを言っていると思ったのは自分の名前を呼ぶ声だったようだ。
でも今のは何? 夢……?
「大丈夫なら行こう。次、移動だよ」
里菜はそういい、ロッカーへ向かう。
「次って英語だっけ?」
「もー、綾花ったら寝ぼけないの! 次は綾花の好きな体育だよ。朝から学対の練習だって張り切ってたの、どこのだれ?」
そうでした、そうでした。
私、中谷綾花。16歳。成績は中の下くらい。体育が大好きな女の子。
さっき私に話しかけてきたのは坂本里奈と後藤翔太。
2人とは大の仲良し。小学校からの付き合い。いわゆる幼馴染ってやつ。
翔太とは幼馴染というより、腐れ縁な気はするけど。
私たちは着替えて、外へ出る。今日はグラウンド練習だった。
私は体育が好きだが、走るのは特に好きだった。
練習が始まる。
ふと、さきほどの夢のような世界のことが頭をよぎる。
一体、なんだったのだろうか。あの草原、なんだか懐かしい感じがした。以前、どこかで……。
そのようなことを考えていたからだろうか。躓いて転んでしまった。
「おい、中谷。大丈夫か?」
「はい、すみません」
「気をつけろよー。何もないところで転ぶのは注意力が散漫な証拠だ」
私は次の人にバトンを渡すとトラックの内側へ入った。
里菜たちが駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「うん、平気平気!」
「お前が体育で注意されるなんて珍しいな」
「ちょっと、普段注意されてる人に言われたくないんですけど」
翔太にからかわれカチンときてしまった。
「翔太こそ、今日はやけに真面目ね。いつも他の男子とふざけているくせに」
「俺はいつも真面目だぜ?」
「嘘だぁ」
まぁまぁと里菜が間に入ってくる。
いつもこんな調子。これが私たち。
気が付くとチャイムが鳴っており、他のクラスメイトは更衣室に向かっていた。
私たちも慌てて、更衣室に向かうのだった。