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その日のトランプは彼女の不戦敗でした

作者: 桃皐

何度も言いますが、後味が悪い気味です。お気をつけてくださいませ。ご気分を害される方もいらっしゃると思いますので、何とぞそんな予感がする場合はお読みになりませんよう。


 「よし、単刀直入に言うぞ。」


それはいつものように、そいつとトランプをしていた時のことだった。

二人しかいないから、トランプはたいていスピードとか7並べとか…しかもわたしが負けるから嫌いだ。


「オレお前のこと好きだ。」


「……は?」


曲がったことが嫌いで、言葉を選ぼうとするけど選べなくて結局いつも直球勝負。

そういう奴だったから、その「単刀直入に言う」は、そいつなりのワンクッションだった。

いつもそうで、今回もそれなりに心に来るモノが来るんだろうとは思ってたんだけど。


「……おい、リアクション芸が取り柄。せめてもう一言返せよ。オレ泣いちゃう。」


「…あ、ごめ。今ちょっとリアルにトリップを」


「現実逃避という名の!?余計傷つくわー」


自分で自分を嘲ってどうしようというのだろう。

でもそれも、照れ隠しだとわかってしまったからたちが悪い。

赤く染まる耳が、頬が、それを物語るから真実味が増してしまって。


「まあ否定はしない。」


「しようよ!?」


さすがにぎょっとして目を剥く奴に喉の奥で笑って、わたしは手に持っていたトランプの絵面を晒すように投げる。

ばらばらとベッドの上に散ったそれを眺め、溜息をついた。


「おっそいわー。ホントおっそいわー。え?告白?今の告白ですよね?」


溜息とともに、本心から思った言葉を吐き出せば奴は目に見えてうろたえる。


「こ、告白、ですよ?ええ告白ですよ?わかってますよ遅いって!でもこれを言わずして死んではならぬとご先祖様が!」


「ご先祖様に後押しされてんじゃねえ腑抜け。この腑抜け。へたれ。草食系。」


「うっ…!い、いたたたたたただでさえ酷使されて弱っているオレの心臓がさらに血を流している…!」


「はいはい自業自得。……ほんっと、遅い。」


遅すぎる、遅すぎるのだ。

だってもう12月も半ば。

私たちは高校3年生。

つるみ始めたのが1年の夏、夏期講習。

それからなんだかんだ一緒にいて、クラス別なのにつるんでて、あいつら付き合ってんの?っていうか付き合えよ鬱陶しいな!という声も2年前半には出始め、3年に上がってからはすでに熟年夫婦なんて言う不名誉なあだ名まで付き始めた。

付き合ってもいないのにな!


「わーってるよ遅いってのはな!……悩んだんだよ、察せよ。そして返事しろよ。」


こん畜生め…察せよじゃないし。

察したら泣けるだろこん畜生め…混乱して同じセリフを使っちゃうとかリアクション王にあるまじき失態をしちゃってんじゃんどうしてくれんのこん畜生め…。


「……総合的に言うとー」


「総合的に!?何を総合した!オレの容姿か!そしてセリフ回しもか!」


「いやこれまでのお前の人生」


「でかいよ!壮大すぎるよ!やめてオレのプライバシー侵害しないで!」


「ハッ、これから彼氏彼女になろうというのにケツの穴の小せぇ野郎だな」


「女の子がケツの穴とか言わないの!やめてオレの純情がけがれる!」


「そういえばあのカバーをわざわざ換えてある年季の入った青井そr「やめてぇえええええええ!!!ダメ絶対!!オレのプライバシーと純情が跡形もなく崩れさる!!」……好きだよ。」


わたしも、好きだよ。


間の抜けた顔を晒す奴に、わたしはしばしにやりと笑ってやる。

でもそれも維持できなくなってきて、わたしはついに陥落した。


ばさりと、トランプの上…つまり、奴が座っている白いベッドの上に顔を伏せる。

嗚咽が漏れそうで、必死にこらえるけれど肩が揺れるからそれもバレバレだろう。


「…泣くなよー。リアクション王はさすがにリアクション王なだけあって大袈裟だなー」


「馬鹿が。お前…ッ …っくしょうめ。遅いの!遅すぎるの!あんたと…ああもう!」


もっと長く一緒にいたいのに。

これがもっと早くだったら、もっと一緒に、もっと深くまで。

時間を掛けられたのに。

どうして。今。


「ごめんな。死ぬって…ほら、やっぱり絶対後悔すると思ってさ。」


死にゆく人間の我がままに付き合わせて、ホントごめん。


そう言って奴は、わたしの突っ伏したままの頭を撫でた。

がりがりにやせた、力の無い手で。


「ホントにな。……でもいい。わたしの、残される人間の我儘でもあるから。」


わたしは、あんたの一番近くに居れる人間になりたかった、とわたしは消毒液臭いベッドに吐露する。

どうやらそれは奴に聞こえたようで、奴は不意に手を止めるとぐしゃりとわたしの髪を撫で掴んだ。


それはすがるようで、じゃれるようで、わたしは顔を上げられなかった。



〈完〉

お読み頂きありがとうございます。

どうしてもネタばれになるので冒頭に書けませんでしたが、これは悲恋もの、それも死ネタと呼ばれる分類になろうかと思います。

死ネタでも笑えたらいいじゃないか、そう思って書いてみました。

ご気分を悪くされた方、いらっしゃいましたら本当に申し訳ございませんでした。どうぞ皆様の広いお心を持って受け止めて頂けますことを祈ります。

最後に、貴重なお時間を割いていただいたことに心よりお礼申し上げます。


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