04.二度目のチャレンジ(『一度目のチャレンジ』後)
全裸で仁王立ち、そんな男らしさナンバーワンな格好で私が立つのは、ギルドハウス大浴場の脱衣所。
扉を隔てた浴場からは、水の音が聞こえてきている。中にいる人物は一人。把握済み。
……そう、ジェネラルさんと一緒に入浴しちゃおう作戦、二度目のチャレンジだ。
(以前は不覚を取った……! だが、だがな! 私は負けるわけにはいかない! 相手が嫌がっているのに無理矢理一緒に入浴しようとするのはセクハラ!? そんなん知ったこっちゃねえよ!)
以前敗北を喫してから、私はひたすら策を練った。普段は素知らぬふりでまるで彼との入浴を諦めたようにふるまいながら、準備に準備を重ね……ジェネラルさんの入浴時間の統計を取り……今、私は万全の態勢を得てこの場に立っている。
光属性の防護魔法『魔法反射』も習得済みだ。名前の通り魔法を反射する。防護魔法にしては発動が小難しいこれを、風呂作戦のためだけに必死で勉強した。これで、『睡眠』対策もばっちりだ。
本日の作戦はこれだ。
一番動きがとりづらい髪を洗っている最中を狙う。それも全裸で。
あれだ、みみっちく腰にタオルなぞ巻いているせいで中途半端な羞恥が湧くのだ。股間のブツを見れば、さすがのジェネラルさんだって目が覚めるだろう。
闇曜日の夜半過ぎ、ジェネラルさんは風呂に入ることが多い。うちのギルドの男衆に聞いた内容によると、ゆっくり入浴派らしい彼が体を洗い終えて髪を洗いはじめるまで、四半刻ほどかかる。
前回は突入が速すぎたのだ。体を洗っている最中なんて、大して動きづらくもない。もうそこから失策だった。だが今回は違う。
今ちょうど、ジェネラルさんが脱衣所からいなくなって四半刻が過ぎた、そろそろ髪を洗いはじめるあたりだ。一番視界を奪われるタイミング。
私は練習に練習を重ねた『魔法反射』を、丹念に唱えた。あの強烈な『睡眠』を思い切り跳ね返してくれる!
「というわけで失礼します!」
「!?」
「お背中、お流しします」
「ヤマト……ッ! 最近おとなしいと思ったら……!」
泡にまみれていたジェネラルさんが慌ててお湯をひっかぶり、立ちあがった。慌てすぎたせいで咽ている。ふはは。
「策を練りました。今日は魔法も効きませんよ!」
濡れそぼるジェネラルさんに近づく。運のいいことに、目に泡が入ったようだった。これはチャンス。それに乗じて彼の背後へと回ろうとする。
だが、そうやすやすと後ろを取らせては貰えなかった。素早く体勢を整えてしまったジェネラルさんが振り返る。
だが一瞬後、彼は真っ赤になって叫んだ。
「どっ、どうして素っ裸なんだ!」
両手で瞳に蓋をするジェネラルさん。なんで股間に似たようなブツがぶら下がっている者同士なのに見ないようにしようとするのかはよくわからないが、視界を奪ったぞ! 羞恥心投げ捨て作戦効果あり! あと一歩だ!
「お風呂だからです……!」
「くっ、君は女の子だろう……!」
「体は男です! もうこんな議論をしていてもしょうがないじゃないですか。大人しく一緒に風呂に入ってください!」
「…………ッ!」
論破! ……したかどうかはわからないが、ジェネラルさんが黙った時点で勝ちは決まった! やった、勝利だ!
ぽそり、と彼が目を手で覆ったまま何かを呟いた。それが何なのか咄嗟には確認できない。何を言ったのかは分からないが、聞こえないなら聞こえないふりだ。万が一魔法の詠唱であったとしても、私には『魔法反射』がついてる。
だから、私は油断していた。もう彼の背中を流して一緒に湯船に沈むことしか考えていなかった。
次にジェネラルさんが発する言葉なんて、気にする必要もない。そう思っていた。
「『睡眠』!」
「魔法は効かないんですって、俺言いましたよね!」
ドヤ顔で彼の詠唱を迎える。往生際が悪いぜジェネラルさん! なんて優越感に浸る。
キン、という音。反射盾が発動して、魔法を跳ね返した音だ。それが立て続けに二回。見たか! 私は勝利を確信した。
ん……二回?
「……え」
不思議に思った瞬間瞼が急激に重くなって、私の意識はブラックアウトした。
「……跳ね返したのを、さらに跳ね返すとか」
以前と全く同じ状況で風呂に転がっていた私は、目を覚まして呆然と呟いた。
そう、以前と同じく『温暖』もちゃんとかけてある。ああ、少しだけ違うところもあるな。今度はうつ伏せに倒れた尻にタオルがかけてあった。
あの時ぼそりと彼が呟いたのは、私が使用したのと同じ反射盾を形成する魔法の詠唱だったのだ。
お互いが魔法反射盾を持っている状態でとなえられた睡眠魔法は、二回ピンポン玉のように壁に跳ね返され、私に直撃した。
「『魔法反射』が魔法を反射するのは一回だけだっていうのを、考慮しておくべきだった……」
またも、失策。
だがしかし……打ちひしがれたのは一瞬だけだった。
「……くそっ、今度こそ、絶対背中流してやる……ッ!」
負けるわけには、いかない。絶対負けない。
ジェネラルさんの背中を流すまで、私の戦いは続く。