03.一度目のチャレンジ(『脱衣所で遭遇』後)
「……よし」
タオルだけ巻いた裸になって、勢い込む私。気合を入れて深呼吸した。
今、脱衣所から見る大浴場には人の気配がある。実は、先程ジェネラルさんが入って行くのを隠れて確認してから、服を脱いだのだ。
「行くぞ」
いつまでたっても一緒に風呂に入れないなんて、効率が良くないと思う。もし急いでるときにかちあったりしたら、本当に困ると思うし。
っていうか、困るという話ならば私は現在進行形で困っている。風呂場でかち合うたびに気まずい思いをしているのだ。せめて先を譲ろうと思っても、彼がぱーっと逃げて行ってしまうのでどうしようもない。
しかも、普段の堂々としているジェネラルさんとの会話では風呂の話題が出し辛い。出しても、そうだなはっはっはで終わらせるし、あの人。
真正面からいって拒否をされるのであれば、多少姑息な手口を使うしかない。先に彼が入っているところに突入してやる。姑息だっていいじゃないか、私は姑息な人間だ。
(覚悟してくださいジェネラルさん)
「お背中お流ししまーす」
苦手な笑顔をぎこちなく形作りながら、大浴場に突入する。ジェネラルさんは体を洗っていた。
全裸な彼の下半身を極力見ないようにしながら、ずんずんと入っていく。
「なっ……!」
「ジェネラルさん、俺毎回あなたに迷惑かけるの心苦しいんです。慣れちゃえば平気ですから、すぐ終わりますから」
最後の方、生娘を籠絡する時のような台詞だ。
驚いたままのジェネラルさんは、目を見開いたまま止まってしまっている。
「ジェネラルさん、背中流させてください」
じりじりと、距離を詰めていく。おろおろと逃げ場を探す彼……あ、タオル巻いた。
「ヤマト……も、戻りなさい」
「嫌です……」
じりじり、じりじり。私が一歩進めば彼が一歩下がり、二歩進めば二歩下がる。一進一退の攻防がしばらく続いた。
と、ジェネラルさんの後退が止まる。一番奥の、プールのように大きな湯船までたどり着いてしまったのだ。
幸運なことに彼の体にはまだ泡がついたままだから、そのまま入って行くわけにはいかない。
「もう、覚悟を決めてください」
「………………」
あ、慌てている顔は久しぶりに見た。
流れた雫は、水だろうか、汗だろうか。
しばらくの沈黙ののち、彼が口を開く。
「………………そ」
なんの“そ”?
そんなに言うならしょうがない、とかそうだな一緒に入ろう、の“そ”だと嬉しい。
「そ?」
期待を込めて、聞いた。
だが、彼の返答は。
「『睡眠』……ッ!!!」
「……やられた……」
目を覚ましてすぐ、私は呟いた。それにしても、素っ裸で風呂で昏睡とか、事故を疑われるレベルだ。
寒くないようにか、『温暖』の魔法をかけられているのが腹が立つ。
「また策を練るか……」
絶対、一緒に風呂に入ってやる。
私はそう、心に決めたのだった。