46.味方
「ふがッ」
目を覚ました時、視界は野営用の天蓋で埋まっていた。
『起きたか』
「おぁよ……ふあぁ……」
外に出れば太陽が高く昇ってる。
かれこれ半日近く気絶してたらしい。
「蝶羽さん!」
「おーリゼちゃん。おはよ」
「おはようって、そんな呑気な……! 全然目を覚まさないから心配してたんですよ!」
「ニシシ、ゴメンて」
「おお、目が覚めたか!」
アレクセイさんの大声が頭に響く。
よかった、アレクセイさんも他の騎士さんたちも無事っぽい。
「我らが至らぬばかりに迷惑をかけた。申し訳ない」
「いやいや野盗とかならまだしも、あんなのが出てくるなんて誰も予想出来ませんて。何とかなったんだから万事オッケーでしょ」
『終わり良ければは楽観的すぎるぞ』
そう?
まあ勝者が正義ってことで。
「それよりちゃんと働いたんだから、報酬の方ちゃんと色つけてくださいよ? ウェッヘッヘ」
「心得た」
リゼちゃんがそっと、私の手を握ってきた。
「ほぇ?」
「あなたが強いのはわかりました。ですがもう、あんな無茶はしないと約束してください」
「リゼちゃん……ちょっと憂いたその顔めーっちゃきゃわだねぇヘヘヘ♡ 頑張ったご褒美にチューくらいなら苦しゅうないって感じだけどどうかなぁ〜?♡」
バキッ!
「知りません!! フンッ!!」
「おま……一国の王女様が顔面にグーパンは邪智暴虐すぎんか……」
「自業自得だ」
『恥を知れ』
ゴメンて。
でも命がけで頑張った私を労る気持ちって大事だと思わん?
ほっぺをすりすりする私の前に、スッと湯気だったスープが差し出された。
「んーいい匂い」
「……お腹がすいていたらどうぞ。要らないのならいいですけど」
「食べる食べる。おいしそ〜。リゼちゃんあーんして♡」
「一人で、食べな、さいっ!!」
「あっちゅ!!」
スプーン突っ込むな……
「ったくお転婆なお姫様だ。ふーふー……ん! んまい! あったかくてほっとする味だなぁ。寝起きにスッと入ってくるっていうか」
「よく味わうがよい。殿下が手ずから作られたスープなど」
「卿! 余計なことは言わないでください!」
「おっと、これは失礼いたしましたかな」
「まったく……」
んぁ?
リゼちゃんなんか顔赤くない?
何かあった?
スープおいしすぎて集中してた。
『おぬしは……真にうつけよのう』
なんか罵倒されたんだが。
さて、私が気絶してたのもあって出発が遅れたわけだけども、その日の夜までには近くの宿場町にたどり着いた。
王都までは目と鼻の先。
あと二日ほどで到着予定とのこと。
「んっ、ん……はぁ、疲れたね。馬車乗りっぱなしでお尻痛ぁ。今日はゆっくりベッドで眠れるのさいこーすぎる」
『だらしない。着替えくらいせぬか』
「ブーツぽい〜っと。うっわめっちゃ蒸れてる。お風呂入らないと私のお御足が臭くなっちゃうよぉ」
『おお臭う臭う。鼻が曲がるわ』
「ふざけんな顔面踏んづけるぞバカ殿」
悪態をつきながらコートをベッドに放った。
『昼間の傷は癒えたようじゃな』
「うん。まあね」
『あれはなかなかに強敵じゃったな』
「それな。やっぱあれって、第二王子派の刺客的なやつだったのかな?」
『そう考えるのが妥当じゃろう。向こうの陣営には相当な策士がいるらしい』
「あのレベルの魔物を使役出来る策士ね」
あそこにテイマーでもいたのかな?
けどそれにしては気配が無かったし。
『何者かの視線は感じておったが、それとあの骸骨とは別物じゃ』
「わかるの?」
『貴様とではくぐった戦場の数が違うわ』
「じゃあそいつの正体までわかってんだろーな」
『たわけたことを。あれ以降視線どころか気配も感じぬ。首狩り幽鬼は、こちらの力量を推し量るためだけに送られた尖兵だったのじゃろう』
あれが尖兵って……
「向こうの戦力エグいことなるなぁ……」
私はベッドに倒れて天井を仰いだ。
『叶うならばこちらも戦力の増強をしたいところじゃが。そういえば、奴を倒して得た獲物があったな』
「あーそういえばスキル増えてたね」
魔王の理で吸収したエクストラスキル、【骨魔法】。
試しに使ってみたけど、まあ文字通りに黒い骨を操る魔法だ。
骨のサイズは自在に変えられて、首狩り幽鬼がやってたみたいな使い方が出来るっぽい。
「これ魔力がエグい削られる」
汎用性は高そうだけど燃費は悪い。
使うシチュエーションは限られそう。
『それとあれじゃ。あやつが持っておった』
「ダークリアクションね。これなかなかのレア物なんだよね。王都に着いたら素材にして刀に打ち直してもらおう」
『おお! どんな刀になるか楽しみじゃ!』
王都周辺の魔物はそこそこ良質な素材が採れるから、装備を強化するのもいいな。
「あとは魔法の勉強もしたいな」
『【狼魔法】一発撃って気絶など、肝心なところで役立たずになるからの』
「そのとおりなんだけどハッキリ言われるとムカつくな」
『シリウス以上の魔法の師などそうはおらんじゃろうが、何にせよ向上心があるのは良いことじゃ。今後も精進せよ』
「うぃっす」
一通り話し終わったタイミングで、リゼちゃんが部屋に備え付けのお風呂から戻ってきた。
さすがお姫様。
お風呂上がりも気品が違う。
「上がりました。今誰かと話していませんでしたか?」
「気のせいだよ。それより一日馬車に揺られてお尻凝ってない? 大丈夫そ? 揉む?」
「…………」
人を見る目じゃないのやめてもろて。
「……戦っているときはあんなに勇ましかったのに」
「オンオフを切り替えられる系のいい女ってことで。髪乾かしたげるよ」
「ありがとうございます」
【炎熱操作】と【風魔法】でドライヤー。
リゼちゃんの髪サラッサラでいい匂ひ。
「卿との戦いを見たときも思いましたが、あなたは何というか異質ですね。動きは鍛えられた騎士のように精錬なのに、型に嵌まらない奔放さがあって。基礎はルーガスト流のものですか?」
「何急に。基礎っていうか、技が身体に染み付いてるだけかな。身体の動かし方とかは他に師匠がいる」
魔王(笑)とバチイケ狼お姉さん♡
『誰が(笑)じゃ』
「やはり女性だてらに一人で旅をしている人は違いますね。私にもそれだけの強さがあればよかったのに」
「ん? リゼちゃん強いっしょ。【光魔法】なんて結構なレアスキルだし」
魔法の威力も高かったしね。
「いえ、力や技でなく心の話です」
「心?」
リゼちゃんは対面のベッドの縁に座った。
「私は王族として、それなりの教育を受けてきました。けれどそれはこの国の王になるためでなく、他の国に嫁ぐための政略的なものです」
『女であるからこその宿命じゃな。さもありなん』
戦国ハラやめろ。
「もちろんその在り方に疑問はありません。そうするのが王女の責務です。しかし王位に就くべき兄がいて、その座から蹴落とそうとする弟がいて、万が一のときは私が王位に就かなければならない。こんな状況に困惑しているのもたしかです」
「それは仕方ないんじゃない? いや、リゼちゃんが現状祭り上げられてることじゃなくて。誰だってそんなことになったらプレッシャーで吐きそうになるだろって話ね。んで?」
「で……とは?」
「リゼちゃん的にはどうしたいの? てか、どう在ってほしいの?」
リゼちゃんは一言。
「どうしたい……のでしょうね」
くしゃっと笑顔で小首を傾げた。
「このまま成り行きに任せるつもりはないにしても、なるようにしかならないという漠然とした不安が時折肩に手を置くんです。私がもしも強ければ、自分で選択することも出来たのに」
『この娘はわかっておるのじゃな。いざというときは、肉親を自らの手にかけねばならぬということを』
それがやるべきことなら……って?
そんなの……
『おぬしにこの覚悟はわかるまいよ。否、わかる必要も無い。これはおぬしが永劫背負う必要の無い業じゃ』
信長は寂しそうな声色でそう言った。
そうか、たしか信長も……
「……すみません。もうすぐ王都に着くというのに。少し吐き出しておきたかったのかもしれません。聞かなかったことにしてください」
今の私が何を言えるのか、何をあげられるのか。
私自身満足する答えは出せない。
それでも。
「……リゼちゃんが背負ってるものの重さは、きっと私には理解出来ないと思う。だけど、どんな選択をしたとしても、私はリゼちゃんの味方でいるよ」
「蝶羽さん……」
「約束する。絶対護るって。だから安心して笑え」
私は自分の口角を指で上げた。
「笑顔は女の子の無敵の魔法なんだから」
リゼちゃんは一瞬ぽかんとして、それから小さく笑った。
「なんですかそれ」
「ニッシッシ。リゼちゃんのこと笑わせたいな〜って思ってさ。笑わせてやったぜ〜いぇーい」
「変な人ですね、蝶羽さんって」
「そんなとこが可愛いっしょ?♡」
なるようになる、じゃない。
なるようにしてみせる、だ。
それが今の私のやりたいこと。
今回も読んでくれてありがとうございます。
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