43.宵闇に狩る幽鬼
フォーグルを出発して三日目。
ここまで魔物に遭遇したことはあったけど、それ以外に大きな出来事は無し。
今日は湖畔で野営をする。
「リゼちゃん、お湯沸かしたから身体洗おー」
桶を何個か用意して、水は騎士さんたちに汲んできてもらった。
あとは【炎熱操作】でちょちょいのちょい。
ほーら即席お風呂の出来上がり。
「何故一緒に湯浴みを……」
「だって護衛だし。二人だと背中流したり髪洗うの楽じゃない?」
「それはまあ……」
敷居を作ってあるとはいえ、お姫様一人で裸にするのも気が引けるし。
一緒にお風呂とか好感度爆上がりイベントだし。
「リゼちゃんの髪、めっちゃキレーなんだけど。ナチュラルな銀髪マジうらやま」
「あなたの髪も綺麗ですよ。こちらでは黒髪はあまり見かけませんから」
「まぁたしかに私は髪の一本まで完ぺきにサイコーな美少女ではあるけど」
「高慢だと言われませんか?」
『傲岸不遜の厚顔無恥も付け加えてやれ』
お黙り。
「すん……いい香りの石鹸ですね」
「ハードハニー入りの石鹸だよ。旅の途中でもらったの。これガチでお肌ツルッツルになるから。てかトゥルットゥル。まだあるからリゼちゃんにもあげるね」
「旅……あなたは旅人だと聞きました。何故一人旅を?」
「リゼちゃんみたいな可愛い子に出逢うため、サ」
ウィンクばちこーん。
「…………」
「冗談だからジト目やめなー。やりたいことがいっぱいあってさ。だから旅してんの」
「やりたいこと、ですか?」
「服いっぱい買ってオシャレしたいし、自分でお店もやってみたいでしょ、おいしいものお腹いっぱい食べたいし、あと家欲しい。そんなにおっきくなくていいから、秘密基地みたいな自分だけの空間、みたいなの。あとねー」
やりたいことを指折り数えると、リゼちゃんはふと呟いた。
「そんなにたくさん、疲れたりしませんか?」
「ほぇ?」
疲れる……うーん。
「そう言われると、そんな風に考えたこと無かった。人間生きてれば、やっぱり後悔しないように生きたいじゃん」
「……あなたは、強い人なんですね」
「強い? 強いかぁ。それもあんまり実感無いかも」
でも、一人なら折れてた。絶対。
疲れた、もう無理、もうやめたーって。
一人じゃないからここまで歩いてこられたし、これからも歩いていける。
二人で一人だからね。私たちは。
「ま、ダラダラ自由に生きてるだけだよ。何にも縛られないし囚われない、みたいな?」
「気楽な人生ですね」
「ニシシ、そりゃお姫様に比べたらね。頭流すから目瞑って」
はいザパー。
「早くお風呂浸かりたいね」
「野営でこれだけさっぱり出来るんですから御の字です」
「はいタオル。身体拭いてる間に髪乾かしちゃうね」
【炎熱操作】と【風魔法】があれば、ドライヤーだってヨユーですよ。
「あなた、いったいいくつスキルを……」
「ひ・み・つ♡ リゼちゃんのスキルも教えてくれたら教える」
「興味が無いので結構です」
こいつ、髪乾かしてもらってる分際で。
「ふぃーさっぱりさっぱり」
「蝶羽」
「アレクセイさん? 覗きですか? うら若き乙女の湯浴みを害すとかぶん殴りますよ?」
「違う! 見回りの騎士が近くに魔物を発見したらしい。数名の騎士を残して我々は討伐に向かう。殿下を頼んだぞ」
「はーい気を付けて。晩ご飯の用意しときますね」
下手に刺激しない方が安全だと思うけど。
アレクセイさん的には、不安の種は摘んでおきたいんだろう。
「んじゃ私はご飯の用意〜」
宝物庫からレンガを取り出して、パパっと組んだら石窯の完成。
炭をおこしてる間に、小麦粉と砂糖、塩、オリーブオイルを混ぜて捏ねる。
生地が出来たら薄く伸ばして、と。
「リゼちゃんって好き嫌いとかある?」
「……トマトは少し」
「しゃらくせぇ! 好き嫌いするな!」
「え、えぇ?!」
好き嫌いとかお母さん許しませんよもう。
【風魔法】でトマトをミンチ。
ハーブを合わせてソースにし、伸ばした生地に塗りたくる。
ベーコン、適当な野菜、チーズを乗っけて石窯で焼く。
「よーし出来た。蝶羽さん特製のアウトドアピザ。ほいリゼちゃん。熱いから気を付けてね」
「えっと……」
「んぁ? あ、毒見? 今作るとこ見てたろ」
「い、いえ、そういうわけでは」
「しゃーないなぁ。いただきまーす。はーむっ、はちちっ、んふぅ〜うんまぁ〜♡」
チーズトロットロ。
生地もソースも適当に作ったのに、やっぱ私って天才〜。
「めっちゃおいしいよ。リゼちゃんも食べてみなって」
「ですが……」
「トマト嫌いな奴ってケチャップとかトマトソースはイケるんだって。ほらほら。まずかったら不敬って言っていいから」
「……い、いただきます。あむっ!」
勢いよくピザにかじりついたリゼちゃんは、咀嚼するにつれ寄せていた眉間の皺をほどいていった。
「おいしい……。おいしい、です!」
「だろー?」
「トマトの酸味と中のドロッとしたのが苦手だったんですが、これはすごくおいしいです! はむっ!」
「ニッシッシ、もっと食べなー。騎士さんたちもどーぞー」
「あ、ありがとうございます」
もっと焼こう。
次はガッツリお肉乗せて。
「てかコーラ飲みたー。ピザにはコーラすぎる」
「コーラですか?」
「なんだぁ? まさか王族はコーラなんて知らないって言うんじゃ」
「い、いえそうではなく。お酒を飲みたいと言うわけではないのだと思って」
最初に飲むのは信長とって決めてるしね。
「私まだ未成年だし」
「え゛っ?!」
「なんだその反応」
「大人っぽいので、てっきり歳上かとばかり……」
「私十七だが?」
「同い年なんですか?!」
「私が老けてるって言いてーのか!!」
「ち、違います! ただ大人っぽいのに騒がしい方だとは……その……」
「おいお姫様コラぁ! ガチ赦せん!! ピザ返せコノヤロー!」
「きゃあああ! ほへんははいほへんははい! ほっへひっはははいへふははい〜!」
めっちゃほっぺ引っ張ってやったぜ。
ちくしょー。
夜も更けてそろそろ眠たくなったけど、アレクセイさんたちはまだ帰ってこない。
「何かあったんでしょうか」
アレクセイさんがいて手こずるようなことは無いと思うけど。
何か嫌な気配はしてんだよね。
『おぬしも気付いておったか』
そりゃーね。
ただ距離が遠いのか存在感が無いのか、何かぼやけた気配で読みづらくて。
何だろ、魔物ではあると思うんだけど。
『警戒はしておけ。悪い時の勘は概ね当たるものじゃ』
了解。
腰の刀に手を添えると、茂みがガサッと音を立てた。
「アレクセイさん」
皆が戻ってきた……いや、何か様子が変。
「お帰りなさいアレクセイ卿。何か変わったことは」
「リゼちゃん離れて!!」
「え――――――――」
リゼちゃんが立ってたところに、アレクセイさんの大剣が振り下ろされた。
薄羽蜉蝣の【加速】で難を逃れたけど……
「これって……」
『正気の目ではない。何者かに操られておる』
すると、アレクセイさんの後ろに青白い靄が揺らめいた。
「あれ、レイス?」
『死霊か』
「生き物に取り憑いて生気を奪う魔物……そんな、アレクセイ卿たちが……」
レイス自体の対処は簡単だけど、取り憑いたのを引き剥がすのは、専用のアイテムか特別な魔法、それか太陽みたいな強い光が必要になる。
今はどっちも……
「う、うわあああ!!」
残ってた騎士の人たちが……!
「くっそ……」
「な、何を……!」
「一旦全員ボコして気絶させる。レイスが取り憑いてても、身体を動けなくしちゃえば操れない」
「それでは卿たちが!」
「わかってる、私だってアレクセイさんたちを傷付けることはしたくない。でも……」
「わ、私が何とかします! レイスを引き剥がすのは任せてください!」
「何とかって……」
リゼちゃんが手を翳した瞬間、鮮烈な光が闇を裂いた。
「これ……」
「今です!」
今の光でレイスが皆の身体から剥がれた。
「【第六天魔王】!!」
『応!!』
レイスに物理攻撃は効かない。
だけど魔力を纏った攻撃なら。
「ソニックエッジ!」
高速で移動しながらレイスを斬りつける。
斬られたレイスは霧散して消え、取り憑かれた人たちは力無くその場に崩れ落ちていった。
最後の一体を斬ってレイスの気配が完全に消えたことで、騒動は沈静したかに思えた。
「っし……。リゼちゃんナイスー……」
って、刀を降ろそうとした瞬間。
『右に避けよ蝶羽!!』
「ッ?!」
何かが私の肩を掠め、赤い血が視界の端で散った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
盛夏の候、暑すぎてまじふぁ○くの精神です。
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