02.脱衣所で遭遇(3章後)
(おっ風呂ー、おっ風呂ー)
大浴場の脱衣所、私は鼻歌でも歌いだしそうな勢いで、ばさばさと服を脱いでいた。
一人での入浴時間は、安らぎの時だ。もし誰かと入浴が重なると、どうしても目のやり場に困って緊張してしまい、あんまりゆっくりできないのだ。
今日は久々に一人だから、十分に単独入浴を堪能するため、長風呂する気でいた。
だが、そんな目論見は容易く崩れる。
ズボンを脱いだあたりで、がらりと脱衣所の戸が開いたのだ。
(うっ、誰か入ってきたな。もー、折角一人でゆっくり入れると……)
内心残念な気持ちになりつつ、振り返った先には、眩い金髪の、大柄で精悍な男前――って、え。
「……すっ、すまない!!」
彼……ジェネラルさんは、私と目が合うなり扉をぴしゃりと閉めてしまった。
彼の慌てた声は滅多に聞くことが出来ないだろう。というか、今初めて聞いた。
脱衣所の扉を隔てて、お互い沈黙。私は全裸。
なんだか妙な居心地の悪い具合になった状況に、思わず顔を熱くした後、はっと気がついた。
(な、なんで赤くなる! ってか、ジェネラルさんも別に出ていく必要はないのに! お、男同士なんだから! ねぇ! 体は、だけど!! ……あああ、女って知られてるとやりづらい!!!)
ひとしきり動揺した後に、とりあえずズボンだけはいて、扉の前まで行く。
まだ彼がいるかどうかはわからなかったが、声を掛けてみた。
「……ジェ、ネラル、さん……いますか?」
「いる。本当にすまない。そんなつもりはなかった」
もしもういなくなってしまっていたらどうしようかと思ったのだが、くぐもった声で返答が返ってくる。
「そんなつもりはなかった、って……俺、一応体は男ですから、大丈夫です、入ってきても」
ソルたちとは風呂に入れるのだから、ジェネラルさんとだって、大丈夫じゃなければおかしいのだ。
中身が女だと知られていることに関して考えてみれば若干羞恥もあるが、今自分の胸を見下ろした通り、体は完璧に男のものだし。
「いや、駄目だ。絶対に駄目だ。すまない、俺は時間をずらすから」
だが、ジェネラルさんは聞く耳を持たない。これには困った。ギルドで一番偉い人を差し置いて、先に風呂に入るわけにはいかない。
そちらばかりを先行して考えてしまった私は、思わず勢い良く扉を開けた。
驚いた顔のジェネラルさんが視界に現れる。
「ほ、ほら、大丈夫ですよ。なんだったら、俺が時間ずらしますから。……ジェネラルさん、先に入ってください」
洋服を着ていない上半身を晒して、男の体なのだから大丈夫であることを主張する。ジェネラルさんがやりづらいのであれば、自分が時間をずらすこともちゃんと言った。
だが返ってきたのは、沈黙。うんともすんとも言わない彼。
「……ジェネラルさん?」
硬直したような様子のジェネラルさんの、幾分か高いところにある顔を見上げながらいぶかしむ。どうしたんだ一体、と思ったあたりで、つかつかと脱衣所内にジェネラルさんが入った。無言で。
彼は手近な棚にあった大きな布を手に取り、私に近寄る。
なんだ、と思ったら、その布を思い切り被せられた。
「うわぷっ」
「女の子がそんな恰好でこんなところまで出てくるんじゃない……!」
そして、声を低くして怒られた。
珍しいジェネラルさんの怒った表情に、目を白黒させて驚く。今日は珍しい彼を見てばかりだ。慌てた声も、怒った顔も、初めてだった。
だが、私が驚愕している様子を見た彼は、頭を二、三回振って謝った。
「すまない……俺は本当にいいから。俺が時間をずらすから、先に入ってしまいなさい。……じゃあな」
先程とは打って変わって憔悴しきったような様子で去っていくジェネラルさん。
(……なんていうか)
申し訳ない、この一言であった。