5.あの時あの場所で終わったこと
「絶対また来てくださいね。約束ですからね」
役所勤務のお姉さんことネールさんと別れた爽やかな朝。
朝ご飯を食べてお腹いっぱい。
お小遣いをもらって懐あったか。
「何が起きてるこれ?! 私の顔と性格が良すぎてモテてるにしてもじゃない?!」
『戦国の世でも通用する自己肯定感じゃなおぬし』
「これスキルのせいとかじゃないよね?」
『たしかに天下人たるわしの魅力は世の女子が放っておかぬ魔性じゃが』
その自信で人の自己肯定感に口出ししてんじゃねーぞ。
『何にせよ好かれる分には特に困ることもあるまい。気にするな。金子ももらったのであろう?』
「初対面のお姉さんに泊めてもらってお小遣いもらうとかヒモだぞこんなん」
『妾の一人や二人で狼狽えるな未通女。案外この世界ではおぬしのような小娘が美の対象なのやもしれぬぞ』
「女の子限定で?」
『さもありなん』
百合かぁ……
嫌いじゃないしモテるのは悪い気しないけど……複雑な気持ち。
どうすんのこのまま百合ハーレムとか出来ちゃったら。
『それで、これからどうする?』
「どうしよっかね」
元の世界で死んだのはたしかだし、この世界で生きていかないといけないわけだけどさ。
なんだろ、何をすればいいのかわかんないや。
しばらくの間、街を一望出来る高台で空を見上げてた。
太陽の光をじっくり浴びたのなんて何年ぶりだろ。
「気持ちいいー」
『呑気な』
やっぱ人間って太陽浴びなきゃいけないんだな。
「なんか……今になって死んだんだなぁって実感してる」
『人は誰しも必ず死ぬ。ましてや死んでから悔いても始まらぬ』
「死んでから何百年も経ってる人が言うと含蓄ヤバいね」
『わはは、そうじゃろう』
「あ」
『なんじゃ?』
「初めて笑った」
『むぅ……』
信長って荒っぽい粗野な性格って勝手に思ってたけど、案外笑うときは笑うんだ。
あ、でもこの信長はあくまで誰かが作った信長で……本物の信長ではなくて、でもこの信長も本物で……うーん、よくわかんね。
わかんないから信長は信長ってことでいいや。
「信長はないの? なんかやりたいこと」
『わしか? そうじゃな……』
「せっかく転生したんだし、この世界で天下統一とか?」
『わっはっは、それはいいのう! 日の本を統べることは叶わなんだが、この世界で野望の続きと洒落込むのも悪くはない!……が、それはもうよいのじゃ』
「もういい?」
『わしはかつて天下を取るために戦った。多くを斬り、多くを蔑ろにし、多くを滅ぼし、多くを捨てた。その末路が本能寺じゃ』
信長の声はどことなく寂しそうに聞こえた。
『家臣に裏切られ、何も残らず、何も得ず。夢半ばで生を閉じた。そんな結末が待つだけならば、わしはもう天下など要らぬ。わしのやりたかったことはもう、あの時あの場所で終わったのじゃ』
終わった……か。
私も……いや、私のやりたかったことって……なんだ?
ずっとゲームだけして、ゲームの中ではそこそこ有名人だったけど、それ以外は何があった?
私は、何がしたかった?
『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり……か』
「いい言葉だね」
『わかるのか?』
「人生短いんだから後悔しないよう生きろよ的な」
『当てずっぽうじゃろ』
バレた。
『ふむ、湿っぽくなったの。気晴らしに剣でも振りに行くか』
「ええーべつにいい」
『いいから行くぞ。金子も稼がねば先立つものが無い』
それもそうか。
「わかったよ。じゃあ武器屋行こうか」
『うむ』
装備は大切だしね。




