第二章 大喪の礼
「姫様、本当によろしかったのですか? その簪を身につけられて」
周囲の目を憚って小声で尋ねる明瑠に、織瀬は微笑む。
「大丈夫よ、そんなに心配しなくても」
「ですが姫様、大喪の礼にそのような装飾品はあまり相応しくないのでは……」
「確かに、本来なら相応しくないわ。でもこの簪は、お父様から贈られたもの。葬礼においても故人を偲ぶものであれば、たとえ装飾品でも身につけることは許されるはずよ」
「それは、仰る通りではございますが……。しかし、皇太后陛下に見咎められれば……」
ちらちらと周囲を窺う明瑠に、珍しく菊理も同調する。
「姫様の言うことも分かりますけど……わざわざ皇太后に喧嘩を売るような真似しなくても……」
「売れるものなら売りたいと思って、こうしているのよ」
「……はい?」
明瑠と菊理が、揃ってぽかんとした顔で織瀬を見つめた。
「一体どうなされたのですか、姫様……。今朝起きた時から人が変わったようで……」
「らしくないですよ、交戦的な姫様なんて……」
今日何度目かの心配そうな視線に、織瀬は笑う。
「心配してくれてありがとう。でも、本当に大丈夫よ。私はもう、怯えて隠れるのは止めることにしたの。貴女たちに苦労をかけてしまうのは申し訳ないけれど……」
「姫様……」
「さあ、行きましょう。私の役割を、きちんと果たさなければ」
ただ儀式に臨むということ以上の決意を持って、織瀬は一歩を踏み出した。
白い喪服の背を、艶やかな黒髪が揺れる。低めの位置で作った髻に挿した簪の翡翠が、陽の光を受けて柔らかな輝きを放つ。背筋をぴんと伸ばして、ただ真っ直ぐ前だけを見つめて、織瀬は歩を進める。
すでに儀式の場に参集していた貴族や官人たちの視線の多くが、織瀬のもとに注がれる。
しかし今の織瀬には、そのような視線を気にする余裕などなかった。これから織瀬に対して敵意を持つ人間たちと渡り合わねばならないのだ。侍女たちには強気な言葉を返したものの、内心では不安がないわけではなかった。
前方に配置された壇上には、すでに弟──そう遠くない未来に、第十四代皇帝となる運命を持った少年が座している。
「織瀬姉上、本日はお役目頑張ってくださいね」
「ありがとう、珀亜」
織瀬は弟を真名で呼びかけた。本来ならば、このような公的な場では称号である翠蓮皇女・南陽皇子と呼び合うべきなのだが、気心の知れた姉弟である二人は、小声で言葉を交わし微笑み合った。
まだ十二歳だというのに、珀亜は凛とした姿で貴族や百官たちの前に座している。
経緯はともかくとして、この聡明な弟がやがて帝位に登ることは、この国の将来のためには喜ばしいことだったのかも知れないと織瀬は思う。未来において那岐山龍守に簒奪されることとなった原因は、珀亜が皇帝としては幼すぎたこと、そして織瀬を含め周囲に彼を支えるに足る能力を持った人材がいなかったことに尽きる。
(私たちは、珀亜の資質に気づいていながら、皇太后陛下の眼を憚ってそれを育てようとしなかった……)
もっと早く、伯母である水葉上皇や父帝が存命な時に珀亜を皇太子に推していれば。そうすれば、未来は変わっていたのだろうか。
(いいえ。そんな動きを見せた時点で、私たちは皇太后陛下に排除されていたわ。皇太后陛下にとっては、自分の実子を帝位に就けることこそが、何よりも重要なことだったのだから)
織瀬は小さく頭を振る。一年前に戻って来れただけでも毋妄之福というべきなのに、更に過去の出来事をあれこれ思い悩むのは強欲と言うものだ。今は自分に出来る最善を尽くすのみ。そう己に言い聞かせて、顔を上げる。
すると、今まで織瀬や珀亜に向けられていたであろう視線の多くが、てんでんばらばらに別の方角へと向けられる。余りにもあからさまな反応に、織瀬は心の中で苦笑した。
(皆、まだ来場していない皇太后陛下の目を憚っているのね)
無理もない。皇太后とその兄である葛城乙彦に睨まれて、貴族の称号を剥奪された者、官吏の職を追われた者、刑場へと引き出された者──数えだせば切りがなかった。皇女である織瀬ですら、前世では葛城家の威光を恐れて、ひたすら目立たぬように日々を過ごしていたのだから。
それ故に、多くの者たちが自分と珀亜をいないものとして扱う中で、自分を見つめる視線があることなど、織瀬は全く思いもしなかった。何気なく高位の貴族たちが並ぶ席に目を向けて、はっと息を呑む。身体中から血の気が引くのが、はっきりと分かった。
「姉上? どうなされたのですか」
隣で囁く珀亜の声が、遠くに聞こえる。
(どうしてあの人がここに……)
長い金色の髪が、陽光の下で煌めく。まだ夜の帳が下りるまではかなりの時間があるはずなのに、それはまるで夜空の月の光を集めたかのような硬質な輝きを放っていた。
そして忘れもしない、あの血のように紅い瞳。心の奥を見透かすようなその眼差しが、何に遮られることもなく、織瀬の元へと注がれていた。
(那岐山侯爵……)
危うく視線がぶつかりそうになり、織瀬は慌てて傍らの弟へと目を向ける。
「姉上、どこか具合でも悪いのですか?」
眉根を寄せて問いかけてくる珀亜に、織瀬は内心の狼狽を悟られないよう、必死で取り繕った笑顔を向ける。
「何でもないわ。……余りに多くの人がいるから、緊張してしまって」
(大丈夫。彼は侯爵家の人間として出席しているだけ。少し前までは西部の牧を務めていたはずだけれど……この時には帝都に戻っていたのね)
ひとりでに震え出す手にもう片方の手を重ねて、動揺を押し殺す。前の生の時にもおそらく那岐山龍守はこの葬礼に参加していたのだろうが、その時の織瀬は彼の存在を全く意識していなかった。
「姫様、そろそろ皇帝陛下と皇太后陛下がご入場されます」
傍らに控える明瑠の耳打ちに、織瀬は無言で頷く。
やがて葬礼を取り仕切る官職である太常が進み出て、厳かな声で告げる。
「皇帝陛下、皇太后陛下並びに第二皇女殿下のご入来です」
僅かに騒めきが聞こえていた会場が、水を打ったように静まりかえった。皆一様に頭を垂れ、地面に膝をつき、最上級の礼をとる。もちろん織瀬や珀亜も同じ礼を持って、亡き父帝の皇后と腹違いのきょうだいたちを迎える体勢を整える。
やがて昂然たる姿で現れたのは、喪服を纏ってはいるものの、平時と変わらぬ艶やかな化粧で顔貌を彩った皇太后・螺鈿だった。その傍らを数歩遅れて、齢十四の若き皇帝──真名を佐穂彦が、おどおどと落ち着かなげな様子で続く。悠然と後方から歩を進める第二皇女・紅蘭の態度の方が、余程皇族らしい落ち着きと不遜さを備えていた。
やがて拱手して頭を垂れる織瀬の上に、彼らの影が落ちかかる。
「翠蓮皇女」
「はい、皇太后陛下」
織瀬は顔を伏せたまま、自分の名を呼ぶ声に返答する。
「本日は亡き先帝陛下の本葬だ。よもや忘れたわけではなかろう?」
「もちろんでございます。皇太后陛下」
「では、その髪に挿したけばけばしい飾りはなんだ?」
皇太后の手にした扇が、織瀬のこめかみを打った。会場の後方から下位の貴族や官吏たちの僅かなどよめきが聞こえたが、織瀬にとってこれは日常茶飯事だった。以前なら素直に詫びを言って皇太后の顔を立てていたところだが、そうしたところで状況は何も変わらないと今の織瀬は知っている。
(ならば、少しくらい言い返してもいいわよね)
「恐れながら、皇太后陛下。けばけばしいとは何に対して仰っているのでしょうか」
「白々しいことを。お前が髪に挿している簪のことだ。葬礼の場にそのようなものを身につけるなど、一体どのような了見だ」
「簪でございますか? こちらは亡き先帝陛下より、生前に賜りましたものでございます。先帝陛下を偲ぶ意味で、こうして身につけて参り──」
「黙れ! 先帝陛下の威を借りて、己を正当化しようなどと、なんたる不遜か!」
再び皇太后の扇が空を切り、今度は織瀬の頬に叩きつけられた。先程よりも強い力で叩かれて、思わず身体がよろめく。しかし決して倒れてはなるものかという意地を見せて、織瀬はそのままの体勢で踏みとどまった。
今の皇太后は、一体どんな表情をしているのだろうか。普段は素直に頭を下げる織瀬に言い返されて。──そう考えると、なぜ皇太后に今まで卑屈な態度を取っていたのか、自分自身に怒りのような感情が沸いてきた。
「側妃の子の分際で、偉そうに──」
「皇太后陛下のご気分を害してしまいましたなら、謝罪いたします。確かに皇太后陛下の仰る通り、このような場においては華やか過ぎたかもしれません」
視界の端に映る珀亜の拳が、僅かに震えている。皇太后に難癖をつけられていることに対し、姉の代わりに怒ってくれているのだ。自分のために怒りを覚えてくれる人がいること、それが何よりも心強かった。
「卑賤の身ゆえ、作法を知らず申し訳ございません。今後このような場に臨むことがあれば──」
織瀬は僅かに顔を上げ、花が綻ぶように微笑んだ。
「装飾品は身につけず、皇太后陛下のように華やかな化粧を施して参列いたしますね」
「な……っ!」
皇太后の表情が凍りつき、二人のやり取りが聞こえていたであろう前方の席から、微かに吹き出すような音が聞こえた。
皇太后の矢のような視線が貴族や官吏たちを突き刺すが、そもそも皆深く頭を垂れているなかでは、誰が嘲笑したかなど分かるはずがなかった。
「この、穢らわしい血の分際で──」
声を張り上げる皇太后の元へ、ひとりの男が音もなく近づいた。
「螺鈿よ、他の貴族たちの目もある。そろそろ鎮まれ」
「お兄様……!」
耳元で男に囁かれ、皇太后は振り上げかけた手を慌てて下ろす。
「第一皇女のことで、お前がそのように思い煩う必要はないだろう。そろそろ席についたらどうだ?」
「お兄様……。そうね、その通りだわ……」
兄である葛城乙彦の言葉に、皇太后はまるで憑き物が落ちたように呟いた。
このところの皇太后は、以前にも増して気分の上下が激しかった。そして織瀬以上にその感情の起伏の犠牲となるのは、皇太后の宮である黄華宮に仕える侍女や宦官たちだ。その癇癪を鎮められる者といえば、実兄の葛城公爵・乙彦以外にはいない。
(これは、失敗したのかしら……)
結果的に、織瀬が煽った皇太后の怒りを、乙彦が鎮めることとなった。一部始終を見ていた貴族や官吏たちの間では、皇太后に逆らった織瀬よりも、この場を収めた乙彦の評価のほうが上がっているに違いない。
「翠蓮皇女、妹は先帝陛下の葬儀ということで気が立っていてな。お許しいただけるとありがたい」
「私ごときが皇太后陛下を許すなどと、恐れ多いことでございます。どうか公爵閣下も此度の事はお忘れください」
「皇女にそう言っていただけるとありがたい」
乙彦は織瀬の顔から足先までを舐めるように見やったあと、にやりと唇を歪めた。その笑いに、身の毛がよだつような感覚を覚える。前世でも、乙彦は時折このような目つきで織瀬を見ていた。もっともあの時は、その視線の意味に気づけなかったけれど──。
(やはり私には、このような振る舞いは向いていないのかもしれない……)
せっかく芽生えた闘争心が、早くも折れかける。心の中で溜め息を吐きながら顔を上げると、皇太后の背後に座した紅蘭と視線がぶつかった。
ほんの一瞬、紅蘭の眉間に不快そうな皺が刻まれる。これに関しても以前の織瀬なら気づかなかっただろうが、明らかに織瀬に対する敵意を含んでいた。しかし紅蘭は直ぐに艶やかな微笑を浮かべ、自然な仕草で目線を織瀬から参集した貴族たちの席へと向けた。
(皇太后陛下よりも、紅蘭のほうが余程自分の感情を抑制できているわね……)
だがそうであるならば、なぜ紅蘭は前世において織瀬を殺すという行動に出たのだろうか。あのように、自らが犯人だと喧伝するような杜撰な方法でもって。
(あの時は、私も普通の精神状態ではなかったし……。紅蘭も、私が知らないだけで辛い目に遭っていたのかもしれない)
もっとも、先程の視線を鑑みるに、この時点ですでに紅蘭は織瀬に対して友好的な感情を持っているとは言い難い。そうであるならば、彼女の中で燻っていた悪意を煽った人間がいるか──。
そこまで考えて、織瀬は心の中でかぶりを振った。
(止めましょう。その心中を推し量れるほど、私は紅蘭のことを理解していない。それにもしそうだとしても、あの時点で既に那岐山侯爵の天下は定まっていたのだし……)
さらに言えば、織瀬は皇女と言っても名ばかりで何の権力も持ってはいない。まさに毒にも薬にもならない、生きていても死んでいても情勢には何の影響も与えはしないだろう。
紅蘭の振舞いに第三者の意図を感じるなど、それこそ身の程知らずも良いところだ。
物思いに耽っているうちにも、儀式は滞りなく進んでいく。太祝令が織瀬の父、第十二代皇帝の諡号を高徳と定める旨を述べると、いよいよ次が織瀬の出番だ。
「──続きまして、第一皇女・翠蓮殿下より、挽歌と舞の奉献でございます」
太常の呼びかけに、織瀬はすっと立ち上がった。沓音ひとつ響かせず、しずしずと祭壇の前に進み出ると、その先にある父の棺に向かって額づいた。
「偉大なる創世神のご意志を継ぐ者、うつし世を照らす太陽神の御子たる御方は、うつし神としての御身から解き放たれ、天上より我らをお見守りくださることは疑いなけれども、我らの嘆きの涙は絶えること能いません──」
定められた口上を述べた後、織瀬は顔を上げ、祭壇に置かれた神具を手に取る。天上に存在すると言われる聖樹の枝を模った黄金のそれには、実の代わりにいくつかの鈴が下げられている。織瀬が軽く手首を返すと、涼やかな音色が場の空気を震わせる。
「我が君が見しうつし世の天つ空 常世にあれど見し人ぞなし」
しゃらん、と鈴の音が響く。一呼吸置いて、織瀬はちらりと参列者たちの様子を伺う。彼らの中にも、きっと様々な思惑が渦巻いているに違いない。ほんの僅か思案した後、織瀬は二首目の歌を口ずさむ。
「我が君が植えし花の香絶えぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに……」
先帝の死を悼む歌を詠みながら、織瀬は静かに白い袖を揺らす。舞に合わせてそれとなく視線を皇族たちの席へと転じれば、以前は気づかなかった様々な事象が見えてくる気がした。
(前の人生では、この歌と舞を失敗してはならないとそればかりに気を取られて、周りに目を配ることを怠っていた……)
だが、今の織瀬には見える。
例えば、一臣下であるはずなのに堂々と皇族たちと並ぶ席に座し、織瀬に対して含みのある視線を向ける葛城乙彦。
そして皇太后が織瀬に向ける憎悪に満ちた眼。その隣で不安そうに、織瀬と母親との間を交互に視線を巡らせる幼帝・佐穂彦。扇で口元を隠し、眉を顰めて織瀬を見つめる紅蘭。
ただひとり珀亜のみが、舞う姉の姿を一心に見つめていた。
「最後に、皇帝陛下と翠蓮皇女殿下より、高徳皇帝陛下が無事天上へとお還りいただけるよう、神宝と御衣の奉献を行っていただきます」
本来ならば、ここで皇帝が織瀬の隣に並び、共に棺に供物を納めるはずなのだが──太常の呼びかけからしばらくしても、皇帝はなかなか席を立とうとしない。
「陛下、何をなさっているのです。早くお進みください」
「でも、母上……」
皇太后が小声で窘めても、佐穂彦はぐずぐずとその場を離れようとしない。やがて痺れを切らせた皇太后が、半ば無理矢理皇帝を引き立たせ、祭壇の前へと押しやった。
「翠蓮姉上……」
母親に突き放された皇帝は、今度は潤んだ眼を織瀬へと向ける。
織瀬はなぜ皇帝が役目を果たすことを渋るのか、その理由がわかる。棺に供物を供えるためには、当然そこに近づかねばならない。しかしその棺に納められている先帝は、一年も前に崩御しているのだ。いくら医官たちがその玉体に出来る限りの処置を施し、棺の周囲には香が焚きしめられているとはいえ、幼い皇帝が二の足を踏むのは無理もなかった。
そしてこの役目があるからこそ、織瀬が挽歌と舞の奉献を任されたのだろう。始めは紅蘭に打診があったのだが、彼女はそれを断った。そうでなければ、織瀬が儀式の場で重要な役目を担うことを、皇太后が許すはずがない。
だが織瀬という代役を立てられる紅蘭と違って、皇帝は義務から逃れることは出来ないのだ。
「嫌だ、見たくない……」
太祝令から棺に捧げる宝剣を受け取っても、佐穂彦はその場を動こうとはしない。皇帝の呟きが聞こえるはずもなかろうが、さすがに異変に気づいたのか、参列者たちの間に微かな騒めきが起こる。
(このままではいけないわ)
織瀬は静かに皇帝の側まで後退ると、耳元に囁いた。
「陛下、私と共に参りましょう。棺の近くでは、お眼を閉じていても大丈夫です」
「姉上……」
「冠の旒の陰に隠れますから、陛下のお顔は臣下たちには見えません。私が先導いたしますから、ご安心ください」
「分かった……」
力なく頷くと、皇帝は織瀬の着物の袂をそっと掴む。織瀬は一瞬困ったように眉根を寄せたが、なるべく参列者たちの眼にその様子が映らぬよう、さりげなく皇帝に寄り添うように立ち位置を変える。
「陛下、そのまま三歩ほど前へお進みください」
「うん……」
眼を閉じたまま、皇帝は織瀬の指示通りに歩を進める。
「両手で剣を捧げてください。そのまま、ゆっくりと下へ下げて……そこで剣を置いてください」
皇帝に囁きながら、織瀬も亡き父の棺へ衣を捧げた。副葬品は質素なもので良い、という遺詔に沿って、この御衣も豪華とは言い難いものだ。だがこの衣は、父にとってどんな宝よりも価値のあるものだろう。それは織瀬と珀亜の母が、生前に父のためにと手ずから仕立てたものだ。
(お父様……天上で、どうかお母様とお会いできることを……)
変わり果てた父の姿を眼にしても、織瀬は露ほども怯むことはなかった。前の生で、もっと酷い状態の亡骸を数多く目にしていたからだ。
僅かに感じる死臭に、棺の蓋を支える官人たちも鼻を覆いたいのを堪えている様子が見てとれたが、織瀬の心にあるのは再び父の死に向き合うという数奇な出来事に対する感慨と、その死が少しでも安らかにあるようにという祈りだけだった。
*
「龍守様。お気持ちは分かりますが、あの場面で笑っては皇太后陛下への侮辱と取られて、即刻打首となってもおかしくありませんぞ」
「分かった分かった。そういきり立つな、鷹比古。俺もあれは不味かったと思っている」
万事滞りなく──とは言い難いが、とにかく大喪の礼が終わり、一度控えの間へと戻った龍守に対し、鷹比古は開口一番苦言を呈した。
高位の貴族にはそれぞれ専用の部屋があてがわれているため、ここにいるのは龍守とその側近である三名の男たちのみだ。
「だがあの皇太后の顔、あれを笑わずにいられるか? お前だって笑った俺のお気持ちは分かるのだろう?」
「……叩頭していて、良く皇太后陛下の表情が見えましたな」
「見ずとも分かる。あれは面白い顔をしていたぞ」
ははっと再び気楽な笑い声を上げる主君に対し、鷹比古はこめかみを押さえて嘆息した。そんな家臣の苦労などどこ吹く風と、龍守は部屋の隅に設えられた文机の前で、悠然と胡座をかく。
「鷹比古先生も大変だな。龍守がまた何かやらかしたのか?」
卓の上に置かれた菓子を摘みながら、鳶色の瞳の男が茶化すように笑う。
「お、この菓子美味いな。さすが宮廷、いいもの食ってやがんぜ」
「全く能天気な……。隼人殿、貴方がそんな調子だから、鷹比古先生は自ら龍守様へ同行したのですよ」
この部屋の中では最も年若いと思われる青年が、叩きつけるように湯呑みを隼人の前に置いた。
「お、気が利くなぁ倶知比古」
「龍守様と先生のついでに淹れて差し上げただけです。大体本来ならば護衛の貴方が龍守様に同行すべきなのに、腕っぷし以外は全く取り柄がないから……。ああ、龍守様や先生の爪の先ほどでも貴方に思慮深さがあれば……」
「あー、はいはい。全く相変わらずだなぁお前は。俺のほうが七つも年上だってこと忘れてねぇ? つうか龍守と鷹比古に対する時と態度が違いすぎるだろ」
「同じように扱って欲しければ、もう少し分別のある振る舞いをなさってください」
「おい、もうその辺にしておけ。お前たちが言い合いを始めると、いつまで経っても終わらんからな。……そうだ、倶知比古。紙と筆を用意してくれるか。ひとつ文を出さねばならなくなった」
「はい。かしこまりました」
笑いながら家臣たちの言い争いを収める龍守だが、その隣で鷹比古は未だ渋い顔をしている。
「……龍守様。貴方様も隼人殿の能天気さを笑えませんぞ。今この国で最も力を持っているのは葛城家です。皇太后陛下への侮辱は、葛城家への侮辱と取られかねません。……殊に龍守様の州牧としての実績は、葛城家にとっては脅威と思われる可能性もあるのですから、付け入られるような振る舞いは避けるべきで──」
「そう心配せずとも良い、鷹比古。皇太后は俺を打首になどせぬよ」
「……何を根拠に仰るのですか」
「皇太后は大層面食いだという話だからな。俺を殺すなどと、そんな勿体無いことをするはずが無かろう」
鷹比古の眉間に刻まれた深い縦皺に向かって、龍守は倶知比古から受け取ったばかりの筆の先をびしりと突きつけて言い放った。
「…………」
盛大なため息を吐きながら、鷹比古は崩れるように椅子に腰を下ろした。その傍らに、倶知比古が慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか、先生?」
「反論したいのだが、一瞬納得しかけた自分が情け無い……」
卓の上に突っ伏すようにして頭を抱える鷹比古に、隼人は気の毒そうな一瞥を投げる。
「龍守、鷹比古に白髪が増えたらお前のせいだぞ。……って言うか、主君がこんななのに、何で俺は菓子食ってただけであんなにディスられ……いや、罵倒されたんだろ。納得いかねえ……」
「それは貴方は常にいい加減でお気楽ですが、龍守様はあくまで場を和ませるために仰っているので、その違いです」
「いや、どう考えても鷹比古は和んでねえけど……。それと倶知比古、龍守のアレは素で言ってんぞ……」
「さて。冗談はともかくとして、夜には穢れ落としの宴もある。どう立ち振る舞うか、作戦会議といこうではないか」
紙に向かってさらさらと筆を走らせながら、龍守は家臣たちに水を向ける。
「大喪の礼は一人しか同行を許されなかったゆえ、お前たち二人には留守居をさせたが、宴には参加して良いと言われているからな」
「ですがそうなると、かなり規模の大きな宴となりますね。先帝の葬儀の後に如何なものかと思いますが……」
眉を顰める倶知比古の疑問に、卓から顔を上げた鷹比古が答える。
「穢れ落としなど口実だ。実際のところ、諸侯に葛城家の権力を見せつけることと、葛城家に従う気があるかどうかを見極めることが宴の目的だろうからな」
鷹比古の言葉に、龍守は紅い眼を細めて皮肉げに笑う。
「まあ、そんなところだろう。俺としては、隅のほうで大人しく酒を呑みつつ、葛城乙彦や諸侯の思惑を観察するのが良かろうと思う」
「私もそれが良いと思いますな。葛城家の専横は眼に余るものがありますが、今行動を起こすのは得策ではないでしょう」
「よし。鷹比古もこう言っていることだし、決まりだな。目立たず大人しく、だ。分かったな隼人?」
「……龍守お前、どの口が俺に言ってんだよ。大喪の礼でやらかしたくせに……」
「あれはやらかしたという程のものではない。それにそもそも、皇太后を笑ったのが俺だとはばれていないからな」
「……皇太后を笑ったって……こいつマジで不敬だわ……」
それでよく俺に偉そうなこと言えるな、とぶつぶつと呟く隼人の横で、倶知比古は深刻そうな顔つきで何かを考えこんでいる。
「どうした、倶知比古。何か気がかりでもあるのか?」
何気ない口調で、龍守は家臣に問いかけた。倶知比古は弾かれたように顔を上げ、おずおずと口を開く。
「いえ、その……。私などが龍守様に同行して、お役に立てるかどうか……」
「なんだ、お前。さっきまで俺に威勢のいい事言ってたのに」
「茶化すな隼人。……良いか、倶知比古。今回俺がお前を連れてきたのは、お前が鷹比古の弟子だからというだけではないぞ。俺はお前にそれなりに期待している。──だが、初めから隼人や鷹比古のようにやろうとは思うな。お前にはお前の出来ることがある。差し当たっては、宴の場で俺の眼になってもらいたい」
「龍守様の眼、ですか?」
「そうだ。俺や鷹比古も相応に周りを見ているつもりだがな、その場で分かることには限界がある。そこで、お前には宴の場で全てのことを観察してもらいたい。参加者の表情、葛城乙彦や皇族に対する振る舞い、誰が誰とどんな会話をしていたか──ありとあらゆることをだ。出来るな、倶知比古」
「……! はい、お任せください」
感無量といった顔つきで頷く倶知比古に、龍守は笑う。
「鷹比古、参加者の名簿があったな。倶知比古に見せてやれ」
「は、かしこまりました」
眼を輝かせながら鷹比古が広げた竹簡を覗き込む倶知比古を横目で見やり、隼人は龍守に囁く。
「お前、こういうのマジで上手いよなあ。良く口が回るもんだぜ」
「何を言う。倶知比古に期待しているのは本当だ。……それはそうと隼人。安比家からあれ以降接触はないな?」
「ああ。お前の態度を見ればな、取りつく島もないっていくら何でも分かんだろ」
「だが、あれで計画自体を諦めるとは思えん。何かあった時には──」
「分かってるよ。皇族を守ればいいんだろ?」
「そうだ。優先順位で言えば皇帝、南陽皇子、翠蓮皇女、その他だな」
「皇帝と皇子は分かるけど……翠蓮皇女?」
怪訝そうに首を捻る隼人に、龍守は口角を上げる。
「お前も大喪の礼に出席していればな。大層な美女だったぞ。皇太后に対する、中途半端に勝気な態度も悪くない。……駄目で元々、文のひとつも送ってみようかと思っている」
「文ってお前……初めは第二皇女のほうを口説くつもりだったんじゃねぇのか? あっちのほうが色々と利用しがいがあるって」
「気が変わった。大した後ろ盾はなくとも、翠蓮皇女も皇族だ。それにせっかく関わりをもつのであれば、好みの女のほうがいいだろう?」
にやりと意味ありげに笑う龍守に、隼人はやれやれと肩を竦める。
「またいつもの気まぐれか。でも俺としては、見た目だけで第一皇女に行くのは止めたほうがいいと思うぜ? あの皇女に関しては俺も良く分かんねえし……」
「ふ、『創造主』様の忠告は痛み入るがな。俺は自分の判断に自信を持っている。……それに、俺は決して美しい容姿だけで翠蓮皇女に興味を持ったわけではないぞ?」
そして龍守は、倶知比古と今宵の宴についての意見を交わす鷹比古へと言葉を投げる。
「なあ鷹比古。お前もあの歌は引っかかっただろう?」
「ええ。一見、古の挽歌を捩っただけのように聞こえましたが……あのニ首目はいけませんな」
「挽歌って、死んだ人間を悼む詩のことだろう? 翠蓮皇女は何て言ったんだ?」
隼人の問いかけに、龍守は軽く眼を閉じて、翠蓮皇女が詠んだ歌を口ずさむ。
「『我が君が植えし花の香絶えぬべし 我が泣く涙いまだ干なくに』だそうだ」
「……それの何が不味いんだ? 我が君って死んだ先帝のことだろう? 『先帝の植えた花の香りも絶えてしまうだろう。私の泣く涙はまだ乾いていないのに』……別に普通の歌じゃねえか」
「これだから無骨一辺倒の男は困るな。お前も歌のひとつやふたつ嗜んでみたらどうだ? そうすればその女っ気の無さも、少しは改善されるかもしれんぞ」
「五月蝿え余計なお世話だ。で、一体何が不味いんだ? 勿体振らずに教えろよ」
揶揄うような龍守の口ぶりに、隼人が噛み付く。気の置けない友人同士のなかなか先に進まない会話に、やんわりと鷹比古が割って入る。
「『我が君が植えし花の香絶えぬべし』……この『絶えぬべし』と言う表現がよろしくないのです、隼人殿」
「は? 何でだよ、別に事実を歌っただけだろ。花なんかいつかは枯れるもんだし」
「忌み言葉ですな。我々庶民にとって死とは厭うべきものですが、創世神の末裔を称する皇族にとって、死とは本来あるべき天上に還るというもの。残された者の悲しみの表現として挽歌の奉献がなされるが、そこに死に対する否定的な言葉を使ってはならんのです」
「ふーん……分かるような、分からんような……」
首を捻りながら唸る隼人を見て、龍守は可笑しそうに肩を揺らす。
「それから隼人。この『先帝が植えた花』と言うのは、何も本当に先帝が庭に花を植えたとかそう言ったことを言っているのではないぞ。……この『花』とは、先帝が生きていたころの時代と言うことだ」
「先帝の時代?」
「そうだ。翠蓮皇女はそれを懐かしみ、今は僅かに残っている先帝の面影も、涙が乾く間もなく絶たれてしまうだろうと言っている。……ここまで言えば、誰によって絶たれてしまうと言っているのか、それくらいは察せられよう?」
「……葛城乙彦?」
「正解だ。隼人にしては冴えているではないか」
龍守は冗談めかして言うが、さすがの隼人もおいおいと眼を見開く。
「それって普通にやばくねぇか?」
「だから使ってはならない『絶える』などという表現も使って、先帝の死を強調しているのですね。ですが龍守様。本当にその歌に龍守様の仰るような意味が込められているのなら、それは葛城家の専横を公の場で告発するようなものです。翠蓮皇女殿下は何故そのようなことを……」
倶知比古の疑問に、龍守は唇を指先でとんとんと叩きながら、ほんの僅か思案する。
「そうだな。俺は翠蓮皇女の性格は噂でしか知らんから、推察するしかないが……葛城家に対する戦線布告とも取れなくはないが、あるいは……」
「あるいは、何でしょう?」
「自分は葛城家に対して不満を持っているということをあの場で示し、反葛城家の勢力を見極めようとしているか……」
「どちらにしても、巷間で言われているような大人しいばかりの姫君ではなさそうですね。……しかし、大丈夫でしょうか。諸侯も集まる場でそのようなことを言って、皇女であっても粛正の対象となるのでは。殊に皇太后陛下は翠蓮皇女殿下を嫌っていると言う話ですし……」
「まあ、それに関しては心配ないだろう。葛城乙彦は隼人に負けず劣らずの無風流との噂だからな。皇太后も歌に造詣が深いと言う話は聞かぬし、誰かが告げ口でもせぬかぎり翠蓮皇女の歌の意図が通じることは無かろう」
「……何でお前はいちいち俺を引き合いに出すんだよ……」
「隼人殿。いつまでも子どものように膨れていないで、貴方も今宵の宴に備えてください。鷹比古先生に教えていただいて、参加者それぞれの爵位、官職、政治的な立ち位置くらいは覚えておかないと、龍守様のお役に立てませんよ」
「うげぇ……この短時間で出来る訳ねえだろそんなこと……」
「倶知比古。いくら私でも隼人殿にそれを叩き込むのは無理だ。やる気のない人間に教えるほど不毛なものはない」
「鷹比古……無理とは言ったけどその言い方……ったくお前ら揃いも揃って俺を馬鹿にしやがって」
むくれたままごろりと長椅子に寝転がる隼人をちらりと見やり、龍守はすっと文机の前から腰を上げる。
「さて、方針も決まったことだ。お前たちは宴が始まるまで休んでいるといい。……俺は少し野暮用を済ませてくる」
ようやく墨が乾いたばかりの書状を、懐に収める。そのまますたすたと扉へ向かって歩き出す龍守を視界の端に捉えて、隼人は慌てて長椅子から跳び上がって叫んだ。
「おい、どこ行くんだよ龍守!」
「野暮用だと言っただろう。着いてくるな隼人」
腰の刀を差し直しながら駆け寄る隼人を一瞥し、龍守は扉に手を掛ける。だがその手首を、隼人の厳つい手が掴んだ。
「馬鹿野郎そう言う訳に行かねぇだろ! 勝手に一人でうろちょろすんじゃねぇよ、立場分かってんのかお前!」
「分かっている。俺は侯爵家の当主で、近々近衛軍の将軍に任命される」
「そんでもって、その出世の速さと女にもてるせいで方々から恨み買ってんだろ! 一人でうろついてたら背後から刺されるぞ!」
「その前に返り討ちにするから問題無い。良いから手を離せ、隼人」
「問題無くねぇだろ! 俺を連れてかねぇなら、このままこの腕折るぞ!」
「馬鹿力め。冗談ではなさそうだな」
僅かに痺れを感じ始めた腕を見やり、龍守は小さく舌打ちした。
「分かった、着いてくるなら勝手にしろ。ただし、余計な口は出すなよ。分かったな?」
乱暴に隼人の手を振り解き、龍守は自分より僅かに背の高い友人を紅い瞳で睨め付けた。
「へいへい、承知しました。……お前も、頼むから宮廷で面倒事は起こすんじゃねぇぞ?」
「隼人のくせに、誰にものを言っている」
「お前だよ、お前」
側から見ればとても主君と家臣とは思えないやり取りを交わしながら、それでも連れ立って二人は部屋の外へと出て行った。
ばたんと閉まる扉に対して、倶知比古は一つ息を吐く。
「相変わらずですね。あのお二人は……」
「龍守様の行動にも胃が痛いが、隼人殿にもそろそろ立場を弁えてもらわねば困るな」
眉間に寄った皺を指先で解しながら、鷹比古は今日何度目か分からないため息を吐いた。
「龍守様が侯爵位を継承して早一月。二人だけの時ならとやかく言わんが、他の家臣たちの前でもあの態度では示しがつかん。……龍守様は仕事さえすれば家臣の素行などには頓着せぬが、最側近の振舞いがあれでは他の者に侮られかねん」
「隼人殿が自ら察して改めてくだされば良いのでしょうが、無理でしょうね」
苦渋の表情を浮かべる師に対し、倶知比古は困ったように笑いかける。
「ですが先生、こればかりは私は杞憂だと思いますよ。龍守様と隼人殿の関係性は、別格と言うか……。兎に角、それで龍守様は家臣に対して甘いとか、そう言った風に受け取る者は居ないと思います。居たとしたらそれは思い上がりも甚だしい。隼人殿と他の者を同格に扱うなどと」
「……ああ。お前の言う通りだ、倶知比古。だが、それ故に私は今後の事を危惧しているのだがな」
「今後とは?」
「龍守様は、侯爵家の当主や近衛軍の将軍程度の位に収まる器では無い。いずれはこの橘花国の国政を担うべきお方だ」
「確かに、私も葛城公爵よりも龍守様の方が国を背負うに相応しいと思います。ですが、それと隼人殿とどのような関係が……」
「付け入る隙を与えてはならぬのは、何も政敵に対してばかりではない。身内の裏切りによって滅んだ英雄たちの悲劇は、歴史書を紐解かずとも枚挙に暇がない……。しかし、これはお前の言うとおり私の考え過ぎだな。幼少の頃から龍守様を見ているせいか、未だに過保護になってしまう」
「龍守様は見た目に似合わず大胆というか、豪快というか……見ていてはらはらすることも多いですからね」
苦笑する倶知比古に釣られたのか、鷹比古もようやく引き結んでいた唇を僅かに緩める。
「さて。龍守様の野暮用次第では、また仕事が増える可能性がある。今のうちに出来うる限りの根回しをしておかねばな」
「私にも何かお手伝い出来ることはありますか、先生?」
「現時点では龍守様が何を考えていらっしゃるのか、はっきりとは解らんからな。とりあえずは私一人で充分だ」
「そうですか……」
下を向く弟子の肩を、鷹比古は軽く叩く。
「お前は今宵の宴に備えて少し休んでおけ。龍守様もそう仰っていただろう? ここのところお前の顔色が優れぬのを、龍守様は気づいていらっしゃる。おおかた此度の同行に気を張りすぎて、碌に眠れておらぬのではないか?」
図星を突かれたのか、倶知比古は気まずそうに視線を泳がせる。
「あまり龍守様に心配をかけるでないぞ。では、悪いが私も席を外す。くどいようだが、龍守様の気遣いを無駄にせぬ為にも体を休めておくのだぞ」
「かしこまりました。先生」
深々と頭を垂れる弟子に見送られ、鷹比古もまた扉の外へと出て行った。




