紫色の瞳
私は朝倉三波。
学力は普通、体力も普通、何もかも平均的なごくごく普通の中学三年生だ。
季節は秋。もう長袖じゃないと外を歩くのは寒いという感じの季節だ。
私は、親に勧められて受験対策のために塾に通っていた。
「はあ、寒い…。」
ふるり、と身を震わせる。
塾の帰り道、私は夜食にと公園の滑り台の上で肉まんを食べていた。
寒い夜にはあったかい肉まんに限る。
さてと、帰るか。
はむはむ、と肉まんを頬張りながら滑り台の上から立ち上がった。
明日は早いし、早く帰って寝なきゃ。
そんな事をぼーっと考えていたせいだろうか。
私は、滑り台の上で足を滑らせ、後ろ向きに倒れていった。
落ちる、という感覚に恐怖を抱いた。
落ちて、打ち所が悪ければ骨折してしまうかもしれない、なんて頭で考えながら
落下していく。ぎゅっと目を瞑った。
しばらくして、ぽむっと言う音がして、誰かに抱きとめられる感覚がした。
下に人なんていたのか、という思いが頭をよぎったが、痛い思いをしなくてホッとした。
目をぱちりと開いた。そこには―――――――
とてもきれいな紫色の瞳をした男の人がいた。
真っ白な花の咲いた花畑に、私と彼はいた。
あ、あれ?私、さっきまで公園にいたはずじゃ…?
おろおろしている私を、彼は抱きかかえたままじっと見下ろしている。
私は、彼を見上げ、疑問を問いかけた。
「あ、あの、…、此処は何処ですか、?」
「此処は私の所有地だ。誰も入る事は許されない禁域だ。」
「あ、じゃあ私もいちゃ駄目ですね、ごめんなさい。帰り道、は、どこにあるんだろう…。」
そもそも此処はどこなんだろう?
私のいた場所じゃない。勿論公園じゃない。
急に不安になってきた。
此処はどこ?なんで私は此処にいるの?なんで?なんで?
頭の中がぐるぐるして、なんだか急に泣けてきた。
ぽろぽろと涙が出てくる。
彼はそんな私を静かに見つめていた。
しばらくして、いつまでも泣いている私の目元に、手が添えられて涙が拭われた。
私がきょとんとして顔を上げると、彼と視線があった。
「泣かないでくれ。」
低めの声は、静かに私の耳に響いた。
紫の瞳は何処までも無表情だが、心なしか少しだけ困っているような雰囲気があった。
私の事を、心配してくれる人がいる、その事に、少しだけ安心感が出てきた。
涙をごしごしとぬぐって、彼を安心させるように笑みを浮かべた。
驚いたように丸められた目は、少しした後、にこりと優しく微笑んでくれた。