01.4人でお風呂(3章後)
今日の風呂場は、人口密度が高いであろう。
脱衣所で服を脱ぎながら、私はそう思う。
キルケさんとレイさんというコロナエ・ヴィテのメンバーと知り合ってから数日、なんとなくタイミングが合ったため、ソルと私と彼らの、男子四人で風呂に入ることになっていた。
まだ男性と入浴をするのに慣れてはいないが、拒否をするのも体裁が悪かったため、ええいとばかりに奮起してここにいる。
以前の入浴からソルとはよく一緒に入っているから彼の裸はある程度見慣れていたが、キルケさんとレイさんの裸は新鮮だった。……いや、凝視しているわけではない。
レイさんは服を脱いでしまうと、大きな猫ちゃんがそのまま二足歩行をしているという感じ。暗い銀色の毛並みに飛びつきたい。
そしてキルケさんは、体の所々に青色の鱗が生えている。青と緑のツートンカラーの髪といい、縦の瞳孔といい、鱗といい、見れば見るほど不思議な容姿だ。
「……キルケさんって、プティーなんですか?」
わかりきったことだが、交流がてら聞いてみる。
「ン? 俺ェ? プティーだけどォ、エディフでもあるよ」
だが、返ってきたのは予想外の言葉。思わず疑問符を浮かべた私を、キルケさんが笑う。
「混血ってことォ」
ああ、なるほど、そういうことか。
へぇ、と相槌を返しながらも、少し不可解に思った。エディフも入っている、という割には、彼には爬虫類的な特徴しか見受けられない。
「俺何度聞いても覚えられないんだけどさ……何種類混じってんだっけ?」
「エー? 俺、ソルには何回説明サセられたかわかンないンだけどォ……ま、イーや。ヤマトもいるから教えてあげまショう」
そんなに混じっているのか。
彼は指折り数えだした。
「父親がヘビとオオトカゲとワニとリクガメの四種類が混じったプティーで、母親は猫と豹と虎と獅子と熊の五種類が混じったエディフなンだってェ。計、9種類」
「……多いですね」
率直な感想が口をついて出る。
「でショお? でも、俺はヘビとオオトカゲのプティーの特徴しか出てないンだよねェ」
「そう、ですね。エディフっぽい感じはないです」
「混ジり者は、表に現れる特徴がランダムなンだよォ。だから、ぱっと見でソうジャなくても、混ジってる奴いっぱいいるよォ」
「へぇ……」
なるほど。混血の人を“混じり者”と呼ぶことや、その特徴のことなど、けっこう有益な情報だ。
表に現れる特徴がランダム、なのだとすれば……例えば、ヘビと、獅子と、山羊とかが一緒に出てしまったらどうなるのだろうか。……キマイラ?
「……あ、あと、ヘビのプティーの一番の特徴、見るゥ?」
「へ?」
頭がライオン、胴体が山羊、尻尾が蛇の合成獣を思い浮かべていたところに、悪戯っぽい笑みで提案された。
別のことを考えていて反応が遅れた私がまともな返事もしないうちに、キルケさんが行動を起こす。
にっこり笑った彼は、腰に巻いていた布を取り去って全裸になった。
その下半身に、あったのは。
「二本ありまース」
「……う、うわああああああ!」
あまりにも突然すぎた。心の準備が出来ていなかった。しかも、二本!? 悲鳴を上げたのも仕方ないだろう。
聞いたことがある。蛇の男性器は二本あるのだ! こんなところまで蛇だとは恐れ入る!
混乱した頭で、何故かまず感心してしまう私は一体何なのだ。
直後、目を手で覆われた。背中に裸の胸が密着する感触。
(うひい!)
「ばっ、お前セクハラしてんなよ! そんなんヤマトに見せんな!」
ソルが半ば怒鳴り声を上げてキルケさんを責めている。声の近さからして、私の視界を遮ってくれているのはソルのようだ。
……庇ってくれるのは嬉しいし、目を両手で覆うのに近づかなければいけないのもわかるが、もうちょっと離れて欲しかった。生肌の感触で思わず鳥肌が……。
「人の息子をソンなン呼ばわりはひどいんジャないのォ?」
「止めろ、キルケ」
「わかったよォ。ひどいなァみンな」
目を覆われている暗闇の中、憮然とした声と、冷静に諌める声が聞こえた。その後衣擦れの音がして、ようやくソルの手が外される。生肌の感触も離れた。ほっとする。
キルケさんはもう腰に布を巻いていて、さっきのえげつないものは見えない。……えげつないものは、見えない。
「ほらヤマト、変な人にセクハラされる前にさっさと入ろう!」
そして私が言葉を発する前に、警戒したソルに引っ張られて、浴場へと入ることになった。
……あれ、一体どうなっているのだろうか。ほんのちょっと、もうちょっとだけ、見てみたかった気も、しなくもないのであった。